第28話 大学の試験は目の前なのに

 

 共通テストの翌日は自己採点日になった。問題冊子に写してある自分の解答と公表された答えを比べて総合点を出す。

 これで志望校を何処にするか決まる。偏差値も換算できるが、共通テストの点数は大学の試験の時の点数に加算される。こちらのが重要だ。



 悲鳴を上げている子も居れば、やったぁと騒いでいる奴もいる。俺は、やはりまあまあだった。流石に全教科満点なんて甘かった。

 

 俺は九百点満点中、八百七十点。


 志望大学の学部の共通テスト総合点は最低が四百八十点から最高が八百八十五点と聞いているので、問題はなさそうだが、詰まらないケアレスをした自分が許せなかった。


 竜馬が俺の方を向くと

「雄二、どうだった?」

「まあまあだ」

「竜馬は?」

「駄目」

「見せて見ろ」

「同時だぞ」


 二人で総合点だけ出すと、俺の点を見た竜馬が

「雄二は、おかしいよ。絶対に頭がおかしい。普通こんな点取れない」


 俺も竜馬の点見たが、俺より百点位少なかった。

「でも、お前、あそこの理三行けるじゃないか」

「俺は医者になる気は無い。あそこは金がかかる。どこにしようか雄二」

「お前が決めろ」


 なぜか、隣で俺達の会話を聞いていた女子が白目を出して口から泡を吹いていた。どうしたんだ?


 俺と竜馬が騒いでいると千佳が寄って来た。

「雄二、どうだった」


 そのまま点数を見せると

「ありゃぁ、やっぱり負けたか」

「千佳は?」


 八百三十点だ。凄い。

「凄いじゃないか千佳」

「雄二って偶に本当に人、馬鹿にするときあるよね」

「えっ、なんで?素直な気持ち言ったのに」

「八百七十点取っている人が私の八百三十点見て、凄いじゃないかは絶対に馬鹿にしているじゃない」


―えーっ!!!

―あの二人宇宙人だよ。顔は私達と同じだけど、絶対!

―そうだ、そうだ!


 千佳が口で言っちゃうから。口に出せばこうなるって。


「そんなつもり絶対に無いから」

「じゃあ、今日証明して貰うからね」

「へっ?」


 どういう意味だ?



 私深山加奈子。雄二と一条さんの話を聞いて自分の得点に目を覆いたくなった。勿論選択科目が違うから、総合得点で単純比較は出来ないけど、それにしても…。私これで入れる大学あるのかな?


 雄二と付き合っていた頃の彼の真面目さを嫌と思わなければ、今頃あの会話に入れていたかもしれないのに。私ってほんと馬鹿だな。今度生まれてきたら真面目に勉強する人生を歩みたいよ。




☆雄二の親戚の高原家です。


「お父さん、私、東京の私学受ける」

「はぁ?何馬鹿な事言っているんだ。お前の頭じゃ、地元の私立が限界だろう」

「見てよ、これ」


 私は共通テストの得点を見せた。


「何だこれ?」

「これは大学入学共通テストって言って、全国の高校生が一斉に受けて自分が入れる大学を確認するの。見て私丸山大学受けれるわ」

「そりゃ、誰でも受けれるだろうけど、受かるのかよ」

「大丈夫。この点数なら、何とか入れる」


「千代子、東京の大学に入れられるお金なんて無いわよ。住む所だった高いし。家から通える地元の大学にしなさい」

「お金は大丈夫よ。住まいはあいつの家にするわ」

「でも、雄二君にはフィアンセがいるって言っていたじゃない」

「ふん、あんな女追い出してやる。私だってお化粧して、少し良い洋服着れば、あいつなんかに負けないわ。だからお母さんお金頂戴」


「「……………」」


 娘の言葉に開いた口が塞がらなかった。でも東京の大学に行かせれば雄二君と会う機会も多くなる。学資保険も有るし、奨学金も申請すれば何とかなるかしら。



「分かったわ。千代子。あまりお金掛からない様にしてね。お父さんは副業でもして。私もするから」

「えーっ、お前、これ以上俺に働けって言うのか」

「じゃあ、私がその分働きに出るから、あなたは家事を手伝ってよ」

「そんな事今更言われても…」



 ふふっ、雄二待ってなさい。あなたを私の虜にして見せる。それであの慰謝料を取り戻すんだ。後は、ごみの様に捨てればいい。まあ、カッコいいし、頭も良いから、そのまま居て、あいつに働かせるのもいいかもしれない。



☆東京の雄二の家に戻ります。


「雄二、さっき学校で私の事馬鹿にしていないって言ったよね。証明して?」

「…証明しろって言われても」

「私を愛している、馬鹿になんて絶対にしていないって証明」


 千佳の頭で勝手に俺の彼女に対する恋愛観が進んでいる。まあ確かに彼女の事はもう好きだと自覚はしているけど。

「どうすれば?」

「考えて」


 俺に恋愛脳なんて無い。男女のそういうやり取りはその手の本でも読まないと分からないんだろうな。ここはどうすれば。あれしかないか。


 俺はリビングで隣に座っている彼女を抱きしめるとゆっくりと唇を合わせた。


 えっ!千佳が舌を入れて来た。何なんだこれは?でもなんか気持ちいい。


 優しく彼女の背中に手を回して抱き締めるとさっきより強く口付けして来た。うーん、これは負けじと彼女の口の方に舌を入れて合わせていると、俺の背中を思い切り抱きしめながら


「ぷふぁっ。雄二、濃すぎる」

「だって千佳が最初に」


 俺の体を押し倒して来た。そして両肩を掴むと

「今はこれでいい。でも三月の発表まで長すぎるよ。ねえ雄二。入試終わったらしよ」

 

 私は無性に雄二に抱かれたくなっている。去年のイブの時、勇気出して、ベッドの中で何も着ずに彼に寄り添ったのに、何もしてくれなかった。

 あの時から私は彼と体を合わせたくて堪らなくなっている。多分して貰えなかった事に対する心の欲求何だろうけど。


「駄目、千佳のお父さんとも話している。大学の合格を確認してから」


 千佳に思い切り抱き着かれた。


「雄二。少しだけこうさせて」


 俺は仕方なく千佳の背中に手を回しながらゆっくりと頭を撫でた。彼女が気持ちよさそうな顔をしている。



 何分、何十分経ったのか分からないけど、彼女が俺の体から離れると普通に姿勢を正して、

「雄二、学部どうするの?」

「法学部」

「良かったぁ。警察官僚は帝都大法学部卒業が必須なのよ。お父さんもお爺ちゃんもあそこ出身」


 なるほど、警察庁の人事は帝都大法学部で占められているからな。そういう事か。


「雄二も法学部なら同じ職場にいけるね」

「行かない。俺は弁護士になって前田弁護士の所で働くつもりだ」

「えーっ、でもいいわ。雄二なら優秀な弁護士になるだろうし、お父さんもお爺ちゃんもあそこ出身だから喜ぶわ」


「なあ、ちなみにお母さんは、どこの大学?」

「同じよ。同じ学部。お祖母ちゃんも」


 俺、逃げようかな。怖くなって来た。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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