第111話 できることを

「何をしたらいいですか? ユーリさん!」


 ランディ王子がきらきらした目で、ユーリの横顔を一心に見ながら聞いた。


「ランディは水の流れが見えるから、あの湖と俺をつないで」


 ユーリがドラゴンから目を離さずに言う。


「つなぐって、どうやって?」


「湖と俺の間を、水が流れているイメージをするだけでいい。あとは、こっちでやる。あのドラゴンが本気で火を吐いたら、そこの湖の水を使わないと消せないかもしれないから」


 そこで、デュラン王子がランディ王子のそばにやってきた。


「ランディ、自分が湖と次期公爵をつなぐための、ホースになったと思ってみたらどうかな? その中を水が流れている。その水の流れがランディには見えるんだ」

と、アドバイスをした。


「ホース? 俺にできるかな……?」


 珍しく弱気な声をだすランディ王子。


「ランディは俺の弟子なんでしょ? なのに、俺の言うことが信用できないの? ランディならできるから頼んでるんだよ」


 ユーリが言ったとたん、ランディ王子の顔ががらりと変わった。


「ユーリさんのこと、信用してます! やります!」


 大きな声でそう言うと、湖とユーリの間をつなぐように目を往復させはじめた。


「すごいな。完全にランディ王子を手なずけてる……」

と、ジリムさんがつぶやいた。


 ほんとに、すごいわね。ユーリ……。

 いや、感心してる場合じゃない。私もやれることをやろう!


「ようかん!」

と呼びかけた。


(なあに、かあさん)


「あのドラゴン、なんで火を吐いてるの? 私たちに怒ってるの?」

と、聞いてみた。


(ぼくも、よくわからない。しゃべってこないから)


「そうなのね。じゃあ、ようかん、私たちが敵じゃないって、話しかけてもらえない?」


(わかった! やってみる!)


 私はブリジットさんに向かって、気になったことを聞いてみた。

 

「そう言えば、翼をケガしていると言ってましたが、治療はどうしてるんですか?」


「ここでは保護して休ませているだけで治療はしていません。残念ながら、ドラゴンの治療ができるものがいませんから」

と、ブリジットさんは悲しげに答えた。


 もしや、どこか具合が悪いから、威嚇してくるのかしら? 

 だって、私たちを攻撃するというよりは、脅かしただけみたいだものね。


 あ、そうだわ!


「デュラン王子、魔力で体の中が見えたよね? ドラゴンも見える?」


「どうだろう? やったこともないから、わからないけど……。なんで、アディー?」

と、デュラン王子が不思議そうに言った。


「あのドラゴン、私たちが近づかないよう、脅してるだけのような気がするの。

火を吐いたのも一回だけだし。普段は大人しいっていうし。どこか体調が悪いから、威嚇してるのかと思って……」


 私の言葉を聞いて、デュラン王子はうなずいた。


「なるほど……。それは、あり得そうだね。保護センターの方々はどう思う?」

と、ブリジットさんとアンドレさんのほうを見た。


「その可能性は大いにあるかと思います」


 アンドレさんが言った。


「わたしも、そう思います」

と、ブリジットさんも同意した。


「わかった。人間以外でも、できるかどうかわからないけれど、魔力で見てみるよ。

アディー、見ててね!」


 そう言うと、私に甘くウィンクしたデュラン王子。


「とっとと、やれ……」


 すかさず、ジリムさんがつっこんだ。


 そんな軽い雰囲気のまま、デュラン王子が、手のひらをドラゴンめがけて開くと、すぐに、青白い光が出始めた。


 ブリジットさんが驚いたようにつぶやいた。


「すごい魔力だわ! 皆様は、もしや魔力集団でもいらっしゃるのかしら……」


 いえ、違います。ただ、魔王が二人おりますが……。

 

 こんなことを考えている間も、デュラン王子の手のひらからでる光の帯が、ドラゴンめがけて、どんどん伸びていく。

 そして、ドラゴンにたどり着いた。


 ドラゴンとデュラン王子が青白い光でつながった。本当に神秘的できれいな魔力だわ……。


 と、思ったら、ドラゴンがギャーッと鳴いた。

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