第11話 まさか一条さんが

 

 俺は一条さんと攻防?しながら日々を過ごし、そして二学期中間考査が始まった。火曜から金曜日までだ。この間は、流石に塾には行かない。内申にも大きく影響するので気合が入っている。


 最近、塾での勉強も進んでケアレスも少なくなっている。中間は、厚みは無いが横に広い。そつなく拾えば、それなりの得点が得れるはずだ。


 午前中の考査が終わると俺は直ぐに家に帰り次の日の考査の勉強をした。



 そして金曜日、最後の科目が終わると


「終わったぁ。雄二、どうだった?」

「まあまあだったよ」

「という事は全科目満点か?」

「冗談はよせ」


 そんな話をしていると一条さんが近寄って来た。

「高槻君、どうだった?」

「まあまあです」


 この中間考査辺りから高槻君は本気を出してくるはず。それはいつも塾で隣にいる私だから分かる。時間は短くても、塾のテキストの予習に落としが無い。



 そして翌火曜日、中間考査の結果が掲示板に張り出された。


「やったな。雄二」


-一条さんが…。

-常勝一条さんが二位。

-これはこの三年間で初めての出来事だぞ。


 周りが騒ぎ始めたので、俺は急いで教室に戻ろうとすると

「やはりなぁ、ついに頭脳の方も本性出して来たかぁ」

「一条さん?」

「流石ね。次の学期末は譲らないわよ。ところで明日は模試の結果が返って来るわよね。合わせようか?」

「いや、俺帰るから」

「いいじゃない。駅前のファミレスでやろ。あそこが嫌なら君の家でも良いわよ」


 な、なんて事をこんなところで言うんだ。ほら見ろ。


―ねえ、聞いた。

―うん、うん。

-確定ね。

―そうね。




 私は、雄二と表向き付き合っている頃は、上位三十位内に入っていた。でも雄二と別れてから、学力はメッキがはがれた様に落ちて来た。多分、真ん中位。本当なら今のクラスには居れない成績。


 雄二にバレずに一緒に勉強していれば、こんな事にはならなかったのに。これでは私立中堅も合格出来ない。不味い。何とかしないと。

 

 しかし最近、雄二の奴、一条さんととても仲がいい。元々雄二がイケメンだったのは知っているけど、本人が気にしていないからそのままにさせていた。だって私には隆が居たから。


 雄二の髪、あれは、プロの美容師がカットした髪。でもそんな所、あいつが知っているはずない。

 まさか、一条さんが!でもあいつと彼女の間に接点が有ったとは思えない。どうして?




 私は、高槻君に中間考査で一位を奪われたけど、何故か悔しさは無かった。一年の時から一位を保ち続けた私だけど、いつも誰かにいずれこの位置を奪われるという気持ちが有った。


 だけど、三年の一学期が終わっても誰もこの座を奪う事は無かった。その事に寄る慢心だと自分で気付いていたから。


 それが偶々高槻君だったという事。


 でも何故か私の心には消化しきれない何かが湧き始めていた。彼は私の興味深い観察対象。それが彼を初めて見た時の感想。


 そして、塾で会った時もいずれ来るだろうと思っていた。そしてその結果が今日だ。だから次は、そう高校生最後の学期末考査で一位の座を奪い返せばいい。


 そう思いながら教室に入ろうとすると彼は女子に囲まれていた。


「ねえ、高槻君、今度勉強教えてくれない?」

「私も。今のままだと志望校が厳しいの。お願い♡」


「雄二、ついにモテ期到来か?」

「竜馬、揶揄うな。ごめん、俺も必死なんだ。だから皆も自力でがんばって」

「えーっ、お願いだから。私の部屋で勉強しても良いよ♡」


「いやいや、そんな事絶対に出来ないから」

「でも、一条さんなら良いの?」

「えっ?」



 この場面を目にした時、心の中に高槻君と親しく話せるのは私だけ。他の子に同じ事をさせる訳にはいかないという自分でも理解出来ない気持ちがある事に気付いた。

 そして私が取った行動。



「はい、みんな、高槻君困っているから。自分の席に着こうね」

「「えーっ!」」



 女子達が、自分の席に散っていくのを見届けてから

「雄二、モテモテね」

「一条さん、それ嫌味?」

「そんな事ないわ。事実を言っているだけ。明日を楽しみにしているわ」


 どういうつもりだ。一条さんとは、塾で知り合ってから、美容室に行かされたり、何故か俺の洋服を買いに行かされたりと、俺には理解出来ない接し方をして来ている。


 そして今は、模試の合わせを二人でしようと言っている。名前呼びしたりしているのは、彼女見たいな振りをして俺に女の子が近寄らない様にという事を言っているけど、出来れば本人も近寄って欲しくない。


 だけど、今彼女が必要なのは事実。学内一、二を争う一条さんが、俺の彼女面をしていてくれれば、ほとんどの女の子は近付いてこないだろう。


 だけど、何か不自然な気がする。だって、彼女から見れば俺なんか相手にしなくていい人間なのになんでこんなに近づいてくるんだ。




 翌日、模試の結果が返って来た。俺にとっては信じられない結果。全国で五十位だ。一条さんは八十二位。


 流石に一条さんもこの結果を見た時は目を丸くして驚いていた。そして今は二人で、ファミレスにいる。

 そして何故か、反対側でなく、俺の隣に座っている。


「い、一条さん。ちょっと近過ぎない?」

「だって、こうして問題と答案を比較しながら見るのに反対側に座ったら見にくいでしょ」

「それはそうですけ」

「じゃあ、いいじゃない。さっ、ここの私の間違い教えて」


 右利きの彼女が何故か左利きにして、体を寄せてくる。その豊満な…俺の左腕にわざとぶつけているんですか。一条さん?



 私、深山加奈子。昨日の雄二と一条さんの会話を聞いてファミレスに付いて来た。離れたテーブルから二人の背中を見る様にしている。


 やっぱり、あの二人出来ている。これで分かった。雄二が私と隆のラブホの出入りやビルの陰であれをしていた録画を撮ったのは偶然じゃない。


 雄二は、一条さんとの付き合いを正当化する為に私と隆の関係を録画したんだ。そもそも私は隆と先に付き合っている。

 雄二とは可哀想という気持ちから付き合っただけ。だからキスもしなかった。雄二は一条さんとの浮気を隠すために私と雄二の邪魔をしたんだ。


 許せない!


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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