第16話 三連休は駆け足で過ぎて行く

 

 昨日、夜は午後六時に勉強を終わらせて、ホテルの外に出た。オフィス街の近くにこのホテルは建っている様で、結構な数のお店があるが、この時間はお酒を提供している所が多い。仕方なく一条さんと一緒にファミレスに入った。



 この時間、結構混んでいる。まあ、俺の家の最寄り駅の傍のファミレスも混んでいるけど。注文が終わりドリンクバーに行って飲み物を取って席に戻ると


「ねえ雄二、ご飯外で食べるのもいいけど、ルームサービスっていう手もあるわ」

「でも、それ高いし、今回のホテル代も馬鹿にならないから」

「そうだよねぇ。私達高校生だものね。でもこうして外に出る時間も馬鹿にならないわ」


「それならコンビニで食べるもの買うよ。冷蔵庫も使えるし」

「うーん、せっかくホテル合宿勉強しているんだから、少しは楽しもうよ」


 確かに彼女の言っている事は分かるけど、俺は遊びに来たわけではない。確かに学校で一、二を争う美少女と一緒にこういう事をしているのにという気持ちも有るけど。


 でもなんで、一条さんはこんなに俺の事を?


 注文の品を食べながら

「聞きたい事が有るんだけど」

「なに?雄二」

「一条さんはなんで俺にこんなに優しくしてくれるんですか?」

 お節介も多いけど。


「ふふっ、知りたい。

 私ね、君にとても興味があるの。容姿もそうだけど、頭の中も。

 君を知ったのは高校二年でクラス替えになった時かな。でも実際は一年の時の二学期期末考査でいきなり知らない名前が五位に入って来た時。

 誰だろうと思ったの。そして二年生になった時、同じクラスになった君だと分かって、それからずっと見ていたの」

「ずっと、見ていた?」


「うん。そしたら、ちょっとした時に見せる雰囲気が素敵だったし、でも暗い影もあるし、それでいて特に勉強もしているように見えないのにいつも考査は五位以内。

 でも君はその時、深山さんと付き合っていたようだから、遠くから見ていたって感じ。そして三年になって夏休みが終わった時、君達の仲がおかしくなったから近付いたってところかな。

 私は君にとても興味がある。色々な意味でね」


 私の心の中にあるもやもやはまだ言わない。


「そうなんだ。おれは君の興味の対象。それも少し手を加えて好きに出来る興味の対象なんだ」

「そんな実験動物見たいな言い方しないで。私はクラスメイトとして、そして友達としてそう思っているの」

「ごめん、言い方間違えた」


 夕飯を食べ終わった俺達は、コンビニに寄って明日の朝食を買った後、部屋に戻った。少しの間。一条さんが俺の部屋に居たけど午後八時には自分の部屋に戻った。


 

 二日目も同じような流れで過ぎて行った。勉強はしっかりやっているので問題ない。


 三日目になり、朝から俺の部屋で勉強していた一条さんは、俺と一緒に午後の昼食を外で済ました後、俺の部屋に来て一時間程勉強した後


「雄二、私少し疲れた。ベッド借りるね」

「ちょ、ちょっと」


 後ろを振り向けば、彼女が横になっている。胸元は緩く、足もスカートがめくれ上がって、ギリギリな状態だ。こんなの見ていてはいけない。


 俺は机に顔を戻して問題集に集中するようにした。


 駄目だ。気になって仕方がない。チラッとベッドを見るとさっきのままだ。足が少し動いて、綺麗な〇〇ティが見えている。ちょっと見てしまいそうだ。いかん。これは不味い。勉強に集中しないと。

