第21話 クリスマスイブは二人きりでもその前に

 

 一条さんがいきなり来た日曜日の翌週は、静かな週だった。理由は分からないが加奈子が月曜と火曜を休んだ。でも水曜からは登校して来た。


 クラスの中では、もう加奈子に話しかける友達は居なくなったが、開き直っているのか、落ち込んだ顔はしていなかった。

 そして登校すると直ぐに勉強している。いいことだ。



 そんな静かな週は直ぐに過ぎ去り、俺は土曜日の午後一時、一条さんに彼女の叔母様が経営している美容室に連れて来られた。


「あら、高槻君、いらっしゃい。待っていたわ。随分の伸びたわね。そこの椅子に座って」


 ここの美容室は大きくて椅子が七つも並んでいる。俺は一番窓際の椅子に座らされた。


「今日はトランクス高槻君バージョンにしましょうか。あっ、終わったら写真撮らせてね。カメラマンお願いしてあるから」

「えっ?!」

「雄二、ごめん。少しの時間だから許して」

「……………」


 全く一条さんは!こんな事だったら来なかったのに。…でも約束だったからな仕方ない。


 一時間半程して終わると一条さんが

「雄二、素敵。ツーブロックも良いけどこれもいいわぁ。雄二はどんな髪型でも合うのね」

「この子は素材がいいからよ。他の人じゃあこうはいかないわ。あっ、ちょっと待ってね」


 その後、三十分位、フラッシュを浴びさせられた。


「高槻君、ありがとう。写真はお店の中だけで使うから。後、これモデル代ね」


 俺は渡された封筒の中身を見ると

「えっ、冗談ですよね。こんなに貰う訳には行きません。俺立ったり、座ったりしていただけなので」

「ふふっ、前の分もあるし。本当はそんな金額じゃ、失礼なんだけど。貰っておいて」


 参った、封筒の中には諭吉さんが十枚も入っていた。


 ふと気づくと、美容室の窓の外に女性の人が一杯立っている。


「叔母様、いつも夜だったけど、今日は昼間だから目立ったみたい。裏から出ていいかな?」

「そうね、表から出たら駅まで行くの大変そうだし」


 一条さんに案内され裏から出たけど、表通りに出れば、女性の人の視線が凄かった。


―ねえ、今日何かの撮影会あるのかな。

―洋服もそれなりよね。

―でも何処の雑誌にも載ってなかったわよ。

―声掛けてみる?



 不味い。これは不味い。

「雄二!」


 一条さんが俺の腕を掴んで来た。あの…、その膨らみが…。

「こうすれば、私が雄二の彼女って事で、声掛けないわ」


 そう思っていたが、少し歩いている内に


「君、ちょっといいかな。私こういう者なんだけど」

 知らない女性に声を掛けられて名刺を見せられた。知らない名前の社名が書いてある。


「結構です。彼は私の恋人なので。行くわよ雄二!」

「ちょ、ちょっと」


 一条さんに腕を巻かれたまま、引っ張られた。


 なんと、駅に行くまでに更に二人の女性に声を掛けられた。参った。



 不味いな。雄二のインパクト大きすぎたわね。まさかモデル事務所のスカウトが声を掛けて来るとは。


 前回も、前々回も土曜日の午後七時位だったからいなかったのか。今日は、午後三時だ。

 雄二がかっこいいのは私としては嬉しいけど、要らぬ物が寄って来る。これは何とかしないと。


「雄二、ちょっと目立ちすぎるわね。あなたの家に行こう。一緒にお茶飲みましょう」

「えっ?!」


 また、腕を引っ張られた。一条さんってこんなに積極的な人だったの?



 駅でも電車の中も大変だった。家の最寄り駅に降りても凄い視線だ。スーパーに買物にいけない。


 仕方なく、一度家に戻った後、帽子を目深にかぶって一条さんと一緒にスーパーに買物に行った。

 明日は、一条さんとクリスマスイブ勉強会だ。それと来週末はもう大晦日。今日一週間分の買い物をした後、明日もう一度来ることにするか。年始はスーパーが休みになるから。



 俺は、スーパーのかご持ちながらいつもの様にレトルト、カップ麺、缶詰、固形スープ、冷凍食品をいれて入れて行くと

「雄二、いつもこれ食べているの?」

「うん、俺料理出来ないからレンチンに頼るしかない」


 実際、家族が居た頃は俺がキッチンに立つことなんてなかった。知らないのは当たり前だ。

 何を思ったのか一条さんが、


「雄二、私が食事作ってあげる」

「えっ?そんな事、物理的に無理でしょ」

「大学に入ったらあなたの家に住む」

「はぁーっ?」


 周りの人が俺達を何だという顔をして見ている。

「雄二、声大きい」

「だって、一条さんがとんでもない事言うから」

「家に帰ってから話をしよう」


 話と言われても…。



 家に戻って、食品?を冷蔵庫の中や棚に置くと無糖の紅茶をグラスに注いで一条さんとダイニングテーブルの椅子に座った。


「雄二、私は、あなたの事が心配。あんな食事をしていると体を壊すわ」

「そんな事言ってももう二年以上続けているし、昼は学食でしっかり食べているから」

「じゃあ、冬休みの間だけでも作ってあげる」

「毎日、来れないでしょ。それに一条さんの都合もあるだろうし」

「私の都合なんてどうでもいい。大切なのは雄二の体。通うのが大変なら、ここに泊めて。リビングのソファに寝ても良いわ」


「何を言っているんだ。そんな事させる訳には行かないだろう。それに…俺だって普通の高校生だぞ」

「だから?いいわよ。責任取ってくれるなら」

「責任取れって言われても」

「ふふっ、二人でゆっくり考えようか雄二」

「へっ?」


 一条さんの頭の中の俺の立ち位置はどうなっているんだ?


「取敢えず、今日は帰るわ。明日は午後一時って言っていたけど、午前十一時に来るわ」

「それは構わないけど」


 少し、早く起きて洗濯と掃除、それに買い物しておかないと。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

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宜しくお願いします。

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