第15話 予定通りには行かないもの

 

 俺は、土曜日。朝五時に起きて着替えと三日間の学習道具を持って家を出た。窓のカーテンは全て閉じて、外からは見えない様にしている。家の防犯カメラが稼働しているかどうかも確認した。


 そして急いで駅に向かい、始発の電車に乗って、一条さんから指定された駅に着くと彼女は待っていた。


 俺を見つけると手を振りながら

「雄二、こっち」


 荷物を持って、彼女の傍に行くと

「乗って」

「えっ?」

「えっ、じゃなくて乗って。直ぐに出かけるわよ」


 いきなりだけど、仕方なく車の後部座席に乗ると彼女もその後、乗って来て

「お父さん、お願い」

「分かった」

「お父さん?」

「うん、私のお父さん。今回色々お願いしたの」

「えっ!あ、あの高槻雄二と申します。この度は色々とお世話になり申し訳ありません」

「君が高槻君か。千佳からは良く聞いている。相当に頭がいいそうだね。二人で志望校に入れるように今度の三連休は、ホテルで缶詰めになって勉強を頑張るそうじゃないか。良い事だ。志望校入れるように頑張りなさい」


「ありがとうございます。あの、俺なんかと一条さんが一緒にホテルで勉強って良いんですか?」

「はははっ、娘は君を信用している。だから私も君を信用する。でも娘の期待を裏切ったら桜田門を敵に回すという事を覚えておいてくれ。世界中のどこに逃げようが、必ず見つけ出す」

「えっ!」

「お父さん、そんな言い方したら雄二が怖がるでしょう。もう、私の大事な人なんだからもっと優しく話して」

「そうだな。そういう事だ。娘の勉強を見てやってくれ。高槻雄二君」

「は、はい」


 なんなんだ。この人。それに私の大事な人って?



 三十分もしない内に大きなホテルの車止めに着いた。ベルボーイが直ぐに来て後部ドアを開けるとお辞儀をした。

 

 彼女が先に降りて、俺が次に荷物を持ちながら降りると

「お荷物をお持ちします」


 何となく渡さないといけないのかなと思いながらベルボーイに渡すと彼女の荷物もトランクから出されてカートに載せられた。何でこんなに荷物が多いんだ。


一条さんのお父さんが運転席から出ると

「千佳、日曜日に迎えに来る」

「ありがとう、お父さん」


 凄い信頼だな。俺一条さんを見誤っていたのかも。


 ベルボーイに案内されながらレセプションに行くと

「一条様、お待ちしておりました」


 そう言ってカードキーを二枚渡してくれた。一条さんがそれを受け取ると

「はい、こっちが雄二の部屋のキー」

「こっちが私の。朝早いから食べて無いでしょ。部屋でモーニングサービスをお願いしてあるから一緒に食べよ」

「あ、ああ」


 参った。全く知らない世界に連れ込まれた思いだ。部屋のあるフロアについて部屋まで行くとベルボーイが部屋の中を説明してくれた。荷物だけ置くと直ぐに彼女の部屋、つまり隣の部屋をノックをすると直ぐに開けてくれた。


 中に入って椅子に座ると


「あの、一条さん。君のお父さんって?」

「そんな事聞かないの。それより朝早いから疲れたでしょ。モーニングサービスが、直ぐに来るわ。それを食べて少し休んでから勉強始めましょう」

「それはいいんだけど。桜田門って、どういう意味?」

「知りたいの?」

「どうしても」


「仕方ないなあ。私のお父さんは警視庁捜査一課長。それだけの事よ」

「へっ?そ、捜査一課長?」

「うん、だ・か・ら。責任取ってね♡あっ、お爺ちゃんは元公安調査庁だから」

「な、なんでそれを早く!それに責任って?」

「ふふっ、これからの事に対してよ」

「……………」


 俺、何か間違えたかな?





 私は、朝午前八時に雄二の家のインターフォンを押した。この時間ならまだ出かけていないはず。


 おかしい、何度押しても出ない。毛布に包まって聞こえないのかも知れない。また後で来よう。


 それから一時間置きに午前十二時までインターフォンを鳴らしたけど出ない。居留守を使っているんだ。


 だって家のカーテンが綺麗に全部閉まっている。普段はキッチンのカーテンは開いている。こうなったら持久戦だ。


 私は、一時間毎にインターフォンを鳴らしたけど出て来ない。午後六時で一度止めた。明日は午前七時から来てやる。いくら何でも出てくるだろう。


 次の日も出て来なかった。雄二ってこんなに頑固だったっけ?もしかしていないのかな?


