第10話 陰キャが目立っても碌な事が無い


最初だけ加奈子の独白です。


―――――

 

 隆の件は、あまりにもショック過ぎて、あの電話の後、頭が整理出来なくて、大泣きした後、部屋の壁をドンドン叩いてしまった。


 悔しい。あの時、君が一番好きだよ。俺には君しかいないよ。ずっと一緒に居ようね。そう言われて初めてをあげた。


 それからも加奈子、一生を掛けて君を幸せにするから。ずっと傍に居てくれ。


 そう言うから隆の好きにさせた。恥ずかしい格好だっていくらでもした。いずれこの人と結婚して幸せになれると思っていたから。


 あれは、全部嘘だったんだ。


 何で、何で。私を一生守ってくれるんじゃなかったの。


 悔しい、悔しいよ!



 両親が直ぐに私の部屋に入って来て、私を押さえたけど、私はただ泣いてばかりいた。お母さんは、そんな私を優しく抱きながら

「加奈子、ずっと傍に居てあげるから」


 涙が止めどもなく流れて来た。



 昨日の朝から何も食べていない私は次の月曜日も食欲が無くて何も口に出来なかった。寝る事も碌に出来ていない。幸せな思い出は全て嘘だったんだった。悔しさだけが込み上げてくる。


 火曜日になり、段々頭が落着いてくると私を裏切った隆への憎しみだけが大きくなった。でもどうしようもない。二年間もの間遊ばれていただけだったんだ。


 洋服を買ってくれたり、食事をご馳走してくれたのは、単に私の体への代償だったんだろう。だから私の体を好き勝手にしたんだ。色んなこともさせられたのはそういう事だったんだ。


 そう思ったら、急にお腹が空いて来た。憎しみばかりが頭に浮かび、行為の時の楽しい思い出が、愛情では無く、あいつのおもちゃだった事を考える大声を出したくなったけど、今はどうにも出来ない。

 それに学校も休んでいる。今は受験期。あまり休む訳には行かない。


 水曜日になり、学校へ行くと親しい友達が声を掛けて来た。皆私の事心配してくれていたんだと思うと少しずつ元気が出て来た。



 今日は、土曜日。放課後、家に帰ると取敢えず机に向かった。でも二年間遊んでいた代償は大きく、復習を兼ねた問題集を開いても全然分からない。


 午後六時半位になって、甘いものが欲しくなった私は、コンビニ行こうと思い、薄暗い中、一人で歩いていた。


 今、横を誰かが通り過ぎた。見た事のないイケメンだった。この辺にあんな人いないんだけど。


 でも私は振り返りもせずにそのまま歩いた。





 俺は、日曜日も塾に行った。一条さんは午後から自習室で勉強したいと言った俺の腕を容赦なく捕まえると、何と今度はデパートに連れて行かれた。それもPBショップだ。


「俺、持ち合わせないんだけど」

「いいの、私が出してあげる。気になるなら後で返してくれればいいわ」



 結局、俺の意見は全く取り入れ慣れず、ショップの人と一条さんが俺を見ながらあれこれ話して試着室で着せ替え人形になり、新しい洋服を二着購入した。


 更にもう一か所行って、同じような事をさせられながら、一着購入するとそれをそのまま着せられて、元の洋服はそこのショップの袋に入れて街を歩いた。


「ふふっ、どう。前から来る女性、皆君の事をしっかりと見ているわ」

「嫌でも、俺こういうのは…」

「良いの。私と一緒の時は、今日買った洋服着て来てね」


 それどういう意味?


 理解出来ない言葉を掛けられたけど、午後五時に解放された。帰りの電車でもジロジロ見られる。

 こんな事に慣れない俺は、その場で全部脱ぎたくなった。



 家のある駅の傍のスーパーで、出来なかった一週間分の買い物をしている時やレジ袋パンパンにして歩いていてもジロジロ見られる。

 こんな格好してもいい事全くない。早く脱ぎたいよ。




 翌日になり、朝食を摂った後、せっかくかっこよくして貰った髪の毛をそれなりに整えて、俺は制服に着替えて駅に行った。もうあの服は来ていないから注目も浴びないだろうと思っていたけど、


