第22話 クリスマスイブは二人きり
今日は、日曜日。世の中はクリスマスイブだ。でも俺には関係ない…はず?
俺は、午前八時に起きて朝食を摂ると、急いで洗濯をして掃除をした。見られたく無い物を再度確認して、父さんの書斎に入れると周りを見回した。
キッチン、ダイニング、リビング、そして万が一の俺の部屋。ゲームとかやらないからデスクトップPCとノートPCが一台ずつあるだけだ。母さんの部屋を覗けば父さんの書斎と寝室、それに妹の部屋に彼女が入る事はない。
本棚も変な本は買っていない。ちょっとだけ不味いのは父さんの書斎に入れたし。これで問題ない筈だ。
洗濯物をベランダに干すと午前十時だ。もう一度スーパーに行って年始分の食糧を買っておく必要がある。
昨日の様に、帽子を目深にかぶり、エコバックを持って外に出ると加奈子のお母さんに会った。
「雄二君、加奈子の事、本当にごめんなさい。…こんな事いうのもなんだけど、加奈子の事許してあげて。お願いします」
腰を九十度に曲げて思い切り謝られた。
「あの、おばさんが、謝る事では無いです。それに加奈子自身の問題ですから。俺はもう関係無いです。それじゃあ」
加奈子のお母さんは、俺がその場を離れるまで腰を曲げていた。
あんなに良いご両親なのに。
俺は一人だと言っても、やはり正月は正月。スーパーでお正月セットとそれの追加品を買ってレジに行こうとするとレジの前の棚にショートケーキが置いてあった。
一瞬買おうと思ったけど…、止めた。クリスマスは俺には関係無い事。俺に来るサンタはもういないんだ。
帽子を目深にかぶっているお陰で余計怪しまれてしまったけど、変に視線を浴びるよりはいい。そのまま急いで家に帰ると買って来た品を冷蔵庫に入れた。
リビングで好きな本を読みながらのんびりしていると
ピンポーン。
玄関の監視カメラを見ると一条さんが立っている。大きなバッグを持っている。勉強道具かな?
門のロックを部屋の中から外して玄関を開けると
「ちょっと早いけど来ちゃった」
確かにまだ午前十一時前だ。
「全然構わないよ。上がって」
「ありがとう。お邪魔しまーす」
「はははっ。俺しかいないから」
「でも礼儀でしょ」
取敢えず、大きなバッグはリビングに置いて貰う事にしたら、
「雄二、今日のお昼は私が作ってあげる。昨日の内に仕込んだものもあるから。キッチン使って良いかな?」
「うん、それは全然構わないけど」
一条さんは、大きなバッグからそれらしい小さなバッグをいくつか取りだすとそれをキッチンに持って行った。
「雄二、フライパンとか使って良い?」
「いいけど、油とか無いよ」
「構わない。温めるだけだから。あとオーブンも使うね」
彼女は、小さなバッグから、半調理済みの食品や野菜を取り出すと食器棚やシンクの下の包丁立てから包丁を取り出すとテキパキと調理を始めた。
三十分程するとダイニングテーブルの上には、鳥のももの唐揚げ、ハムといくらを野菜サラダの上に乗せた皿、トマト、キュウリ、モッツアレラチーズをルッコラの上に乗せた皿、クラッカーの上にレモン、アンチョビ、サーモン、オリーブのスライスを乗せた皿などが用意された。そして、小さなイチゴホールケーキ。チョコプレートにメリークリスマスと書かれている。
「一条さん、これって?」
「ふふっ、いくらイブで勉強会と言ってもお昼はクリスマス風にしてもいいでしょう」
「それはそうなんだけど」
これと同じ物見たのは、俺が中学校までだ。お母さんと妹が一緒に作ってくれた。何となく目元に涙が溜まった。
「一条さん、ありがとう」
「うん、私の大事な雄二の為だよ。さっ、食べようか」
「うん」
俺にとって久々の家族の味だった。もう何年も食べて無い味。お父さんとお母さん、それに妹の顔が浮かんできた。
「ごめん」
そう言うと、俺は母さんの部屋に入ってドアを閉めた。
私は雄二と二人で楽しいイブを過ごしたかっただけなのに、雄二にとっては家族の事を思い出すきっかけを作ってしまった様だ。ちょっとミスったかな。
でもこれはチャンスかもしれない。私の愛情で彼を包み込めば。
雄二は、十五分程して出て来た。完全にすっきりした顔ではないけれど、さっきの様な泣き顔ではない。
「ごめん。一条さん。ちょっと家族を思い出してしまって」
「ううん、私の方こそ、雄二の気持ちに気付かずに作ってしまって」
「そんなことないよ。とても美味しいし、ゆっくり食べさせて貰うよ」
「うん。そうして」
それから二人で一時間位ゆっくりと食べた。最後のイチゴのホールケーキの時、
「一条さん、俺なにもプレゼント用意していないんだ」
「ううん。私がこれを雄二と一緒にしたかったから。それだけで充分だよ」
「ありがとう」
食べ終わった後、二人で食器を片付けてから飲み物を持ってリビングに移った。
「俺の部屋だと勉強できるスペース無いから、ここでしようか」
「うん、いいよ。でもお腹一杯で直ぐに出来ないから、もし良かったら雄二の部屋見たいな」
「でも、何もないよ」
「それでもいい」
美味しい料理を頂いたので無下にも出来ずに彼女を俺の部屋に連れて行った。
私は雄二に連れられて二階に上がった。三部屋ある。彼が正面のドアを開けて
「この部屋」
中に入ると勉強机。ベッド、本棚。それに洋服ダンスだ。床にはローテーブルと座椅子がある。でもとってもシンプル。男の子の部屋ってもっと色々あるのかと思っていた。
「ここで二人で充分勉強出来るよ」
「えーっ、狭いでしょ」
「そんな事ない。バッグから問題集とか持って来るからここでしよ」
「まあ、いいけど」
下のリビングの方が広くて勉強しやすいと思うんだけど。
彼女がバッグから持って来たのは、問題集とノート、それに筆記用具だ。なんであんなにバッグ大きいんだ。さっきの料理のバッグを取ってもまだだいぶ大きかったぞ?
仕方なく床のローテーブルで二人で向かい合って座って勉強を始めた。
午後三時半になって
「一条さん、少し休もうか」
「うん」
俺は一階に降りて冷蔵庫から冷えた無糖の紅茶をグラスに入れて持って来ると何故か一条さんは俺のベッドに座っていた。
「一条さん?」
「あっ、座っているだけだと足痛くなるしと思って」
「そ、そうか」
俺はローテーブルにグラスを置くと、一条さんから少し離れてベッドに座った。
やっとここまでこれた。今日はイブ。このチャンスは逃さない。
「雄二、少し休んだら勉強しようか?」
「うんというかそうだけど?」
質問の意味が分からない。
「一条さん、一緒に勉強出来るのはいいけど、二人でしていても何もお互いに質問出ないし…。あっ、まあいいや」
せっかく、彼女がここまで準備して来てくれたのを否定してはいけない。
「ねえ、雄二。今日ね。お父さんから許可貰っているんだ」
「何の許可?」
「ここに泊ってもいいって許可」
「!!!!」
「な、何を言っているんだ。そんな事、許される訳無いだろう」
「お父さんは許したわ。私の心も許している。後は雄二だけ。…どうかな」
「でも明日は終業式で学校に行くよ」
「うん、制服も着替えも全部バッグに入れて来た。あっ、ハンガー貸してくれないかな。皴になってしまうから」
「それは良いんだけど」
「あっ、いいのね。じゃあ泊って行く」
「えっ、いやハンガーの…」
「もう言ったでしょ、男に二言は無いって諺もあるでしょ」
「……………」
やられた。
俺達はそれから午後六時まで勉強した。一階に降りて行くと
「雄二、夕飯作ってあげる。さっき持って来た野菜やお肉全部使っていないから」
「任せたよ」
こうなったら仕方ない。彼女が食事の支度をしている間に俺は洗濯物を取り込んでタンスに仕舞うと風呂を洗う事にした。
一通り終わらせてダイニングに行くとテーブルの上には、大分料理が並んでいた。
「雄二、ご飯無いからパンで良いかな?」
そう言えば俺はご飯を炊く習慣が無かったな。
「全然いいよ」
それから、彼女が作ってくれた夕食を食べた。とても美味しかった。
「ご馳走様、とても美味しかったです」
「雄二、私が住み込みでご飯作ってあげる。掃除も出来るよ。勿論洗濯も」
「何を言っているの。俺達は受験生だよ。来年の共通テストでしっかりと点を取って、個別テストもしっかりと点を取らないと受からないよ。
それが全部終わって合格してからでも充分出来るでしょ」
「えっ!雄二大学に入ったら、私ここで雄二と同棲してもいいの?」
「いや、そう言う意味じゃなくて」
なんか俺、一条さんのアリ地獄にはまった様な?
午後九時になり
「一条さん、帰るならまだ間に合うよ」
「いいの。ここに泊る」
「俺、現役高校生だよ。我慢出来なくなったらどうするの?」
「うん、いいよ。雄二なら」
「なんで、そこまで。そんなに俺を観察したいの?」
「雄二、もう観察対象じゃない。私は、雄二が好き。
君の優しさが好き。
雄二がホテルの勉強合宿で見せた真面目な所が好き。
教室で私が苛められそうになった時、体張って守ってくれた君が好き。
一所懸命自分で生きて行こうとする君が好き。
でも雄二が一人で一生懸命生きて行こうとするなら、私は君の傍にいて君を支えたい。
もうこの気持ちはお父さんにもお母さんにも伝えてある。だから今日雄二が私をどうしてくれてもいい。全て雄二に委ねる」
「そこまで…。本当に良いの?」
一条さんは、何も言わずに頷いた。これじゃあ、帰りそうにないな。
「分かった。一条さん、お風呂に入って来て。タオル出しておくから。ドライヤとかは洗面所にあるものを使って良い」
「ありがとう。雄二」
私は、洗面所に新しい下着とパジャマを持って行くと裸になってお風呂に入った。
結構大きなお風呂だった。
ふふっ、今日私は雄二と…。恥ずかしいけど、いずれするんだから。
彼女はいつの間に俺なんか好きになったんだろう。確かに俺は一条さんが大切な人だという事は俺自身感じて来た。でもそれは恋愛感情じゃない。大切だから好きなんて事は無い。
じゃあ、嫌いなのか。大切だけど嫌いなんて事はない。じゃあ、どうなんだ。彼女はご両親を説得してまで俺の所に来た。
でも今の俺の心では彼女の期待に応えられない。何か彼女に恋愛感情を抱く何かが無ければ。
「雄二出たよ。入れば」
もう出たのか。俺はタオルと新しい下着と短パンTシャツを持って洗面所の扉を開けると
「「あっ!」」
そこには何も身に着けていないとても綺麗な少女がこちらを向いて立っていた。
「きゃーっ!」
「うわぁ」
直ぐに背を向けると
「直ぐに入って来るなんて!」
「でももう出たよって言っていたから」
「……………」
「……………」
後ろから彼女の腕が柔らかく俺の体に巻き付いて来た。タオルは体に巻いてあるようだ。でも彼女のお風呂上りの香りが気持ちいい。
「雄二、いいんだよ」
「一条さん、俺風呂入ります」
彼はすり抜けてお風呂の中に入ると、内側から着ていた洋服と下着を足拭きに投げた。
はぁ、でも夜は長い。ここまで来て何も無いは許されない。
―――――
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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