第107話 ドラゴン 対 ユーリ
ユーリがドラゴンから私を引き離そうとすると、ドラゴンがくわっと口を開け、ユーリに向かって火を吐いた。
あぶない、ユーリ! ……と思ったら、そのドラゴンの火はユーリに届く寸前に、ジュッと音をたてて消えた。正確には消された。
ユーリが氷のような冷気をだして、火を消したみたい。
だって、ドラゴンに抱き着かれている私まで凍るように寒いもの……。
が、ドラゴンは私に抱き着いて離れない。
更に口をあけて、火を吐き続ける。そして、ユーリも冷気でその火を消し続ける。
「あの、ふたりとも! ……じゃない、一人と一匹! やめてくれない? 火と冷気に挟まれる私の身にもなってよ! 熱くて、寒いじゃない!」
たまらず、私は叫んだ。
すると、ドラゴンがキィーと鳴いて、抱き着いたまま私の顔を見上げた。
つぶらな瞳がうるっとしている。
(かあさん、ごめん)
(私はあなたのお母さんじゃないの。ドラゴンじゃないから)
と心で伝えた。
が、うるうるした金色の瞳はじっと私を見上げ続けたまま。
もー、なんて、かわいいの!
思わず、抱き着かれているドラゴンを私もぎゅーっと抱きしめる。
途端に、ゴーッとすごい風がふき、冷気につつまれる。
寒い……。ユーリさん、寒すぎるわ……。
あったかいドラゴンちゃんを更にぎゅーっと抱きしめて暖を取る。
「アデル、騙されたらダメだよ。こいつ、あざといから」
と、ユーリが憎々しげに私に言った。
「違うわよ、ユーリ! この子、私をはぐれたお母さんだと思ってるみたいなの! まだ、子どものドラゴンだし、かわいそうでしょう?」
私はドラゴンを抱きしめながら、ユーリのほうを振り返って言った。
「さっきからアデルを見る時と、僕を見る時の目の違いがすごいんだけど? 演技してるよ、そのクソチビ」
ユーリが氷のような眼差しでドラゴンを見据える。
そこで、ブリジットさんが聞いてきた。
「あのアデル王女様、お母さんだと思ってるみたいというのは、どういうことでしょうか?」
「そうよね。説明してなかったわね。さっきから、ドラゴンが頭の中に、直接メッセージを送ってくるの。私のことを『かあさん』って呼んでくるから、私はあなたのお母さんじゃないって、心で念じてるんだけどね。どうも伝わってないみたい」
「ドラゴンが人の考えを感じ取るのはわかっていましたが、まさか、直接会話をしてくるなど、今まで聞いたこともありません。やはり、アデル王女様は、このドラゴンと特別なつながりがあるとしか思えないですね……」
ブリジットさんの言葉に、アンドレさんが大きくうなずいた。
「アデル王女様に、このドラゴン保護センターに通ってもらって調べてみたらどうでしょう? ドラゴンも喜ぶでしょうし」
「いいね、それ! じゃあ、アディーに、この保護センターの客員名誉研究員にでもなってもらおうか。ブルージュ国に住んでもらって、王宮から、週に数回、ずーっとながーく通ってもらおうよ」
と、にこやかに提案するデュラン王子。
「是非、そうしてください! わからなかったドラゴンの生態が解明できるかもしれません!」
ブリジットさんが興奮気味に言い、アンドレさんも首をぶんぶんと縦にふる。
一気に場の温度がさがった。
「なに、好き勝手なこと言ってんの? そんなこと俺が許すわけないでしょ? このセンターごと永久凍土にされたいの?」
あ、久々に、ユーリが俺って言っている。相当いらだってるわね……。
しかし、こんな冷え冷えとしたユーリにおびえることもなく、発言を続けるブリジットさん。
ドラゴン好きの血が騒いでるのか、目がぎらぎらとしている。
「しかし、こんなドラゴンとつながれる方は他にはおられません! アデル王女様、この保護センターにどうぞお力をお貸しください!」
と、ぺこりと頭をさげる。
アンドレさんも、あわてて頭をさげる。
ブリジットさんとアンドレさんの熱意が伝わってきて、私にできることなら、お手伝いしたい気持ちもわいてくるけれど、まあ、無理よね。
ユーリがすごい目で私を見てるわ……。
「私も国に帰らないといけないですし……」
と、ユーリの圧に押されながら言いかけると、ドラゴンが更に力を入れてしがみついてきた。
「この子、アデルちゃんから離れないんじゃない?」
と、イーリンさん。
確かにね……。一体、どうしたらいいのかしら。
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