第12話 急接近
「おはよ、雄二」
「おはようございます。一条さん」
中間テストの結果そして模試の結果が出て、その間違いを拾う事を二人でした翌日、駅で一条さんが待っていた。
「ねえ朝、駅から私が一緒に登校してあげる」
「え、いいですよ。悪いし。一条さんに迷惑が掛かります」
実際、一条さんと一緒に登校するなんてこの学校の男子全員を敵に回すのと一緒だ。出来れば止めて欲しい。
「そんな事ないわ。それに私が傍に居ないと雄二が大変な事になるわよ。ほら、周りを見てごらんなさい。みんな君の事を見ているわ」
どう見ても男子の痛い視線しか感じられない。
「だから私が一緒が良いの。あっ、そうだ。今週の土曜日、叔母様の美容室にもう一度行こう。最初に行った時、三週間後にもう一度来てと言っていたでしょ」
「言ってはいましたが…」
はっきり言って、行きたくない。これ以上目立つような事したら余計面倒だ。
「あの、それキャンセルできません」
「なんで?叔母様、楽しみにしているわ。あの後も私の所に連絡が有って、お店のカットサンプルに載せられないかなと言っていたのよ。流石にそれは本人に聞かないと分からないと言っておいたけど」
「カットサンプル?」
「うん、お店に来た人にどんな髪型いいか選んで貰う時に見せるサンプル写真」
「えーっ!駄目ですよ。そんなの。恥ずかしいし」
「大丈夫、どうせお店だけのサンプルなんだから」
「でも」
俺はこの時カットサンプルがどういう意味を持つか分からなかった。
学校に着いて自分の下駄箱を開けると
ドサッ、ドサッ。
「なにこれ?」
可愛い封書が十枚近く出て来た。
「わーぁ、凄い。雄二、これ皆呼び出し、告白、ラブレター?だから言ったでしょ。私が傍に居てもこれなんだから」
「……………」
なんか、一条さんと会ってから、俺の周りが騒がしい。こんな事好きじゃないのに。
教室に入ってから、下駄箱に入っていた封書を机に置くと
「おはよ、雄二。これなんだ?」
「おはよ、竜馬。俺にも分からん」
竜馬が、手に取ってみると
「これって、呼び出しだよな。告白ってやつか。これ時間バッティングしているのもあるんじゃないか」
「いいよ、どちらにしろ見ないし、行かないし」
「いいのか?」
「行っても断るだけだし。受験まで後半年も無いのにこんな事付き合っていられない」
「それ言われると、俺の方が胸が痛いんだが」
周りの女の子が好奇心いっぱいの目で俺達の事を見ている。嫌だな。
昼休みになり一条さんが自分のお弁当を持って俺の所に来た。
「行こうか。雄二」
「竜馬、いいか?」
「いや、俺は居ない方が」
「だめだ。竜馬が居ないなら俺も一条さんと食べない」
「えっ!分かったわ。坂口君、いいでしょう」
「いや、俺は…」
「ねっ、坂口君」
「はい」
雄二、俺をお前の恋愛事情に巻き込まないでくれ。
そして放課後になると一条さんと二人で塾に急いで行った。塾に着いてクラスに入るとまだ講義開始まで十分程ある。二人の女の子が近付いて来て
「ねえ、君、高槻君っていうんでしょう。講義が終わったら一緒に勉強しない?」
「あ、あの…」
「彼は、今日講義が終わった後、用事が有るのよ。だからあなた達とは付き合えないわ」
「で、でも。明日とか、明後日とか?」
「毎日、塾の後は用事があるの」
一条さんが、二人を睨む様に言うとスゴスゴと席に戻って行った。俺は小声で
「ありがとう」
「いいえ。やっぱり私がいないと駄目でしょう」
「……………」
何も言えない。
そんな日々時間を過ごしてあっという間に土曜日になった。今日も学校で土曜日授業があるのでその後、塾に行って一条さんの叔母様の美容室に行った。
「いらっしゃい。待っていたわ。そこの椅子に座って。千佳ちゃんあの事聞いてくれた?」
「一応話しましたけど」
「高槻君、千佳ちゃんからも聞いていると思うけど、うちの美容室のカットサンプルモデルやって貰えないかな?もちろん報酬も出すわ」
「あのそれって時間かかるんですか?俺、受験生なのであまり勉強以外に時間取られたく無いんです」
「それはもちろんよ。君の勉強の時間を取る気は無いわ。半日を三回位空けられないかしら?」
「お願い、高槻君。聞いてあげて」
「でも…」
「じゃあ、この髪型を揃えて一度写真撮って、今日の髪形を写真撮らせてくれない?」
「それくらいなら」
結局、午後七時半位まで色々された。ここに入ったのが午後五時過ぎだから二時間ちょっと居た事になる。
「どう、千佳ちゃん、今回の髪形。前はマッシュツーブロックに少し手を加えたの。今日のは、マッシュウルフを彼に似合いう様にして見たの」
「素敵です。高槻君、かっこ良すぎ」
俺も目の前にある大きな鏡に映る自分を見て驚いていた。髪型だけでこんなに変わるものなのか?でも俺にはここまでが限界だ。
「ありがとうございます。でもカットサンプルのモデルは引き受けられません」
「そう、残念だわ。気が変わったら来てね。千佳ちゃんもありがとうね」
俺はその後、一条さんと駅で別れて電車に乗ったが、ちょっと視線がきつかった。人から見られることが慣れていない俺が、ここ三週間で急に変わった。はっきり言って疲れる。
家の有る駅で電車を降りてすぐ傍のスーパーに入ると時間が遅い所為か人は少なかったけど、やはり視線は多い。いそいで今日の分だけ買って、レジで精算すると直ぐに出た。
やっぱり、髪型はいつものでいい。そもそも俺が目立つ理由は全くない。今はとにかく志望校に入学する事だ。
急ぎ足で家に帰ると隣の家の前で人影が有った。もう午後八時過ぎだ。誰だか知らないが、急いで家に入ろうとすると
「雄二、待って」
もっとも聞きたくない声だ。俺はその声を無視して家に入った。
無視された。当たり前か。
私は、先週の土曜日、雄二と一条さんとの仲を見て、雄二が浮気する為に私を陥れたんだと考えた。だから復讐してやる。
そう思ったけど、どうすれば復讐出来るのか、全然いい考えが出て来ない。それに雄二はあの動画を持っている。雄二があれをクラスでバラされたりしたら、私の居場所がなくなってしまう。
今は、仲の良い友達も私の事を心配して優しくしてくれている。それなら、雄二が冷たくして辛い。理由は一条さんが雄二に何かの理由で接近したから。
だから雄二を一条さんに取られたけど、友達からでもいいからもう一度雄二と仲を戻したいとクラスの友人に話して、皆を味方に付ける。
そして私は雄二に素直に謝って、仲を戻そうという態度をとればいいんだ。例えば勉強を教えて貰うとか。
だから今は雄二からあの一条さんを離す事だ。
―――――
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます