第18話 加奈子の異変
模試が終わり、加奈子からの接触も無くなった俺は竜馬や一条さんと穏やかな学校生活を過ごしていた。そして月中に模試の結果が返って来た。
父さんや母さんが生きていたらどんなに喜んでくれたろうに。結果は全国二十五位。志望校は勿論A判定だ。滑り止めの二期や私学も全てA判定。良かった。あそこなら家からも充分通える。
俺はその日、登校して竜馬と挨拶をしていると直ぐに一条さんが寄って来た。
「どうだった模試の結果?」
俺は何も言わずに順位表を見せた。
「えーっ!」
「一条さん、声が大きい」
竜馬も覗くと白目をむいて気絶した。机の上で体がヒクヒク動いている。
「ま、まさか、今回はよかったと思ったのに」
「一条さん見せて」
「ヤダ!」
「何言っているの。見せあいっこすると言ったの一条さんだよ」
「でもーっ!」
仕方なしに見せてくれた順位表は全国四十五位。
「凄いじゃないですか」
「雄二の二十五位には敵わないわよ」
―きゃーっ、聞いた全国二十五位だって!
―本当かよ。俺その五十倍はあるぞ。
―今ならまだ間に合うかも。
―うんうん。
周りの声を余所に俺は気絶している竜馬を起こして
「竜馬、見せろ」
「笑うなよ」
全国四百七十五位だ。全然国立を受けれるし、私立上位校は全部通るだろう。
「凄いじゃないか竜馬」
「雄二に言われても嬉しくとも何ともない」
「でも四百七十五位だぞ」
「あっ、こら言うな」
―聞いた。坂口君。四百七十五位だって。
―高槻君ハードル高いし。ねっ!
―そうそう、いまなら坂口君まだ間に合う。
―うんうん。
良しこれで坂口も春が迎えられる。
「雄二がばらすから」
「いいじゃないか。もうすぐ春ですねって感じだぜ」
「これから冬だってぇの」
俺達三人が笑っている時、加奈子の顔色が悪い事に気が付いた。どうせ、結果が悪かったんだろう。
私は数日前から気持ちが悪くなり食べ物を見ると吐き気がした。まさかと思って、薬局で妊娠診断薬を買って来て試すと
プラス(+)
隆と最後、ビルの陰でやった時、勢いでしたから付けなかった。駄目だと言ったのにあいつは私の中に思い切りだした。アフターピルも飲むのも出来なかった。そして二か月経っても生理が来ないから心配していたけど。
親には相談出来ないし…。
そうだ、隆に連絡してみよう。女が出来てもまだ私の事は嫌いになっていない筈。
でも知らないと言われたら。DNA鑑定すると言えば…。でもそれも拒否されたら…。
とにかく連絡してみよう。
☆後藤隆の回想です。
俺は土曜の夜と日曜の朝早く掛かって来た電話に驚いた。まさか加奈子からだとは思わなかった。
そして都合の悪い事に最近付き合い始めた女が一緒の時だった。適当に誤魔化そうとしたが、女がスマホを横取りして話したり、話をしている俺の後ろから大声で加奈子を罵倒したからだ。
まあ、二年も付き合ってそろそろ別れようと思っていたが、ちょっと残念な気もする。
あいつと知り合ったのは、二年前、俺が大学に入って半年の頃、大学にも慣れて街をぶらついている時だった。
前から滅茶可愛い子が歩いて来る。化粧をしているのではっきりした年齢は分からないが、まだ十代の様だ。スタイルもいい。
早速声を掛けてみた。最初は全く無視されたが、何度か優しい声でコーヒーだけでもと言うと応じてくれた。
俺も顔やスタイルには自信がある。それだけに最初断られた時は頭に来たが、このまま引き下がるのも悔しいから、優しく何度も声を掛けたら応じた。
後は、簡単だった。何度か会って、君の事しか考えられない、君を一生守りたいとか優しい言葉を掛けたら、簡単にやらせてくれた。驚いたのは初めてだったという事だ。
そして体もいい。あそこも抜群だった。でも途中から単にしているだけではつまらないと思い。ちょっとずつ仕方をエスカレートさせた。
もちろん、洋服を買ってあげたり、美味しい物を食べさせたりして、いい思いもさせた。
今、加奈子は高校三年生、俺は大学三年生、お互い十代からの付き合いだから年齢は問題ないと思っているが、もう少しあいつを捕まえておきたかったな。
しかし、最後の時、してなかったが大丈夫だったのな。あいつは興奮していて構わないとは言っていたが。
まあいい、どちらにしろ終わった事だ。
☆現代に戻ります。
スマホが震えた。まだ講義中だ。見ると加奈子からだ。久しぶりだな。もう二ヶ月半になるか。久々に俺としたくなったか。取敢えず。チャットアプリで
『今、講義中だ。後で連絡する』
良かった。連絡が取れた。後で連絡するって言っている。もしかするとまだ私の事諦めて無いのかも知れない。
直ぐに折り返し連絡が来た。昼休みの時間だからかな。
『加奈子、俺だ。久しぶりだな』
『隆、久しぶり。ねえ会えない?』
『おう、俺もそろそろ会いたかったんだ。どうだ、明日の土曜日は?』
『うん、いいよ』
『じゃあ、いつもの所で』
「隆、誰だったの?」
「前にお世話になった友達だ。明日会いたいって言って来た」
「そうか。じゃあその後会える」
「いや、会えば長くなりそうだから、明日は駄目だ。日曜ならいいぞ」
「じゃあ、日曜ね」
もう新しい彼女に気は移っているが、偶には加奈子もいいだろう。
私は、午前十一時にいつもの所で待っていると隆が現れた。やっぱり隆はイケメンだ。雄二も格好良くなったけど、私は隆が良い。私の方にまっすぐ歩いて来ると
「加奈子、久しぶり。顔色悪いけど、大丈夫か?」
やっぱり隆は優しい。直ぐに私を気遣ってくれる。
「加奈子、行くか」
「隆、相談があるんだけど」
「相談?」
私は、ビルの上に有る公園に隆と一緒に歩いて来た。
「どうしたんだ。こんな所に連れて来て。早くしようぜ」
「隆…。これ見て」
私は妊娠検査薬キットの結果を見せた。
「これなんだ?」
「私が妊娠した証拠。多分、最後にした時、避妊しなかったのが原因だと思う」
「えっ、なに!これ俺の所為だと言うのか」
「隆しかいない」
「ちょっと待て。お前俺以外にもいるんだろ。そっちの可能性は無いのか?」
私は隆の顔をはっきりと見ると
「私は隆しかいない。ずっと、ずっと隆しかいなかった。だから…」
「何言っているんだ。俺の子供だって証拠無いだろう。俺に押し付けて托卵考えているんじゃないだろうな?」
「酷い、そんな事言うなんて。信用できないならDNA鑑定させて」
冗談じゃない。この女の腹の中にいる子が俺の子なんて。俺の一生終わってしまう。大体お互い遊びなんだから。ここは上手く逃げるしかない。
「加奈子、そうか。分かった。DNA鑑定しなくていい。俺の子だろう。加奈子を信じるよ」
「本当!隆嬉しい」
私は少し涙目になっていたけど、思い切り隆に抱き着いた。
「分かったから。俺も一人じゃ何も出来ないから。親とも相談しないといけないし。ちょっと待ってくれ」
「えっ?時間無いよ。急がないと」
「大丈夫。明日には連絡する。今日は駅まで送るから加奈子も俺から連絡有るまで家で休んでいてくれ」
「うん」
良かった。隆に相談して良かった。両親には隆から連絡してきたら教えよう。
私はその日は、そのまま家に帰った。お母さんが、私の顔色を見て心配していたけど、ちょっと体調悪いだけと言って自分の部屋に戻った。
寝てしまっていたんだろうか。ドアがノックされてお母さんが入って来た。
「加奈子、もう夕飯よ。お昼も食べなかったし、その間、水も何も飲んでいないでしょう。降りて来なさい」
「うん」
今、気付かれる訳にはいかない。平気な顔してダイニングに言ったけど、食事から立ち上る薫りに
おぇ!
私は口を押えて洗面所に駆け込んだ。
おえっ、おえっ。
「加奈子、まさか。…妊娠したの?」
両手を洗面所の台に突きながら何も口からでなく、少し落ち着くとうがいをした。そしてお母さんの顔を見て
「うん、隆の子」
「何ですって!とにかくリビングのソファで横になりなさい」
「うん」
私が横になっているとお母さんが、誰かに電話していた。
一時間程してお父さんが帰って来た。直ぐに私の傍に来ると
「加奈子、妊娠とはどういうことだ?」
「お父さん、落着いて。加奈子の体に障ります」
「加奈子、ゆっくりとで良い。説明してくれないか」
私は、既に見られているビルの陰でした事が原因で妊娠した事を告げた。そして今日の午前中に隆と会って、彼は喜んでくれて両親に相談するから明日の連絡を待ってくれとも言われている事を話した。
「何だそれは?加奈子直ぐにその隆とかいう男に連絡しなさい。事と次第では直ぐに向こうの親とも話す」
「でも」
「でもじゃない。今すぐだ」
多分繋がらないだろう。
私は、スマホで彼の連絡先をコールすると…繋がらない。まさか、電話番号も利用したが…繋がらない。完全にブロックされた。
「お父さん!」
私は既に目元から涙がこぼれ始めていた。
「やっぱりな。直ぐ前田弁護士に相談する。あの人なら何とかしてくれるだろう」
しかし、時期が最悪だ。来週の金曜から学期末考査。これを受けなければ卒業出来ない。翌月曜からは考査週間に入る。午前中授業になる為、これがせめてもの救いだ。
前田弁護士は、日曜日にも関わらず、朝早くから我家に来てくれた。そして隆の私の知っている限りの事を話し、彼と一緒に移っている写真やスマホの会話内容の写し、彼の連絡先など全て教えた。
そして
「これだけあれば相手の特定に時間は掛からないと思います。それに加奈子さんと後藤が初めてした時、彼は十八を過ぎていました。加奈子さんは未成年。これは重要な事です。直ぐに動きます」
「「「宜しくお願いします」」」
両親と私は前田弁護士に深く頭を下げると依頼の着手をお願いした。
前田弁護士の動きは早かった。翌水曜日には後藤隆を特定し、DNA鑑定に持ち込ませた。
私も病院に行き、必要な試料を採取されると
「二週間ほどで結果が出ます。相手は加奈子さんとの交際は認めましたが、お腹の子の父親という事は否定しています。でもこれではっきりするでしょう。加奈子さんこれで大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
そして直ぐに学期末考査が始まった。これは実質高校生最後の考査。これの及第点を取らないと卒業が危ない。
―――――
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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