第17話 所詮こんな程度

 

 三連休が終わった月曜日。明日に向けて授業は集中して聞いたが、もう学校の教科書の予習は全て終わっている。

 だからという訳では無いが、先生の話を聞きながら一条さんの方を見たが、彼女も真剣そのものだ。加奈子はというと何となく集中出来ずにいる。


 昼休みになっても一条さんや加奈子が近付いてくる様子はない。

「竜馬、今日は購買の菓子パンにする」

「分かった」



 二人で、購買に行って、菓子パンとジュースを買ってきた後、教室に戻ると教室はそのままだ。特に変わった事はない。

 

 俺達は、自分の机で菓子パンを食べながら駄弁っていると、一条さんが席を立った後、加奈子の仲の良い友達三人が、一条さんの机の上で何かしている。


 俺は直ぐに行くと、女子三人で一条さんのノートや教科書に傷をつけていた。

「何やっているんだ!」

「「「えっ!」」」


「お前ら、こんな事して、ただで済むと思っているのか!」


 一人の女の子がポケットに何かしまった。


「あら、私達何かしたの?証拠はあるの?」

「随分大口叩くな。俺が見ていたんだ。周りの人だって見ていただろう」


 俺が見ると周りにいる女子はそっぽを向いている。男子は止めとけって顔をしている。


「ふふっ、何を勘違いしたのか知らないけど、騒がないでよね高槻君」

「くそっ」


 俺は、一条の傷つけられたノート教科書を片付けるとその場でその女子達を睨みつけていた。



 一条さんが戻って来ると

「どうかしたの雄二?」

「ああ、こいつらがお前のノートや教科書を傷つけていたから注意したら、目の前でやってないと言ってやがる」


「何言っているのかしら高槻君。あなたこそ一条さんのノートを傷つけた本人じゃないの?」

「なんだと!」

「雄二、落着きなさい。仕方ないわね。この前以上くだらない事しなければ良かったのに」


 一条さんは凄い手際で、ポケットに手を入れている女子を押さえつけるとポケットに入っているものを取り出した。


「な、何するのよ」

「あら、これが証拠よ。この刃先に付いている紙のクズと私のノートや教科書に付いている紙を調べて同一だと分かればあなたが犯人よ。それにこのカッターナイフについて指紋の角度でね」

「や、やってないわ。それにそんな事調べられるはずないじゃないの」

「大丈夫よ。警察の証拠鑑定に頼めばいいの。私知り合いがいるから。これ証拠品として押収するわね。あなたの指紋も取らせてもらうわ。

 先生に言っても無駄よ。あなたは殺人未遂、そこの二人は殺人ほう助だし、先生達は証拠隠滅、犯人隠匿の協力なんかするほど度胸無いわ」

「な、なにを言っているの」


 一条さんは背が高い。見下す様に三人を見ると


「まだ、時間あるわ。土下座して今から自分がやったことを話して謝りなさい。そうすれば見逃してあげる。それとも明日から登校出来なくてもいい。学校にカッターナイフを持って来ただけでも犯罪よ」


 ほんとはそんな事ないけど。この程度の子にはこれで充分。


 女の子三人が、真っ赤な顔して泣きそうな顔をしながら一条さんの足元で土下座して謝っている。


 一通り自分達がした事を話した後、ひたすら涙声で謝っていると


「もう、十分よ。今の内容レコーダに記録したから。もう二度とこんな事しちゃ駄目よ。クズども!」


「「「ひっ!」」」


 土下座していた三人はそのまま教室を出ると、午後の授業には戻ってこなかった。



 その日は、一条さんと一緒に塾に行った。

「一条さん、怖いです」

「ふふっ、私の大事な雄二が、陥れられるのを黙って見ているほど優しい性格は持ち合わせていないわ」


 やっぱり一条さん怖いです。ホテル合宿で一条さん何か変わってしまったような。



 翌日、加奈子の仲の良い三人の友達は登校していたが、一条さんの姿を見るたびにびくびくしていた。加奈子は知らんぷりだ。そして朝から模試が始まった。高校最後の重要な模試だ。これで志望校の当落が分かる。




 模試が終わった。

「雄二どうだった?」

「まあまあかな」

「じゃあ、ついに一位か?」

「馬鹿言うな竜馬」


 一条さんが近付いて来た。

「雄二、今回は負けないつもりだけど」

「いやあ一条さんには敵わないです」

「雄二、いつからそんな意地悪な事言う様になったの?」

「えっ、本当の事言っているんだけど」

「何言っているの、前回模試、全国五十位だったでしょ」


―えっ!五十位!

―高槻君、本当の天才?

―全国五十位って、何?

―私なんか千番台なのに。

―今ならまだ間に合う。

―うんうん



「一条さん!」

「あら、ごめんなさい。雄二が意地悪言うから」

「もう帰ります」

「あっ、待って。一緒に帰ろ」



 なによ。雄二の奴、あんなに一条さんと仲良くして。大体こいつらが間抜けなのよ。あんなに大っぴらに悪戯するんだから。


「加奈子、ごめんなさい。上手く行かなかった」

「何、弱み握られているのよ。弱み握るんでしょ。雄二に近付けない様にしてくれるんじゃなかったの!」

「そんな言い方しなくてもいいじゃない。私達だって加奈子が高槻君とよりを戻せる様に頑張ったのに」


「良いわ、帰ろう。私達が加奈子の為と思ってやったのにこんな言われ方されるならもう協力しない。みんな帰ろ、帰ろ」

「「「うん」」」


 皆帰っちゃった。何しているんだろう。私。




 俺と一条さんは駅までの帰り道、

「結構簡単に片付いたね」

「所詮、あんな程度の子達よ」

「所で昨日言っていた、警察の鑑定とか、証拠隠滅どうのこうのとかほんと?」

「あははっ、半分本当、半分冗談。でもあの子達には十分でしょ」

 そう言えば一条さんのお父さんって…。俺やっぱり一条さんと距離置こうかな。


「駄目よ、雄二。もう離さないわよ。ここまで来たら、私と最後まで付き合って」

「えっ、最後までって?」

「最後までは、最後までよ」


 いつのまに彼をこんなに好きになってしまったんだろう。決め手は昨日の出来事かな。体張って私を守ろうなんて、狡いよ雄二。好きになるしかないじゃない。



 家の近くになって加奈子を警戒したが、あいつは居なかった。そう言えば放課後あの後どうしたんだろう。まあ俺には関係ないや。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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