第31話 合格パーティは大変です

 

 二人で千佳の叔母様の美容室に顔を出すと


「あら、久しぶりね雄二君。帝都大受かったんだって。おめでとう」

「ありがとうございます」


 先に来ているお客様の肩がぴくッとした気がしたけど気の所為かな。


「今日はショートマッシュ高槻君バージョンにしましょうか。髪の毛も伸びているし、あの髪型なら丁度いいわ。これも写真撮らせてね」

「はい」


 もうここに来ると俺はまな板の上に乗せられた魚と同じだ。



 叔母様が俺の髪を触りながら

「雄二君のカットサンプル凄い人気よ。男性からも女性からも」

「女性からも?」

「ええ、あなた素敵だから女性のお客様が君のカットサンプルを見たがっているの。それにまねできないかって」

「そ、そうですか」



 そういえば、今日も俺は窓側の椅子に座っている。何故か髪型が出来上がって行くほどに窓の外に女性が溜まり始めた。それをチラッと見た叔母様が

「ふふっ、雄二君人気あるわね。大学に入ったら千佳の心配事が増えるわね」

「叔母様、雄二は大丈夫です。心配していません」

「ふふっ、たいした自信ね、千佳。雄二君は大丈夫なの?」

「俺は、千佳さんだけですから」

「あらあら、ご馳走様」



 一時間半ほどして

「終わったわ。どうかな?」

「雄二、素敵」

「あ、ありがとう」


 その後、また三十分程写真を撮られた。その間に窓ガラスの向こうは女性で一杯だ。俺が窓側を見ると

―キャーッ!

―素敵!

―ここの専属モデルかしら。

―私も彼がいる時カットして貰おうかな。



「叔母様、また裏口から出ます」

「気を付けてね」

「あのいくらですか」

「いらないわ。雄二君のお陰で売り上げが伸びているのよ。また来てね」

「は、はい」



 参ったな。雄二はかっこいいし、頭もいい。背も高い。これは彼がどうのというより相当の防御をしないと。




 俺はその後、一条家に行くのだが

「千佳、手ぶらで悪いから何かお土産持って行かないと」

「そんな事、いいの。それより雄二が来てくれればそれが一番よ」

「そ、そうなのかな」


 俺の手は簡単な着替えが入っているバッグを持っている。千佳が絶対に帰さないと言っているからだ。でも俺は帰った方がいいと思っているんだけど。



 一条家に着いて千佳が門を開けて玄関まで行くと監視カメラでもあるのか、お母さんが玄関を開けて出て来た。

「ただいま、お母さん」

「お帰りなさい。千佳」

「また、お邪魔します」


 ジッとお母さんが俺の顔を見ている。

「雄二君なの?」

「はい」

「まるでどこかのモデルさんが来たのかと思ったわ」

「叔母様にやって貰ったの」

「道理で。さっ、中に入って」



 千佳とお母さんに連れられて家の中に入ると

「今日はリビングで待っていて」

「千佳はちょっと手伝って」

「うん」



 俺は、一人でリビングで待っていると千佳のお爺ちゃんが入って来た。

「雄二君、正月以来だの」

「はい、お久し振りです」

「帝都大受かったと聞いておる。めでたい事だな」

「ありがとうございます」


「千佳はどうだ?」


 どういう意味で聞いているのだろう。考えてしまっていると


「君は人の言葉の意味を考えるらしいな。良い事だが、あまり時間を空けると不信感を持たれる。その辺は良く身に付ける事だ」

「はい」

「儂の質問の意図だが、千佳と一緒にやっていけそうかと聞いておる」

「正直、一緒に過ごしていきたいと思います。でも僕自身が、まだ人間として出来ていない状況で無責任に彼女の人生を保障する言葉を口にする事は出来ません。でも努力はします」

「はははっ、それで良い。己を知る事が一番大切だ。良い答えだったな」


 俺テストされているの?


