【番外編・ショートショート】1/365
その日もいつものように、おはようございます、と医局の医師や看護師に挨拶しながら自分の医務室へと向かっていた。
が、返される挨拶に何か違和感を感じる。ふと来た道を振り向けば彼らはこちらを見ていたようで、自分からとっさに視線を外す。
「…なにか?」
何かしたかと考えるが、彼らの顔は好奇心が抑えられないような何やら生暖かい目をしており、悪いことではないようだと察せられた。その分余計に混乱する。
いえいえ。なんでもないので。どーぞ。口々に医務室に促される。
「…?」
その後もどーぞどーぞ、と半ば背を押されるようにして医務室に向かわされる。
はあ。と首を傾げながら鍵を開け扉を開くと、突然目の前が虹色に染まる。
それが色とりどりの花びらだと気づいたときには、その向こうに見知った二人の顔が見えた。
「先生、お誕生日おめでとう!」
「ジル、誕生日おめでとう」
「…あれ、今日、でしたっけ?」
呆気にとられる僕を見てレティシアはくすくすと、ガルディウスはニヤニヤと笑う。
「毎年毎年、律儀によく忘れるな」
「…あれ?僕、さっき鍵開けませんでした?」
「医局の皆さんに協力していただいたんです」
そちらに目をやると廊下に医師や看護師が勢揃いしており、パチパチと小さな拍手を送ってくれていた。なるほど、さっきの態度はこのせいかと合点した。苦笑して頭を下げる。
「これ、私とルディからです」
渡された箱を開けると、中には見事な彫刻がされたゴブレットが二脚入っていた。
「ええ…こんなに高価なものいただけませんよ」
「でも、私が働き始めて最初のプレゼントだから奮発したくって」
「…って言って聞かねえんだよこいつ。まあ、早いとこ女でも作ってそれで酒呑んでくれよ。あと、今日仕事終わり開けとけよ」
…女ねぇ…ちらりと視線を向けた彼女は健やかに微笑んでいる。
きっとそんな日は来ないと思ったが、二人の気持ちが嬉しくて自分は笑顔を返した。
「ありがとう、二人とも」
いつまでこんなふうに君たちと過ごせるだろうか。
愛しい弟妹のような彼らにとっても今日が素晴らしい日であることを心から祈った。
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