-ねえ、あんなイケメンいたっけ。

-かっこいいわね。声掛けてみようか。

-会社に行くんだから

-じゃあ、今度。



 そんな声を避けながら、電車に乗るとやはり同じ。


-あの制服って。

-あれ、うちの学校でしょ。

-でもあんなイケメンいなかったけど。

-転校生かな。

-チャンスかも。



 辛い。陰キャは一人静かに目立つことなく隅の方で生きるから気楽でいいのに。


 もう、校門をくぐった頃には、周りの視線が凄かった。



 ようやく教室に入って自分の席に着くと


「おい、そこ俺の親友の席なんだけど」

「竜馬、おはよ」

「何馴れなれ…。えーっ、お前、雄二?」

「竜馬、俺の事親友と呼んでおきながら分からなかったのかよ」

「すまん、でもどうしたんだ」


 俺は席の離れている一条さんをジッと見ると笑顔を見せながら胸の傍で軽く手を振っていた。

 あの人の所為で…。もう塾一緒に行かない。



 竜馬の声に気が付いた女子達が、俺をジロジロ見始めた。


-ねえ、あれ高槻君?

-分からない。

-でも高槻君の席に座っているよ。

-坂口君とも話しているしね。

-後で声掛けてみようか。

-うん、うん。



 はぁ、どうしてこうなった。あっ、加奈子が入って来た。俺に気付いた様子はない。そのまま席に座ると仲のいい子が、彼女に何か耳打ちしている。


 いきなり加奈子がこっちを見た。驚いた顔をして俺の顔をジッと見ている。今度はとても怒った顔をして、前を向いた。



「竜馬、悪いが、作戦復活だ」

「ああ、B定食楽しみにしている」

「ミッションコンプリートしたらな」

「長そうだな」




 一限目が終わり中休みになると早速、女の子が近付いて来た。

「竜馬、トイレ」

「おう」


 二限目の中休みも同じだ。でもトイレに行っても流石に出ない。

「雄二、一度対応するしかないんじゃないか?」

「しょうがない」



 三限目の中休み、やっぱり女子が近付いて来た。



 不味いわね。思ったより周りの反応が顕著だわ。せっかくの観察対象が、他の子に取られる前に手を打たないと。



 私は昼休みになり、凄い勢いで教室を出た高槻君と坂口君を自分のお弁当持って追いかけた。


 二人がテーブルに着いた所で

「高槻君、一緒に食べてもいいかな?」

「「えっ?」」


「一条さん?」

 俺は竜馬の顔を見ると


「雄二、俺そっちで食べるから」

「ごめんなさい。坂口君」


「えっとぉ、どういう事かな一条さん?」

「なに?私が高槻君とお弁当食べたいだけよ。いけない?」

「いけなくはないけど」


 参ったな。この人どういうつもりで、俺の絶対防衛ラインに侵犯してくるんだ?


 ふふっ、やっぱり。周りの女子が私達を見ている。私と彼が一緒という事を印象付けるには丁度良いわ。



 昼食を食べ終わって、竜馬と帰ろうと思っているとあいつはもういなかった。作戦継続中なのに。


 仕方なしに一条さんと並んで学食から教室に戻る途中、やはり周りの生徒からは注目の的になった様だ。

 一条さんは、これだけの容姿を持ちながら三年になるまで彼の噂が出た事はない。それだけにインパクトは大きかったようだ。




 放課後になり、俺は目にも止まらぬ速さで…。

「高槻君、行こうか」


 一条さんは光の速さなのか。俺の腕をがっちりホールドされた。ごめん。柔らかいお胸が…。気持ちいいです。


「ちょ、ちょっと」

「なあに、雄二?」


-きゃーっ、一条さん、高槻君の事名前呼びした。

-聞いた、聞いた。

-も、もしかして。あの二人付き合っているの?

-きゃーっ!!!


「一条さん、早く行きましょう」

「うん、行こうか雄二」



 校舎を出ると一条さんは腕を離した。

「どういうつもりですか?」

「あら、私はあなたを助けてあげたのよ」

「助けた?」

「ええ、見違える様に本来の姿を現したイケメン高槻君に悪い虫が付かない様にね。私が彼女の振りすれば、そうそう君に声を掛ける人はいないでしょう」

「大した自信ですね」

「ふふっ、私、容姿に自信はあるわ」


 返す言葉が無い。事実、一条さんは綺麗だ。背も高いし出る所も出ている。でもなんで三年間、彼氏作らなかったんだろう?


「でも、三年間、浮いた話無かったですよね」

「ここの男子、君を除いて興味無いから」

「へっ?!」

「そういう事、さっ、塾行こう」


 また、俺の腕を掴んで歩き出した。


 どうなっているんだ?


―――――


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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