第110話 もう一匹のドラゴン
「では、もう一匹のドラゴンに会いに行きます」
と、ブリジットさん。
アンドレさんが先頭に立ち、私たちを扉の方へと誘導していく。
そして、私から、2メートルくらい離れたところをゆったりと飛ぶ、ようかん。
時折、近づこうとするが、ユーリの冷気攻撃を受け、はじかれている。
その都度、怒って、ボッと火を吐く姿がなんだかとてもかわいい。
が、ランディ王子はやたらと怖がって、火を吐くたび、ユーリの背中に隠れている。
小さいドラゴンが小さい火を吐くのって、すごーく、かわいいのに……。
やっぱり、ランディ王子は水系の魔力らしいから、小さな火でも怖いのかな?
ようかんが仲間に加わって、更に奇妙なご一行になってしまったわね。
大きな岩のところまでくると、アンドレさんが少しでっぱったところを持って、横にひく。
岩がさーっと開いていく。岩が扉になってるんだわ!
開いた扉を通り抜けると、いきなり湖があった。
背後にはそびえたつ山。天井もなく、空も見える。
「ここは外なのかしら?」
と、アンドレさんに聞いてみる。
「ええ、外をいかした部屋となっています。一見、外にでたように見えるかと思いますが、実は防護の魔力を流した透明の壁があり、外敵や風雨から守られています」
「まあ、すごいわね! 防護の魔力って、よく使われているの?」
「いや、貴重な魔力だよ。この国で、これだけのエリアを守れる防護魔力を持ち、コントロールできる人間はわずか数人しかいない。みんな、国の防護魔力課に勤めている」
デュラン王子が説明してくれた。
「そうです。この壁は国の防護魔力課で製作してくださった貴重なものを使わせてもらっております」
と、ブリジットさん。
(かあさん、ぼくもここがいい!)
頭にビーンと響いてきた。ようかんだ。
「あの、ようかんが、ぼくもここがいいと言ってるんだけど……」
と、ブリジットさんに伝える。
「え? そうなのですか……。この部屋は2匹でも十分のスペースがあるのですが、一緒に住まわせて大丈夫なのかどうか……」
「そうね、ようかんと会わせてみないとね。それで、もう一匹のドラゴンはどこにいるのかしら?」
私はあたりを見回す。
「湖の向こうがわです」
と、ブリジットさん。
「湖の向こう側? あの小さい山があるあたり?」
「いえ、その小さい山みたいに見えるのがドラゴンです」
えええ!? 小山にしか見えないんだけど!?
キイイー
いきなり、ようかんが鳴いた。
あ、山が動いた! ぐわっと片方の翼が広がる。
そして、立ちあがって、全身をふった。
湖面が振動で揺れている。
うわああ、すごい迫力!
もっと近くで見ようとすると、ユーリに引き寄せられ、がっしりと捕獲された。
身長差があるので、背後から両腕をおろされたら、前世の記憶にある、ジェットコースターに乗った時の安全バーみたいな感じで、身動きがとれない。
「ダメだよ、近づいちゃ。なんでもアデルは引き寄せるから、油断できないんだよね」
そう言うと、ユーリの両腕の力が更に強くなる。
ドラゴンがゆっくりと湖の横をまわって、こちらに近づいてきた。
そして、私たちの近くまで来たところで足をとめた。
「このドラゴンは翼をケガしているので飛べないんですが、おとなしいドラゴンです。今まで、暴れたり、大声で鳴いたり、火を吐いたりしたことは一度もありま……」
ゴゴオーッ
言ってるそばから、こっちに向かって火を吐いた。
すぐにユーリが冷気の魔力を放ち、私たちに届く前に消えた。
「ぎゃあああ、ユーリさんっ、助けて!」
ランディ王子がユーリの背中にぴったりとはりつく。
が、ユーリは気にも留めず、ドラゴンに集中している。
真剣なユーリの顔は、ほんときれいなんだよね……って現実逃避している場合じゃないわ!
ようかんと違って、火の威力がすごいもの。
あれが直撃すると、さすがに燃え尽きるわよね……?
「アデル、ちょっとぼくの背中の後ろにまわって」
そう言うと、ユーリが私を背中にまわした。
つまり、ユーリ、私、ランディ王子という並びになる。
「アデル、ずるいぞ! ユーリさんの背中は俺のものだ。割りこむな!」
と、わめくランディ王子の前に、ユーリの手によって押し込まれた私。
そこで、ユーリがぴしりと言った。
「ランディ、うるさいよ。俺の全てはアデルのものだ。それより、弟子なんだろ。少し手伝って」
「はいっ! なんでも言ってください!」
背中に隠れていたのが嘘のように、ユーリの横へと飛び出すランディ王子。
ちぎれそうなほど振っているしっぽが見える気がするわね……。
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