 そんな事ない。だって、木曜日に家に入って行くの見たんだから。でもおかしい。夜になっても何処の部屋も電気付かないし?


 明日は流石に出てくるだろう。




 ちょっと時間が戻ります。


 俺は、一条さんの部屋でモーニングサービスで朝食を摂ると一度部屋に戻って、一時間程休憩をとって午前九時に一条さんの部屋にもう一度行った。


「一条さん、俺はこの問題集を午前中する事にしている。午後からはこっち。明日と明後日分はまた別に持って来ている」

「うわぁ、凄い。やる気満々ね。私も同じよ。でも分からない所有ったら、いちいち部屋の移動するの面倒だから、ここでやらない?」

「えっ?ここでって?」

「うん、雄二がそっちの机。私がこのテーブルでやるわ。どうかな?」

「それはちょっと」


 俺だって正常な高校生男子だよ。ベッドが横にある所で一条さんとずっと一緒に居たら勉強に集中出来なくなる。


「駄目?」

「うん、自分の部屋でやる。分からない所有ったら、スマホでビデオ通話しながらやる事にしよう」

「えーっ。つまんなーい」

「一条さん、遊びに来たわけではないので。じゃあ、午前十二時を区切りにしようか」

「仕方ないなあ」


 俺は、自分の部屋に行って、問題集をやり始めた。持って来た問題集は模試の選択科目にしているものだ。


 直ぐに机に座って問題集に取り組んだ。



 もう、雄二、固いんだから。でも目的は果たさないとね。



 俺は午前十一時半位で午前中の問題集をやり終えた。正答率九十五パーセント。残りの五パーセントは、頭が疲れた事に寄るケアレスだが、これも確実に拾える様にしないといけない。

 残りの時間を誤った問題に集中しているとスマホが鳴った。一条さんだ。


『雄二、もうお昼にしよう』

『良いですよ』

『じゃあ、ドアの外でね』


 俺は、問題集はそのままにスマホと財布だけ持って部屋の外に出ると一条さんが待っていた。

「雄二、何食べようか。外に出るのもいいけど、ちょっと歩くから、今日はホテルの中ね」

「でも、俺全然知らないし」

「じゃあ、和洋中どれがいい」

「中華がいい」



 一条さんは来慣れている様だ。三階の中華屋さんというかレストランに行くとテーブルに案内された。

 ウエイターが水と一緒にメニューを持って来たけど、開いてみてびっくりした。学食を比較してはいけないが外のお店の方がはるかに安い。高校生が食べる値段じゃない。


「ふふっ、雄二、値段に驚いているの。仕方ないわ。ホテルだもの。明日は外に行こうか」

「お願いします」


 俺は、一番安そうなチャーハン(たぶん)を頼んだけど、それでも二千円を超えている。参った。彼女は何か定食見たいな物を頼んだようだ。


「一条さん、俺夕飯は外のコンビニで買ってきます。昼食でこれだと夕飯の想像が出来ません」

「じゃあ、夕飯は外に行こうか。午後六時位なら問題ないし」

「はい」



 部屋に戻って、午後の分の問題集を出しながら、ホテルだと高すぎる、やはりこういう所は高校生の来るところじゃないなと思った。今回はもう仕方ないけど。


 お金は、使えば無くなるもの。まだ高校生活も残っているし、大学に入るにはそれ相当のお金がいるだろう。生活費だって大変だ。


 バイトはしなくてもいいと思うけど、働いて生活できるようになるまでは、節約しないと。それに社会人になってからも色々出るだろうから。



 それから俺は、午後三時まで集中的に問題集を解いた。だけど、ちょっと予定外の事が起きている。


 問題が分からない、ビデオじゃ説明が良く分からないと言って、俺の部屋に来た一条さんが、そのまま居座って、部屋のテーブルで勉強している事だ。真剣に集中してやっているけど、これでいいのか?


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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