第26話 お正月に招かれざる客 その二

 

 昨日は、千佳と初詣に行った後、もう一度一条家に戻った。初詣に行く前は緊張して刺身一切れと炭酸ジュースを一杯しか飲めなかった事で、神社からの帰り道、俺のお腹が盛大にオーケストレーションし始めてしまった。


 千佳は、それを聞いて

「雄二、お雑煮食べてないでしょう。一緒に食べよう」


 と言って、一条家でお腹一杯お雑煮とお節を食べさせて貰った。


 その後、千佳の部屋に連れて行かれた。白を基調とした広い部屋で、机とベッドの他に、洋服ダンスが三つ、本棚が二つあった。


 二人きりだったので、ちょっとだけ?唇を合わせた。勿論、俺の唇に着いたルージュはしっかりと拭き取って貰ったけど。


 午後四時位になって夕飯も一緒に言われたが流石にそれは遠慮した。帰り際に千佳のお母さんからお節が入ったタッパを渡され、明日の朝食べなさいと言って持たせてくれた。言葉が出ない位嬉しかった。


 元旦は、こうして素敵な一日を過ごす事が出来た。




 翌日は、正月特訓の二日目。俺は午前六時半に起きて、顔を洗い身支度を整えると母さんの部屋に入って

「父さん、母さん、昨日は千佳の家に行って、美味しい料理を食べさせて貰った。向こうの両親は俺の事を随分認めてくれたけど、俺はまだ千佳の一生を責任持つだけの器量は無いと思っている。でも責任を持てる人間になりたいとも思っている。だからそっちから応援してね」


 手を合わせながら心の中でそう言うとキッチンに戻って、昨日千佳のお母さんから貰ったお節を温めたり皿に盛った。


 お餅はオーブンで焼けると分かったので、焼いて磯部にした。結構美味しい。一人暮らしになって、お正月にこんなご馳走食べれるとは思ってもみなかった。去年まで食べた加奈子の家のお節も美味しかったけど。あいつ勉強しているかな。



 今日も午前八時半に家を出て塾に向かった。昨日の事もあるので千佳と駅で待ち合わせして塾に行った。



 午前中二科目の予定講座も終わると

「雄二、今日はどうする?」

「うん、家に帰って勉強」

「私も行って良いかな?」

「いいよ」



 雄二は、去年のクリスマスイブ、そして昨日元旦に我が家に来て随分、私に対する接し方が変わった。

 別にべたべたする訳じゃない。私のお願いをスッと受け入れてくれる。お父様から言って貰った事が結構効果有ったのかな。



 俺の家に帰りながら

「そう言えば、今日のお昼考えてない。俺一人ならカップ麺でも良かったんだけど、千佳には食べさせられないし」

「ふふっ、偶には私も食べてみようかな」

「えっ、千佳の口には合わないんじゃ」

「そんなことないよ。まだ食べた事ないけど」

「じゃあ、駅のスーパーで買っていく?」

「うん」



 俺達はスーパーに寄って、カップ麺とレトルト食品を買うと家に戻った。俺は直ぐに電気ポットでお湯を沸かし、カップ麺のビニールを取って準備していると千佳はダイニングの椅子に座りながら


