第109話 お願い

 くすぐり作戦は失敗だったようで、なんともいえない気まずさ。

 そんな中、一番に声をあげたのが、ランディ王子。


「アデル、ユーリさんになんてことするんだ! はしたないぞ!」


 散々、奇行を繰り広げてきたランディ王子には言われたくなかった……。


 とりあえず、この空気を変えるため、私は何事もなかったかのようにブリジットさんに近づき話しかけた。


「では、ドラゴンも大人しくなったことだし、次の場所に移動しましょうか?」


「え、……ええ、そうですね。では、次のドラゴンの部屋にご案内いたします」


 またもや頭にビーンと響いてきた。


(かあさん、ぼくをおいていくの?)


 ドラゴンからのメッセージだ。

 伏せの姿勢のままで、つぶらな瞳で私を見上げているドラゴンちゃん。


 うっ……。


「ごめんなさいね、ドラゴンちゃん。私は他の国から来てるから、あなたを連れていけないの」

と、思わず口にだして言った。


(じゃあ、かあさんにひとつお願いがある)


 あ、私の言葉は口にだしても伝わるのね。


「なあに?」


 私はつぶらな瞳を見ながら、問いかけた。


(ぼくに名前をつけて)


 名前……? 


 ドラゴンちゃんの黒光りする姿を見て、ふと思い浮かんだのは、


「ようかん」


 思わず口をついてでた。


(ヨーカン……。ぼく、ヨーカンなんだね! ありがとう、かあさん!)


「ええっ? ようかんでいいの!?」


(うん、もちろん! かあさんがつけてくれた名前だもん。それに、これで、ぼくとかあさんはつながったからね。かあさんがどこにいるか、ぼく、わかるから。会いたくなったら、すぐに飛んで行くよ)


「え? 名前にそんな機能があるのっ!?」

 

 私が声をあげたところで、ブリジットさんが興奮気味に聞いていた。


「アデル王女様、ドラゴンとどんな会話をされてるのか教えてください!」


「名前をつけてってお願いされて、思わず、『ようかん』と口にでてしまったんです」


「ヨーカン? どっかで聞いたことが……。ああ、あのアデル王女様が号泣した菓子のヨーコンと響きが似てるんだな。そう言えば、色も一緒だ……」

と、ジリムさん。


 鋭いわ、ジリムさん! それからきてます! 

 が、本当はヨーコンじゃなくて、ようかんなのよ! 


「それで、そのヨーカンと名付けたら、ドラゴンは何て言ったんですか?」


 先を聞きたいブリジットさんが急いで話をもどした。


「名前をつけたら、私とドラゴンちゃんは、つながったのですって。だから、私の居場所がわかるし、会いたくなったら、すぐに飛んで行くって言ってます。まさか、名前をつけることに、こんな重大な機能がついてくるとは思わず、ごめんなさい……」

と、ブリジットさんに謝る。


「とんでもない! すごい発見です! やはり、アデル王女様にはドラゴンにずっと関わっていっていただきたい! この保護センターにずっといてほしい!」


 ブリジットさんが興奮状態で言い、私のくすぐり攻撃から回復したユーリに、すごい目でにらまれている。


「まあ、とりあえず、このドラゴンはもういいとして、次のドラゴンにいきましょう。時間もないですし」


 冷静に仕切り始めるジリムさん。


(ぼくも、ほかのドラゴンのとこへいく)


 ドラゴン改め、ようかんが伝えてきた。


「あのー、次のドラゴンのところへ、ようかんがついていくそうです」

と、ブリジットさんに伝える。


「え? あ、……もう一匹のドラゴンは、けがをしていて療養しています。でも、おだやかな性格ですから、あわせてみるのもいいかもしれませんね……」

と、ブリジットさんが考えながら答えた。


「じゃあ、一緒にいこうか。ようかん!」


 私が声をかけると、キィーッと嬉しそうに鳴いた。


 ユーリがしっかりと私の腕をとる。


「アデルからは離れてろよ」

と、ようかんに冷たく言い放つ。


「ほんと、大人気ないね。心がせますぎて驚くんだけど」

 

 デュラン王子があきれたように言う。


「おい、兄さん! ユーリさんに失礼なことを言うなら俺が相手になる」


 ランディ王子がくってかかる。


「は? 相手になるって、ならないだろ。魔力でも剣でも頭でも……」

と、つぶやくジリムさん。


 最後が何気に失礼すぎる気がするのだけど……。


「はいはい、わかったよ」


 面倒そうに答えるデュラン王子。

 

 そんなやりとりの横では、ユーリ対ようかんの攻防が続いていた。

 ようかんは、ユーリがそばにいるせいか、ユーリの魔力がいまだ私に流れているからなのかわからないけれど、私に近づいてはこれないよう。


(かあさん! それ、じゃま! そのあくま、じゃま! かあさん、こっちきて!)


 悲痛なメッセージに急いで駆け寄ろうとしたけれど、腕をユーリにつかまれているので、前にすすめない。


「ようかんが呼んでる! 離して、ユーリ」


 そう言って、ユーリを見上げると、ユーリが凶暴なほどの美しい笑みを浮かべた。


「アデル、それ以上、あのクソチビに近づいたら、今度はあれくらいの争いじゃすまないから。2メートルは距離をたもってね? あ、2メートルより一歩近づいてる。ほら、下がって」


 え? ユーリ、そんな正確にわかるの? 

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