第19話 加奈子の後始末

 

 俺は、毎朝、一条さんと登校するようになってしまった。

 美容室で整えて貰った髪の毛も大分長くなって原形をとどめていないから、道を歩いていて注目されなくなったけど


「雄二、また美容室に行こう。髪の毛、前みたいになってるよ」

「いいです。これで。俺はカット二千円の床屋さんで充分です」

「えーっ、だってぇ。ねえ、お願いだから。学期末考査も昨日終わったんだし、今度の土曜日行こうよ」

「俺はこれで充分です。もうあんな思いしたくありません」

「恰好良かったんだけどなぁ」

「もう一条さんの思い出として胸の中に仕舞って置いて下さい」

「やだ。行こう」


「嫌です」

「じゃあ、こうしない。来週火曜日に帰ってくる考査の結果で、私が雄二より上か同じだったら行こう?」

「同じってあるんですか?」

「同じ一番ってところかな」

「自信ありますね」

「もちろんよ。考査は負けないわ」

「分かりました」

 安請け合いしたような?




 俺達が教室に入って行くと、依然として加奈子の調子は悪そうだ。仲の良かった女子達も今は彼女の周りにいない。何が有ったのか知らないけど。


 それに加奈子のやつ、考査週間に休んでいたりして、大丈夫なんだろうか。俺何で加奈子の心配しているんだ?




 放課後になり、一条さんと一緒に塾に行きながら

「雄二、正月特訓はどうするの?」

「もちろん受けます。正月はいつも一人なので家に居ても暇ですから」

「ねえ、正月うちに来ない。一日だけでもさ」

「いやいや、一条さんの家族の団欒を俺が壊す理由は全くないで」

「そんなことないよ。両親も喜ぶよ。お父さんはもう会っているけど、お母さんまだでしょ。お祖母ちゃん、お爺ちゃんもいるしさ」


 うん?一条さん、どういう意味で言っているんだ。それにお爺ちゃんって元公安調査庁って言ってたよな。なんかヤバくない?



「やっぱり止めておく。正月に一条さんの家はハードル高い」

「じゃあ、これも考査の結果次第という事で」


 ふふっ、学期末考査は全科目、全く漏れがない自信がある。例え雄二が満点でも私も同じだ。ここで一挙に彼の心に入り込むきっかけを作るんだ。




 そして次の火曜日、学期末考査の結果が掲示板に張り出された。


「やったぁ!」


 やられた。


―凄い!一条さんと高槻さん、二人共満点よ。こんなの初めて見た。

―私、開いた口が塞がらない。

―流石全国模試、二十五位と四十五位。

―私達と住んでる世界が違うのよ、絶対。

―うんうん。



「雄二、これで約束守って貰うわよ」

 まさか、一条さんが満点取るとは。本気で考査に臨む彼女を侮ったかも。



 二人で教室に戻ると竜馬が

「流石だなお二人さん。息がぴったりだ。後は籍入れるだけだな」

「うふふっ、ありがとう坂口君」

「な、何言っている竜馬。お前だって七位だろ」

「一位以外は二位も三十位も同じだよ。勝者と敗者の差だ」

「そんな事ないと思うが」


 加奈子をチラッと見ると調子悪そうなところに更に悲しそうな顔をしている。俺が加奈子をジッと見ていると


「雄二、行ってあげたら?」

「一条さん?」

「だって、もう雄二は私から離れないでしょ」


 一条さんの頭には、何か勝手な世界があるようだ。



 俺は、静かに加奈子の所に行った。誰も彼女には話しかけない。


「加奈子」

「えっ?!」


「どうした。体調悪そうだな?」


「な、なんで、雄二が私に声を掛けてくるのよ。なんでよ。私はあなたを裏切ったのよ。騙したのよ」


-えっ、どういう事?

 周りの女の子が加奈子の言葉に不思議そうな顔をしている。



「加奈子、俺はお前を一欠片も許してはいない。…だが、加奈子のそんな顔もみたくない」


 私は涙が抑えられなくなって、教室を飛び出した。涙を拭きながら保健室に行くと私の顔を見た保健の先生が、

「深山さん、取敢えずベッドに横になって毛布掛けてなさい」


 私は直ぐにそうした。そして声を押さえながら思い切り泣いた。


 な、なんでよ。なんでなのよ。なんで雄二があんな言葉掛けてくるのよ。分からないよう!




「雄二、泣かしたわね」

「仕方ないだろう。でも加奈子があんな事言うとは思わなかった」

「彼女の心の限界だったんじゃない。考査結果だけでは、ああはならないわ」


 何が有ったんだ?



 一限目は戻ってこなかった。今日の授業は考査の答え合わせだから、良いんだろうけど。二限目から加奈子は教室に戻って来たが、体調はあまりよくない様だ。ずっと下を向いているだけだ。



 放課後、塾に一条さんと一緒に行くが、何故か機嫌がいい。

「あの、一条さん、何かいいことが?」

「有ったわよ。ねえ、お正月来て貰えるなら髪型も整えないとね」

「いや、俺は二千円カットで」

「駄目!約束でしょ」



 結局その週の土曜日塾の帰りに、一条さんに連れられて例の美容室に行かされた。





私、深山加奈子。

土曜日、前田弁護士は我が家に来ていた。


「DNA検査の結果、加奈子さんのお腹のお子様の父親は後藤隆という結果が出ました」

「前田さん、後藤という男から慰謝料は取れますか。向こうの親にもはっきりさせたい」

「同意の上での行為なので大した額にはならないと思いますが、成人の未成年への性行為という事では、取れます。

 これは余談ですが、後藤隆の父親は、有名な企業の役員をしています。これが公になれば、今のご時世柄、父親の会社での立場は非常に悪くなります。多分、向こうもそこを考慮して対応せざるをえないでしょう」


「ちょ、ちょっと待ってお父さん。私は隆が認知してくれるならこの子を産みたいわ」

「何を馬鹿な事を言っている。お前はまだ先があるんだ。それにお前を騙して連絡先をブロックした様な男だぞ。そんな男とまだ繋がっていたいのか」

「加奈子さん、残念ですが後藤隆には、あなたの他に別の二人の女性と付き合っています。これからも関係を維持するのは厳しいかと思います」

「そんなぁ」



 隆の父親は、前田弁護士が言っていた通り、こちらが思っていた以上の慰謝料と堕胎費用の全てを支払うという事で話がまとまった。大学への通告は慰謝料の上乗せで決着が着いた。


 そして私は、もう堕胎する限界時期という事もあり、次の土日と二日の休みを取った。


 学期末考査は二科目の赤点が有ったが、体調不良を理由に、冬休みの補講と再考査で卒業出来る事になった。まだ先の話だけど。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。


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