第5話
そんな日が続いた一週間後の事です。殿様より登城の知らせが届きました。
半年ぶりの登城になります。殿にお目通りをしますと、
「勘兵衛、領内での、そなたの活躍は聞き及んでおる。大儀じゃったのう」
「ははっ」
「されば、そなたに再度命を下す。そなた、勘定方となり、領内の開拓の指揮にあたれ。その間、村長の屋敷をそなたの社務所にするがよい」
と、言い放たれたのです。
これによって、屋敷での療養は解け、改めて役職についたわけですが、武門で名を轟かせた勘兵衛にしてみますと、勘定方の役職など、到底納得できる職務ではありません。自慢ではありませんが「武」のみにて、これまで生きてきたのです。金の勘定など、一度もしたことがありません。
ー何故儂が、土いじりや金勘定に携わなければならないのか。
「お言葉ではございますが、拙者、勘定の仕儀はわかりませぬ。その議は何とぞ別な方に・・・」
「心配するな。開拓については、それに堪能な家臣をそなたに使わす故、それらに任せておけばよい。そなたは、その村に居ればいいのだ」
勘兵衛は一言も返事をしません。納得していないないのだなと殿様は思いましたが、更に説明をするのは煩わしく、早々に座を立とうとしました。すると、勘兵衛は深々と頭を下げ、
「殿、お待ちくだされ。拙者は武門によって使える身でござる。されば、戦と殿のお守りする以外に、拙者の役目はございませぬ」
と押し留めたのです。その声に、殿様は一端足を止めたのですが、振り向くことはなく、
「勘兵衛、武の世の中は終わった。今や新たな時代である。我が領土は狭く、そのため養える家臣の数には限りがある。故に、武門のみを誇る不要な家臣を雇っておく財はないのだ。されど、そなたは我が藩において有用な人物。武が不要な今、そなたには新たな役目につき、成果を上げることを望んで居る」
「されど・・・」
「勘兵衛よ。そなたの父に、藩主としての心構えを教わったとて、今は余がこの藩の藩主である。つまりは、余がそちの殿だ。従って余の決めたことは、命令である。話は終わった。すぐに役目に取り掛かるがよい」
話は、そこで打ち切られてしまい、殿様は奥へと入ってしまいました。
城から下がった勘兵衛は、仕方なく村長の屋敷に出向くと、用向きを話し屋敷を社務所にするよう申し付けました。
翌日には、開拓の命を申し渡された家臣たち二名が、村長の屋敷に通い、測量をしつつ、本格的な開拓を進めるようになったのです。
家臣たちは、上司である勘兵衛に伺いをたててから仕事を始めるのですが、勘兵衛は土木事業のことなど何もわからないので、判断しようがありません。といって勤務地から離れることもできず、結局勘兵衛は、村長の屋敷で養生していた時のように、日がな一日ぼーっと過ごすしかありませんでした。
すると、暇を持て余していた時にしていた畑仕事を続けることになり、前よりもいっそう精を出すことになったのです。その姿を傍で見ていた村長は、一人では何かと不自由だろうと、身の回りの世話をするよう娘に指示したのでした。
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