第24話 お正月に招かれざる客

 

☆場所は雄二の親戚の家になります。


「お父さん、家計きつきつよ。何とかならないの?」

「そんな事言ったってしょうがねえだろう。本当は雄二の慰謝料が入って来ていれば、もう少し楽出来たんだけどよ。あの弁護士が持って行っちまったからな」

「でも、まだ二年よ。あんな大金、まだ全部使ってないでしょ。どうにかならないの?」

「そうだな。あんときゃ、千代子使って上手く行ったと思ったんだけどなぁ」

「じゃあ、もう一度、あの子使って横取りすりゃいいんじゃないの。今度はもっと上手くやってさ」

「そうだなぁ」



 夕方になり娘が高校から帰って来ると

「ただいま」

「お帰り千代子、ちょっと話があるの」

「えーっ、やだぁ、これから遊びに行くんだけどぉ」

「いいから来なさい」


 千代子が、掘りごたつの居間に来させられると

「千代子、二年前に家族が亡くなってうちにきた高槻雄二って覚えているか?」

「ああ、あの陰キャ、助兵衛、ブ男ね。あれがどうかしたの?」

「雄二の所に行って、もう一度丸め込めないか。あいつが持っている慰謝料をもう一度取り返したいんだ」

「嫌よ。あんな男に近寄る位なら死んだ方がましだわ」

「成功したら十万やるがどうだ?」

「じゅ、十万。だ、だったらやる。どうすればいいの?」




☆東京の雄二に戻ります。


 俺は、冬休みに入ると千佳(一条さん)と一緒に塾の冬季講習に参加していた。この中に元旦と二日にある正月特訓が含まれる。講習はどちらも午前中二科目だけだ。



「明日は、元旦だね。明日、うちに来る約束だよね?」

「そんな約束したっけ?」

「した。もう。とにかく明日、正月特訓終わったら、うちに来て」

「う、うん」


 正月かぁ。千佳に会わなかったら、今年は一人だったんだろうな。去年までは加奈子の家に行けたけど。


 

 今日は大晦日。塾で午後四時まで自習室で塾のテキストの復習、予習をした後、千佳と別れて自宅に戻った。


 俺にとっては残念な事に髪の毛は、なんとか俺?バージョンのままだ。千佳と駅で別れてからの周りの視線が痛いけど、最近は流石に慣れて来て、周りの視線を流す様にしている。



 今日の夜は、カレーチャーハンと卵スープ。それに小さめのカップ麺。一応年越しそば…のつもり。



 今日は、先にお風呂に入って、さっぱりしてから、チャーハンをレンジで温めながら少し多めにお湯を電気ポットで沸かす。


 先にカップ麺を簡単に食べて…美味しいとは言えない。普通サイズの方が美味しい気がするのは気のせいか?


 それからカレーチャーハンと卵スープを食べた。テレビを見ていると大晦日特番をやっているけど、普段歌番組とか見た事無い俺は、出演している人達が誰なのかさっぱり分からない。


 午後九時位になってテレビを消すと自分の部屋で冬休み用に買った問題集に取り掛かった。勉強をしていると集中出来て何も気にならないからいい。




 翌日、元旦。

 俺はしっかりと午前六時に起きた。顔を洗い、朝から身だしなみを整えると母さんの部屋に行って

「父さん、母さん、沙耶。明けましておめでとうございます。今年は大学受験のある年だから頑張るね。

 今日は、塾が終わった後、千佳の家に行って来る。遅くはならないと思うから」


 俺は、もう一度、三人の遺影をジッと見ると母さんの部屋を出た。



 去年、スーパーで買っておいた正月セットを冷蔵から出して、適当に皿に盛りつけるとテレビを見ながら元旦の朝食を摂った。



 午前八時半。今日は千佳の家に行く為に、千佳が選んだ洋服では無く、紺の厚手のスラックスと白のシャツ。それにグレーの薄手のセーターを着て紺の冬用ジャケットを着た。靴は黒のスニーカーだ。

 

 少し寒いけど、凍えるほどではない。駅に行く途中、深山家の家族と会った。

「雄二君、朝からお出かけ?」

「はい、塾です」

「こんな朝早くから。そう、偉いわね」

「いえ」


 加奈子は何も言わず俺の顔を見ている。だけど俺は彼女に何も言う事はないので、それだけ言うと俺はその場を立ち去った。もう深山家とは縁が無いだろう。少し寂しい気もするが仕方ない。



 塾の入口では門松が置かれて正月の雰囲気を出していたが、元旦から来る人は気合が入っている人ばかりだ。俺も浮かれてはいられない。


 教室に入って、千佳を待っていると

「高槻君、明けましておめでとう。今日塾の後何か用事ある。無かったらお話でもしない?」

「えっ?」

 いきなり知らない女の子二人に声を掛けられた。


「いや、塾終わったらちょっと用事がるんだ」

「そうかぁ。残念だな。じゃあ、今度さぁ…」



「雄二、おはよう。どうしたの?」

「この子達から塾終わったら話をしないかって誘われた」

「あなた達、雄二は今日塾終わったら私の家に来るの。残念だけど、あなた達とは遊んでいられないの」

「「……………」」


 千佳のきつめの言い様にスゴスゴと離れて行った。


「全く、目を離すと直ぐにこれなんだから」

「千佳、もうちょっと優しく言えないの?」

「あのくらいはっきり言わないといけないの。雄二は優しすぎるの」

 確かに俺は、千佳の様な言い方は出来ない。



 午前中の二講座が終わり、俺は千佳と一緒に彼女の家に向かっている頃



「確か、この辺じゃあ、なかった?」

「お母さん、私はあいつの家に来た事無いから分からないわよ」

「お父さんも来て貰えば良かったかな」

「それは無理よ。町内会の何とかで用事が一杯有るでしょ」


「あっ、お母さん。ここ高槻って書いてある。下に雄二の名前も」

「本当だ。こんなに立派な家だったかしら」

「とにかく、インターフォン鳴らしてみて」

「いるかしら」

「いるでしょう。あんな陰キャ、ブ男なんか、どうせ部屋でゲームでもやっているんじゃない」



「おかしいわね。出ないわ」

「もう一度、押してみる」


 何度か押したけど出て来ない。そのうち、隣の家から出て来た女の人が

「その家の人は居ませんよ。今出かけています」

「そうなんですか」


「お母さん、出かけているって。もう帰ろう」

「そうは行かないわ。せっかく東京に来たんだから、明日また来ましょう」

「えーっ、余分な出費。あの馬鹿が居てくれれば、ここに泊ったのに」



 あの人達誰かしら。雄二君を悪しげ様に言うなんて。あんまり関わらないほうがいいみたいね。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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宜しくお願いします。

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