 千佳が戻って来た。

「あれ、お爺ちゃん、雄二と何話していたの?」

「何、他愛無い話だよ」

 そう言うとリビングを出て行った。


「何話したの雄二?」

「うん、他愛無い話」

 お爺ちゃんがそう言う以上、それでしかない。



 ふふふっ、まだまだだが、少しは期待できそうだな。




 千佳のお父さんが午後七時に帰って来て合格パーティが始まった。


「千佳、雄二君。帝都大合格おめでとう」

「ありがとうお父さん」

「ありがとうございます」


「二人はジュースだな。グラスに注いで」

「うん」


 千佳が俺に炭酸ジュースをグラスに注いでくれると自分のグラスにも注いだ。

「それでは千佳と雄二君の帝都大合格を祝って」

「「「「「「カンパーイ」」」」」」


千佳のお父さんがお酒の入ったグラスを持ちながら

「後二年で雄二君と一緒に飲めるな」

「お父さん、そんな事言って」

「いいじゃないか。事実なんだから。法にも触れてないぞ」

「でもう」


「あらあら、千佳はもう雄二君を家族に取られてしまう心配しているの?」

「そんなんじゃないけど」


「はははっ、千佳、いつ籍を入れるんだ」

「私達はもう十八だし、大学入学前に入れたいんだけど」

「えっ、そんなに早くか?」

「いいでしょう」


「あの千佳のお父さん。僕は出来れば大学を卒業してからでも遅くないかと思っています」

「どうしてだね?」

「僕も千佳もまだ十八才です。これから大学四年間勉強します。僕は弁護士資格も取りたいと思っています。

 そこでもまだ一人前ではありません。本来ならしっかりと千佳の生涯を支えていける人間になってからでも遅くは無いと思っていますが、それでは彼女が許してくれそうにないし、僕も気持ち的にはもっと早くしたいと思っています。だから大学卒業後が丁度いい時期かと思います」

「なるほど。千佳、雄二君はこう言っているが?」

「やだ、私は明日にでも籍をいれたい。ねえ、雄二もう良いでしょう」

「……………」


「あらあら、千佳がこんなに惚れてしまう男の子が現れるなんて想像も出来なかったわ」

「そうだな。私も驚いている。昨日雄二君の所に行かせたのが相当影響あったかな」

「そ、それは…」


 二人で下を向いて赤くなってしまった。


「はははっ、雄二君、どうじゃ。今は婚約だけ済ますというのは。籍を入れる、結婚するというのは大学卒業してからという事で。千佳もそれでどうじゃ?」

「お爺ちゃん…」


「しかし、婚約と言っても僕は家族もいないし、収入も無いので、何も出来ないですが」

「何構わん。形だけで良いんだ。婚約指輪はこちらで用意しよう。千佳それでいいか」

「うん」


 これで雄二は私の物。もう離さない。婚約していれば、彼に誰が寄って来ようと弾き返せる。

「お父さん、お願いがあるの。婚約指輪は、派手でなくてもいいから毎日着けれる物が良い」

「あらあら、雄二君の虫よけね。それはいい考えだわ。雄二君、カッコいいし、背も高いし、頭も良いんじゃ、周りの女の子が放っておけないだろうから」

「ありがとう、お母さん」


「雄二君、話が勝手に進んでしまっているが、これでどうだね?」

「はい、千佳と婚約します」

「良く言ってくれた」


「それでは、二人の婚約に乾杯だ」

「「「「「「カンパーイ」」」」」」



「それと…。お父さん、お母さん。私、雄二と一緒に生活したい」


 流石にご両親とも目を丸くした。


「一緒に生活って同棲するという事か?」

「うん」

「流石にそれは、まだ早いんじゃないか」

「そうよ。いくら婚約したからと言っても、千佳は大学生でしょう。勉強だって大変よ。家事と勉強を両立するのは難しいわ」


「雄二は、やっていた」

「千佳、僕の生活と比べたらだめだよ。それに大学に入って色々覚えなければいけない事も一杯有る。直ぐに同棲は僕も反対だ」

「雄二は、私と一緒に居るのが嫌なの?」

「そんな訳ないじゃないか。大学生活の間は、ご両親の元で生活するのが千佳の為だよ」

「やだ、私は雄二が、あんな食生活をしているのを見ていられない。私が雄二の食事を作る」


「あらあら、千佳は、そこまで雄二君の事を。そこまで言うなら、土曜と日曜だけ許してあげる。お父さんどうかしら?」

「ああ、私も驚いたよ。そうだな。週中はやはり勉強をして、土日だけ雄二君の家というのもいいかもしれない。そうだ、雄二君が土日我が家に来てもいいぞ」


「いえ、流石にそれは。それに土日は掃除とか洗濯とか週の食事の買い物とか色々有って」

「雄二君凄いわね、偉いわぁ。それなら土日だけ千佳が行くのはいいかもしれないわね」

「そうだな。婚約もする事だし、その位は良しとするか」

「ほほほ、曾孫が早く見れるかもしれんな」

「お爺ちゃん!」


 二人で下を向いて顔を赤くしてしまった。




 時間も過ぎ、午後九時になってしまった。

「あの、僕そろそろ」

「泊って行きなさい。もう婚約の約束もしたんだ。何も問題ない。母さん、客間が空いているだろう」

「ええ、もう準備してあります」


 はぁ、これも予定通りか、流石警視庁捜査一課長と元公安調査庁の家族だ。俺なんか手の平の上の駒という事か。



 皆が寝静まった午前零時過ぎ。ゆっくりとドアが開いた。俺がそっちを見ると

「千佳」

「ふふっ、来ちゃった。一緒に寝よう」

「でも」

「我慢出来なくなったら、声を出さないから。それに持って来てあるし」


 やっぱり千佳も警察官僚一家の娘だった。




「母さん、孫は思ったより早く見れそうだな」

「そうですね。あなた」


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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