第29話 大学入試

 

 俺と千佳は、共通テストが終わった後、選抜申し込み開始の日に直ぐに申し込みを行った。

 二月中旬に発表される一次選抜を通れば、二次試験だ。一次選抜は二人共間違いないと思っているので、残り期間少ないけど、国立難関大学に特化した問題集を買って、二人で勉強した。


 一月中は登校しなければいけないが、一週間も無い。学校が終わると俺の家で午後七時まで一緒に勉強した。


 季節も寒さがピークになっている。勉強が終わる時間は、とても寒い。駅に千佳を送りながら俺のコートのポケットに手を入れてくる彼女に


「後一ヶ月だ。俺も千佳も大丈夫だとは思っているけど、気の緩みは最大の敵だ。最後まで一緒に頑張ろう」

「うん、でも本当に雄二って真面目を絵に描いた様な人間ね」

「そうかな。家族がいなくなって心に余裕が無かった俺は、学校で他の生徒が恋愛脳を活発化させている姿を見て、俺には向かないと思った。

 でも勉強は好きだったから、遊びに行くより図書室や家で勉強する方が楽だった。勉強は一人でも出来るからな」

「雄二…」


 雄二が、家族が突然亡くなり、親戚からも裏切られて一人で元の家に帰って来た時の心情を思うと今、彼が語っている言葉の心の底にある寂しさが見えてくるようだ。

 彼が異性よりも勉強、遊びよりも勉強に夢中になっている理由が今になって分かるような気がした。


「でも、今は少し違う。いつも側に千佳が居てくれる。千佳と一緒に勉強できる。そういう意味では千佳様様かな」

「ふふっ、雄二、良かったね。私も同じよ。大好きな雄二といつも一緒に居て、いつも一緒に勉強出来る。嬉しいわ。だから絶対に二人で合格しようね」

「ああ、絶対にだ」



 二月に入ると自由登校だ。千佳は、冬休みと同じ様に午前八時には俺の所に来て一緒に朝食を食べて、午前九時には勉強を始めた。


 午後十一時半に昼食の支度をして、食べ終わると午後一時から午後三時まで勉強した。この季節はまだ暗くなるのが早いので午後四時には帰って貰った。



 そして二月の半ばに大学のホームページで一次選抜の結果が公表された。勿論通った。試験会場が千佳と一緒だったので助かった。また一緒に行ける。





 今日は二次試験の初日。

 二次試験は二日間に渡って行われる。試験会場に行くと周りが皆頭良さそうな人に見えてくるから不思議に思った。


 二人で駅から試験会場歩いて行く時

「あれ、竜馬じゃないか?」

「あ、本当だ」


 俺は小走りに彼の傍に行って

「竜馬」

「おお、雄二か。一条さんは?」

 俺はすぐ後ろを見て一緒だという事を分からせると


「竜馬もここ受けるんだ。どこの学部?」

「ふふっ、法学部だ。もう少し雄二達と一緒に居たいと思ってな」

「そうかぁ。嬉しいよ。一緒にがんばろうぜ」

「ああ」



 俺は千佳の傍に戻ると

「竜馬、法学部狙いだって」

「へぇ、私達と同じなんだ」

「志望理由は、もう少し俺達と一緒に居たいからだって」

「ふふっ、いい友達持ったわね」

「ああ、俺もそう思うよ」



 一日目の試験が終わると千佳は俺の家には来ないで自分の家に戻った。体調管理と不慮の事故を防ぐためだ。



 そして二日目も終了した。全て回答した。詰まった問題も無かった。大丈夫だと思うが結果を確認するまでは気が緩めない。



 試験会場の教室を出ると千佳が近付いて来た。

「雄二どうだった?」

「まあまあだ」


「ふふっ、雄二がそういう時は問題ないって事ね」

「千佳は?」

「まあまあよ」

「そうか」


 つい二人で笑ってしまった。周りの人が変な顔で見ている。



「雄二、そう言えば、髪の毛大分伸びたわよね。目の前も隠れているし。後ろもボサボサよ」

「ああ、でも発表見るまでは切らない」

「らしいね」


「でも取敢えず、受験勉強からは解放されたと思いたい」

「大丈夫よ。私達なら」




 そして合格発表の日、俺はノートPCをリビングに持って来て午前十二時を待った。千佳も傍にいる。



 午前十二時、帝都大のホームページに合格者が発表されると


「「二人共有った!!」」