 鎮まれ俺の二番目。



 雄二、全然誘いに乗ってこない。最後までは無理でもせめてキス位したいのに。

 私は雄二という観察対象をいつの間にか独占したくなっている自分に気付いた。それがこのホテル合宿で更に強くなった。


 雄二なら、私を委ねても変な事にならない。この子は責任感が強くて人を裏切る事はしない。

 そう思ったから、精一杯の事しているのに。

 私だって色んな事に興味ある年頃の女の子よ。雄二、少し位かまってよ。



 仕方ないかぁ…。


「うーん、良く休んだ。雄二もこっちに来ない」

「行きません。今日の午後の分がまだ終わっていないんです」

「少し位休まないと…」

「一条さんだけ休んでいて下さい」

「もう、雄二の頑固者」

「頑固者で結構です。ここは模試の為に来たんです。後、二時間でお父さんが迎えに来ますよ」

「ぶーっ、仕方ないなぁ。私もやるか」


 結局、午後四時までギリギリやって、二階の大きなラウンジで待っていると彼女のお父さんが来た。


「千佳、高槻君。どうだった勉強の方は?」

「はい、予定していた範囲は全て終わらせる事が出来たので、とても有意義でした」

「そうか、それは良かった。千佳は?」

「九十パーセント位。やり残した事有ったんけど、それはまた模試の後で」


 模試の後って?


「そうか、まあまあだな。じゃあ、帰るか」

「うん」

「はい」



 俺達は、レセプションの会計カウンタで自分の分の支払いを終わらせると一条さんの車で家の最寄り駅まで送って貰った。

「今回は大変ありがとうございました」

「なに、また会おう」

「はい」



 俺は車が過ぎ去って行くのを見ながら、羨ましいな。あんなに父親と娘が信頼出来ている家族。俺も家族が生きていたら。


 少し感傷的になったけど、家に帰る事にした。荷物が多いので来週の食糧の買い出しは一度家に戻ってからにしよう。



「千佳、高槻君いい青年じゃないか。お前が見込むだけの事はあるな」

「うん、ありがとう。でも肝心な事は中々進まない」

「急ぐことはない。同じ大学に入るんだろう。それにお前も彼も新しい人が見つかるかもしれない。まだ先は長いんだ。目の前を急がない方がいい」


 お父さんは、そう言うけど。




 俺は、家に帰って、直ぐにエコバッグを持って駅前のスーパーに向かった。この時加奈子の事は忘れていた。


 髪の毛はホテルにいた時、結構いい加減にしていた所為か、前の様な視線はあまり感じられない。これでいいんだ。


 俺は、エコバッグに入りきれない食品を持って来たビニール袋に入れて、明日からの事を考えながら家に戻ろうとすると家の前で誰かが立っていた。直ぐに加奈子だと分かった。


 迂回するように彼女を避けて家の玄関まで走って行ったが、鍵で開けている時に摑まった。

「雄二」

「放してくれ。忙しいんだ」

 家の中に入ろうとすると


「待ってよ、三日間何処に行っていたのよ。毎日来たのにいないんだから」

「お前には関係無い事だろう。いい加減にしろ」


 俺は、また強引に彼女の手を振り払おうとしたけど、両手に持っているし、彼女の両手で掴まれてしまった。

 仕方なしに、一度エコバッグとビニールバッグを地面に置くと、思い切り腕を振って彼女の両手を放した。

 その時、彼女がよろめいたが、倒れた訳では無いので、直ぐにエコバッグとビニールバッグを拾うと家の中に入った。


 ドン、ドン、ドン。


「開けて雄二。開けてお願いだから開けて」

「開ける必要が無い。五月蠅いから帰れ」

「お願い開けて。話をさせて」


 何だって言うんだ。もう関係無いのに。


 加奈子の事を無視したが、気になって監視カメラを見た。ここ三日間は家の玄関に加奈子が一時間おきに来ていた事以外は何も映っていなかった。


 しかし、明日からが大変だ。何で今になって加奈子はこんなに俺に迫って来るんだ。


 …精々、俺の遺産目当てだろう。無視するしかない。酷ければ前田弁護士に相談するか。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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