第13話 加奈子の企み

 

 私と雄二が教室に入って行くと気のせいか、女の子の視線が違った感じがした。それと深山さんがもう教室にいる。


「雄二、後でね」


 そう言って、自分の席について、いつもの様に周りの子に挨拶をするが、何となく他人行儀だ。


「雄二、おはよ」

「竜馬、おはよ」

「雄二、ちょっといいか」

「ああ」



 竜馬と一緒に廊下に出て、生徒があまり使わない階段の下に行くと


「雄二、まだはっきり聞いた訳じゃないが、俺が教室に入って来た時、もう深山さんが居たんだ。

 ちょっと驚いたけど、気にせずに座っていると、その時一緒に居た子や後から入って来た彼女と仲の良い子が、『加奈子、大丈夫。私達が付いているから。高槻君を取り返してあげる』って小声で言っていたのを聞いたんだ。

 俺は聞こえないふりをして本を読んでいたんだが、あまりいい話じゃないなと思ってな。なんか心当たり有るか?」

「全く分からない」


 加奈子の奴、何か企んでいるのか。



 俺達が教室に戻るといつもと同じだが、何故かいつも賑やかな一条さんの周りが静かだ。仲の良い子と話している位。どういう事だ。



 昼休みになり一条さんが俺のところに来ようすると、加奈子と仲の良い子が

「一条さん、偶には私達と食べない」

「ごめんなさい。私は雄二と食べるの」

「いいじゃない。聞きたい事も色々あるんだ」


 少し強い語気で言っている。



 どういうつもりだろう。この子達は、私とは話す事なんて無かったはず。でもあまり無視出来なさそうね。


「分かったわ。ちょっと待って」


 私は雄二の所に行くと

「ごめん、雄二今日はちょっと一緒に食べれない」

「分かった。竜馬、行くか」

「おう」


 残念だな。後ろを振り向くととても和やかにお弁当を一緒に食べる雰囲気ではなかった。


「さっ、一条さん。食べようか」

「ええ」


 始め、食べながら何か話してくると思ったけど、何も話さない。食べている途中に変な事はしない様だ。私を囲んでいる人達が食べ終わると


「一条さん、話たい、いえ聞きたい事があるの。付いて来て」


 深山さんを見ると、まだ他の子とお弁当を食べながら話をしている。私が視線を向けるとこちらを見たが、直ぐに話しの中に戻った。



 連れて行かれたのは、なんと体育館裏。告白でもする気かしら。


私の周りを囲む様に三人の子が立っている。真ん中の子が

「一条さん、最近、高槻君と仲が良いわね」

「ええ、それがどうかしたの?」


「高槻君って加奈子の彼氏だった事知っているわよね。ところが九月に入って少しして急に登校しなくなって、三日目にやつれた姿で来たの覚えている?」

「ええ、覚えているわ。だからそれがどうかしたの?」

「どうかしたのじゃないわよ。この泥棒猫が」

「えっ?」


「知らばっくれんじゃないわよ。加奈子が言っていたわ。高槻君が急に冷たくなって話もしてくれなくなったって。理由聞いても何も言ってくれないし、連絡先もブロックされたって。あんたの所為よ」


 もう一人の子が

「あんたが、高槻君に近付いて、体使って横取りしたんじゃないの?」

「何言っているかさっぱりわからないんだけど」

「高槻君の最近の変わり様は、あんたの仕業よね。それに最近名前呼びして、ファミレスにも二人で入り浸っているそうじゃない」


「呆れた。何の話があると思えば、そんな話。そもそも雄二とは塾で知り合っただけよ。そこで一緒に勉強するようになった。

 それだけの事。髪の毛だって、せっかくのポテンシャルをそのままにしておくのは勿体ないから目覚めさせただけよ。

 あんた達だって雄二に色目使っていたじゃない」



 バシッ!


 いきなり頬を殴られた。

「駄目よ、顔は後が残るわ。殴るなら」


 ドッ!


 今度はお腹を殴られた。食べたばかりなのに。


「今日はこの辺にしといてあげる。もしこれからも高槻君に近付くようだったら、こんなものじゃ済まないわ。その綺麗な顔や体をボロボロにしやる。良く覚えておきなさい」


 頬が結構痛い。お腹も食べたばかりなのに気持ち悪い。一体何なのよ。でも様子見た方がいいわね。馬鹿は何するか分からないし。


 


 俺は、竜馬と一緒に学食で昼を食べ終わった後、教室に戻ると一条さんと彼女に声を掛けた女の子達がいなかった。加奈子は居る。他の子と話をしているだけだ。


 少しして一条さんに声を掛けた女の子と他に二人が戻って来た。加奈子に何か声を掛けている。加奈子が嬉しそうな顔をしている。


 俺には関係ないと思いながら竜馬と話をしていると一条さんが戻って来た。左頬をハンカチで押さえている。何か有ったのか?お腹の方も痛そうだ。おれの方を見たけど直ぐに視線を外された。



 放課後になりいつもの様に一条さんが声をかけてくると思ったが、一人で教室を出て行った。

「雄二。一条さん、何か有ったのか?」

「さあ?」



 俺は教科書を鞄に仕舞い込むと急いで塾に向かった。途中で一条さんに追いつくと思ったけど、追いつかない。走って行ったのかな?



 塾に行っていつものクラスに入ると一条さんが座っている。俺が隣に座ろうとすると

「雄二、いえ高槻君、近付かないで」

「えっ?」


 仕方なく、俺は少し離れて一条さんが見える後ろに座った。受講態度はいつもと同じだ。真剣な顔で聞いている。


 午後七時半に終わったので一緒に帰ろうとすると、俺を無視して先に帰ってしまった。


 どうなっているんだ。俺が一人で帰るのは構わないが、一条さんの態度が急に変わったのは気になる。




 俺は家に戻り夕飯を食べて、のんびりしているとスマホが震えた。一条さんからだ。

『雄二、私』

『一条さん。今日はどうしたんだ?』

『どうしたもこうしたも無いわ。深山さんが具合悪かったり、元気が無いのは、私が雄二を横取りしたって話になっている。その上、頬とお腹も殴られたわ』

『何だって!』

『俺がはっきり言ってやる』


『誰に?』

『加奈子にだよ。そいつらは加奈子に言われてやっているんだろう?』

『証拠は無いわ。それにもしそれをしたら、私に余計危害を加えるわ。だから少し様子見たい。寂しいけど一週間位、彼女達の動きを見て見たい。

 もし、これ以上何もしてこないならいいけど、何かしてくるようだったら、対抗手段をとる。今日はいきなりだったので仕方なかったけど』

『後二週間で最後の模試が有るけど』


『あら、雄二は私と一緒に勉強したいの?私は嬉しいけど』

『いや、そんな事じゃなくて…。とにかく、そういう事をしている奴らが許せない』

『模試が終わるまで我慢ね。その後、作戦考えよ。一緒にね♡』

『分かった。だけど、これ以上、何かされたら言えよ。俺にも考えがある』

『うん、ありがとう』



 私は、雄二との会話が終わった後、何となく胸に詰まるものが有った。でも今はそんな事を考えている時期ではない。


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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