「雄二、やっぱり私が食事作ろうか?」

「いや、もうカップ麺開けちゃったし」

「そうじゃなくて毎日の食事。共通テスト終わったら、学校も自由登校だし、塾も無いからここで一緒に勉強しようよ」

「勉強は、いいけど泊りは駄目だよ。大学合格が決まるまでは」

「雄二の堅物!」


 カップ麺を食べながらそんな話をしているとインターフォンが鳴った。誰だろうと思って玄関の監視カメラを見ると


「誰だ?あっ、まさか!」

「どうしたの雄二?」

「千佳、直ぐにカップ麺シンクに入れて。急いで」

「わ、分かった」


「家族が事故を起こした後、半年だけ居た親戚の人が来ている」

「えっ?!」

「とにかく開けるから千佳はそのままにしていて」


 もう一度インターフォンが鳴った。


 門の鍵を開けて入って貰うと玄関のドアを開けた。


「えっ、ここ高槻雄二の家じゃないの?」

「そうですが」

「あんた誰?」

「雄二です」

「え、え、ええーっ!ど、どうして。雄二はもっと陰キャで、助兵衛なブ男だったのに」

「用がないなら帰って下さい」

 人の顔を見るなりなんて事言うんだ。


 俺は玄関を閉めようとすると

「ちょ、ちょっと待ってよ。用があるから来たのよ」

「今、来客中です。帰って下さい」


「雄二どうしたの?」

 千佳が声を掛けて来た。



 私、高原千代子。雄二の所に来るのも嫌だったけど、玄関から現れた男は雄二と言っている。モデル顔負けのかっこいい男だ。私にドストレートなんだけど。


 帰されそうになったので、玄関のドアを掴んで閉じるのを止めたら、雄二の後ろから私より頭一つ高い位の凄い美人が現れた。これどうなってんの?


「とにかく、雄二君、上がらせて。田舎から出て来て大変だったんだから」

「…分かりました」



 俺は仕方なく高原の叔母さんと娘を家の中に入れた。そしてリビングに通してソファに座って貰うと、千佳と一緒に反対側のソファに座った。


「早速ですが高原さん、今日はどの様な用件で来たんですか?」

 俺は事務的に聞いた。


「あなたが、高原の家をいきなり飛び出したんで凄く心配したのよ。直ぐに戻って来るかと思ったら戻ってこないし。

 あれから二年も経って心配していたのよ。今年はあなたも高校卒業だし、独り身では色々困るかなと思って。

 それでね、千代子も今年高校卒業だし、雄二君の生活の面倒を見させようと思って連れて来たの」


「俺は何も困っていません。お帰り下さい」

「そうは言っても食事とか一人なんでしょう。一人だと簡易食品が多くなるから。千代子は、料理は上手だし洗濯や掃除も良く出来る子よ」

「結構です。一人でやれます。それに俺は大学に行くので、娘さんが居ても困ります」

「大学って何処の?」

「帝都大です」

「て、帝都大!」


 うそ!私なんか地元の私立なのに。比較にならない。頭はいいし、カッコいいし、金もある。三月一杯までに垂らし込めば…。



 雄二の隣で高原とかいう親戚の人が好き勝手な事を言っている。流石に頭に来た。

「雄二の世話と言われましたけど彼の世話は私が見ます。お引き取り下さい」

「あんた、誰よ。身内の話に口突っ込まないでよ」

「私は一条千佳。雄二のフィアンセです」

「フィ、フィアンセ?」

「はい、結婚も決まっています。雄二と私は同じ帝都大に行きます。あなた達の出る幕はありません」


 千佳が好き勝手な事言っているけど、この親子を追い返すにはちょうどいい。


「雄二君、この人言っている事は本当なの?」

「はい、本当です。結婚する事も決めています。だから俺の面倒は全て彼女に見て貰っています。高原さんのお世話は要りません。もうお帰り下さい」

 千佳が少し目を丸くしたけど、バレていない様だ。



「おかあさん。私、帰らない。雄二の面倒を見る」

「無理な事言うと警察呼びますよ」

「け、警察。わ、分かったわ。今日は帰るけど、また来ます」

「来なくて結構です」

 なんか、簡単に引き下がるな。やはり警察という言葉は威力があるようだ。



 なんとか高原親子を玄関から外に出し、門から出たのを見て、門の鍵を掛けた。



 高原親子の会話。

「お母さん、話が違うじゃない。何あれ?」

「私も知らなかったわよ。とにかく今日は一度帰ってお父さんと相談しましょう」

「うん」


 あんな女に雄二を取られてたまるか。あんなにかっこよくなって、大学は帝都大。金持ち。渡して堪るか。




 高原親子が帰った。あれで諦めてくれるんだろうか。とっても不安だ。それに千代子は、有もしない嘘をでっちあげて俺を追い出す口実作ったじゃないか。


 リビングに戻ると千佳が俺をジッと見ている。なに微笑んでいるんだろう?


「ふふっ、雄二。心を決めてくれたのね。嬉しい。ねえ、大学入る前に籍入れよう。お互いもう十八なんだし。生活も一緒にね」

「えっ、それって…」

「雄二言ったよね。もう結婚も決めているって」

「あれは、あの時、あの二人を追い返す為の方便で…」

「駄目!男に二言はないの!」


 また口付けされてしまった。やっぱり千佳のお父さんに大学出るまで待ってってお願いしようかな。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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