第14話 浅知恵は直ぐにバレる

 

 ここ数日、雄二と一条さんは、全く話をするどころか近付く事もしていない様だ。塾の中は分からないが、これならイチャイチャしている事は無いだろう。そろそろ動くか。



 私は、雄二が塾から帰って来る午後八時頃、家の外で待っていた。駅からの道をみていると暗いけどビニール袋を手に歩いて来る姿が見えた。雄二に違いない。


 近くに来たのでこちらから近付いて

「雄二」


 無視する様に私から離れて歩こうとするので、仕方なく雄二の腕を掴んだ。

「離せ!」

「雄二、お願い、聞いて」

「……………」


「私が悪かった。馬鹿だった。雄二が私にとってどれだけ大切な人か気付いたの。今までの事は謝ります。隆とも別れた。お願い、幼馴染として、いえ友達からでもいい。また話をして」

「何を言っているか、分からない。俺はお前とは口をきくどころか、姿も見たく無いんだ。急いでいるから腕を離せ」

「やだ!」


 この女いきなり何を言って来ているんだ。見るのも汚らわしい。俺は、思い切り腕を振って振りほどくと

「二度と、俺に話しかけんな!」


 俺は急いで家に入ると内側からロックを掛けた。


「雄二…」


 いいわ。一回で許されるなんて思っていない。こうなったら毎日でも待ち伏せしてやる。私と雄二が話せる様になれば、あの女(一条)も近付きにくくなるだろう。




 まったく。あいつ、どういうつもりで今更、俺に話しかけて来たんだ。こんな暇が有れば勉強すればいいのに。


 模試まで後七日、その間に祭日と土日で三日間の休みがある。仕上げるチャンスだ。しかし、あいつに毎日同じ事されたら、ウザい。何とかならないかな。



 俺は、簡単に夕食を終わらせると、直ぐにシャワーを浴びた。少しスッキリとした後、塾の予習を終わらせて、志望校の過去問を少しやろうとするとスマホが鳴った。一条さんだ。あんな事言ってからまだ一週間だ。直ぐに出ると


『雄二、私』

『なに、まだ一週間しか経っていないよ』

『うん、雄二の声を聞きたくて』

『えっ?!』

『ふふっ、冗談よ。それよりこんど三連休あるじゃない。一緒に勉強しない?』


『加奈子が五月蠅いんだ。今日も家の前で待ち伏せされて、復縁を迫って来やがった。冗談じゃない』

『なるほど、それが目的かしら。私への嫌がらせ。私を雄二に近付かない様にさせて、自分が雄二と復縁する。その協力を仲の良い子達に頼んだってところね』

『そんな事上手く行くはずないのに』

『どうするの?』


『明日、明後日は避けるしかないけど、三連休は模試の追い込みをしたいんだ。家に押し掛けられたら勉強にならない。隣同士だからな。だからどこかに逃げようと思っている』

『逃げる?』

『それが…』

『私の家に来る?』

『はっ?冗談は止めてくれ。行ける訳無いだろう』

『いいわよ。私の両親、そんなに干渉しないから』


『駄目に決まっている』

『じゃあ、どうするの?』

『前田さんに頼んでホテルに閉じ籠ろうかな』

『なら、私も一緒に良いかな?』

 話しがおかしな方向に行っている。一回切るか。


『…時間も遅いからまたにしよう』

『そうね。お休み雄二』

『お休みなさい。一条さん』


 

 雄二がホテルに泊まるなら、私のお父さんにお願いしようかな。ふふふっ。



 一条さんと話していたおかげで結構な時間になった。仕方ない。しかし、ホテルの案はいいな。前田さんに頼んでみるか。




 次の日の朝、学校に行くと

「雄二、おはよ」

「竜馬、おはよ」

「何か変わった事有るか?」

「加奈子がウザいだけだ。そうだ、竜馬。今度の三連休、お前どうするんだ?」

「まあ、模試も近いから勉強かな」

「なあ、お前の所泊まれないか?」

「はぁ?無理。うちは妹もいるし、家が大きくないから雄二が泊まるのは無理だ」

「そうか」

「どうしたんだ、俺の所に泊りたいなんて?」


 予鈴が鳴ってしまった。


「後でな」

「ああ」



 一条さんも教室にいるが、一人で勉強しているようだ。しかし、加奈子の奴、くだらない考えしやがって。



 その日も塾から帰った後、家の前で加奈子に待ち伏せされた。今日は、加奈子に近付く振りをして、大回りで走って、家の中に入った。冗談じゃない。後ろで何か言っているが無視だ。



 家に入って夕飯を食べているとスマホが鳴った。見ると一条さんからだ。

『雄二、私』

『なに?』

『私のお父さんがね。勉強の為にホテル合宿するなら、お父さんの名前で予約してくれるって』

『予約?ホテル合宿?なにそれ』

『名前の通りよ。ホテルで二人で勉強するの。もちろん部屋は別々よ。それぞれの部屋で勉強して、分からない所が有ったら教え合うって感じ。どうかな?』


 確かに魅力的だが、一条さんと二人でホテル合宿というのは。でも加奈子を三連休避けるにはいい考えだ。


『その考え良いけど、細かい事聞きたい』




 昨日も雄二を家の前で待ち伏せしたけど逃げられた。でも明日から三連休。雄二の家に張り付いて、何とか家の中に入ってしまえばこっちのもの。

 思い切り低姿勢で誤って、ちょっとどこか引っ掛かった風にして、私の体を触らせれば、あいつは童貞、女性の体なんか知らない。

 一条さんとは、していないのは見ているだけで分かる。だからそれで押し倒せば後はどうにでもなる。

 ふふっ、雄二、明日こそ一緒になろうね。


―――――


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