 その時、インターフォンが鳴って郵便局の人が速達を持って来た。


 同時に千佳のスマホが鳴った。

「あっ、お母さんだ」


「もしもし、お母さん。…あっ、うん。ありがとう。取敢えず帰るね」


「どうしたの?」

「お母さんが、私にも速達が届いたって。ふふっ、やったね雄二」



 思い切り千佳が抱き着いて来た。

「雄二、約束だよ。でも今すぐはしない。手続き終わってからにしよう」

「ああ、千佳も似て来たな」

「ふふっ、嬉しい。今から帰るね。明日は朝からしっかりと来るから。でも勉強は無しよ」

「わ、分かった」


 何故か千佳の目の奥がハートになっているのは気のせいだろうか?




 私は、急いで家に帰るとお母さんと祖父母が待っていた。


「おめでとう千佳」

「千佳ちゃん、おめでとう」

「お爺ちゃんも嬉しいぞ。千佳おめでとう」

「ありがとう、お母さん、お爺ちゃん、お祖母ちゃん」


「ところで雄二君はどうだったの?」

「もちろん合格よ。彼は私より優秀だもの」

「ほほほ、これで一条家の血筋は守られるのう」

「お爺ちゃん、まだ早いって」


「でも、彼は合格したら約束守ってくれるんだろう?」

「どうしてそれを?」

「ああ、慎之介から聞いた。みんな知っている。正月に来た時、慎之介が雄二君と話していたからな」


 私は下を向いて耳まで熱くなったのが分かった。


「そうだ、雄二君も呼んで合格パーティしないとね」

「ありがとう、お母さん。でも雄二に聞いてみる」





☆雄二の親戚高原家


 雄二達の合格より二週間前に遡ります


「見て見て、お父さん、お母さん。合格したわよ」

「えっ、本当、千代子」

「うん、用意は出来たわ」


 お父さんが入学案内を見て難しい顔をしている。

「おい、千代子。ここの学費とても高いんじゃないか」

「そんなことないよ。他の学部より安いよ」


「そういう事じゃない。この学費は家で払うのは厳しいぞ」

「えーっ、でも受かったんだから何とかしてよ」


「お父さん、学資保険にも入っているし、千代子には奨学金申請して貰って、バイトもして貰えば、何とかなるわ。もちろん、私も仕事に出ます。家事は手伝って下さいよ」

「……………」


 千代子がこんな大学に受からなければこんな事にならなかったのに。


「千代子、雄二を何とか出来るんだろうな」

「任せてよ。お父さん」


 ふふっ、待ってらっしゃい、高槻雄二。絶対私の虜にしてあなたを私の財布にしてやるから。




☆雄二の家に戻ります。


 俺も千佳も合格した。まだ司法試験とか有るだろうが、真面目にやればなんとかなるだろう。

 一生勉強になりそうだが、俺には向いているかもしれない。さて、取敢えずWEBで出来る手続きは済んだ。そうだ、前田弁護に連絡しないと。


『もしもし高槻です』

『前田だ。どうしたんだ。何か有ったのか?』

『問題では無いですが。帝都大学に合格しました。入学時の費用の事連絡をしようと思いまして』

『おう、でかしたな雄二君。学部は何処だ?』

『法学部です』

『それでは将来は弁護士か』

『はい、そのつもりです』

『そうか、そうか。これは手強い弁護士になりそうだな』

『まだ先の事ですけど』

『ははっ、楽しみにしている。費用の件は後で詳しく教えてくれ』

『分かりました。直ぐにまた連絡します』




 私は、雄二君からの電話を切ると

 あの子はいきなり家族が目の前からいなくなり、親戚に酷い嫌がらせをされ、慰謝料まで取られてしまった。


 最初、あの子を見た時は、生きている人間とは思えない程の死んだ目をしていた。あそこからよくここまで立ち直ってくれたものだ。

 もう少しだな。あの子が独り立ちできれば、俺の役目も終わる。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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宜しくお願いします。

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