第105話 つながる

 イーリンさんが、はっとしたように小さく声をあげた。


「やっぱり、虹色が鍵なんじゃない? 晩餐会でアデルちゃんの言葉に見えた虹色と、精霊のいる泉の虹色、そして、このドラゴンの声の虹色。あ、翼の裏も虹色だわ……。やっぱり、何かつながっているのかな」


「なるほど、アデル王女様と泉とドラゴンか……」


 冷静につぶやくジリムさん。

 なんか、不思議な組み合わせだけど、私以外に人間がいないわね。


 そこで、またもや、イーリンさんが驚いたように言った。 


「ドラゴンからでた虹色の橋みたいなものが、ユーリさんの出す渦みたいなものに弾き飛ばされてるわ。だから、ドラゴンはアデルちゃんに近寄れないみたいよ」


 思わずユーリを見る。


「ドラゴンだろうがなんだろうが、アデルに近づこうとするなら排除するだけだけど?」


「あいかわらず心がせまいね? アディーも窮屈で嫌なんじゃない? 僕なら束縛なんかしないよ。アディーには自由にしてもらう。何をしたって応援するよ」


 デュラン王子が甘ったるく微笑んできた。

 途端に冷気が漂いはじめる。


「そもそも、赤の他人は束縛することすらできないもんね。妄想が激しいな。ねえ、アデル」

と、冷気製造者であるユーリが私に向かって美しく微笑んだ。


 またもや、このふたり、何かはじまったわね……。


「本当に妄想かな? アディーとこの国の縁は、もはや運命だよね? だから、この国に住むことを考えてみて。ね、アデル」


「それこそ、妄想だね。アデルのこの国への旅行は、これが最初で最後になるかと思うけど。まあ、どうしても、アデルが新婚旅行で来たいっていうのなら、考えてもいいけど?」


 ちょっと、一体、この人たちは、ドラゴンを前にして何を言い争ってるの!? 

 はあー、頭にきた!


「ちょっと、ふたりとも。ドラゴンの前よ。失礼でしょ? 奇跡のような存在を目にしてるのよ。もっと、ドラゴンに注目して!」


 私が叱ると、ふたりとも黙った。

 

 小さくパチパチパチと拍手をしているのは、ジリムさんだ。


「あの、私のほうから、そっとドラゴンに近づいていってもいいですか? 私に何か用がありそうだから」

と、ブリジットさんに聞いてみる。


 ブリジットさんが困ったような顔をした。


「ドラゴンに人間のほうから近づくことは、緊急事態以外は禁止しているんです。ですが、そうですね……」


「ダメだよ、アデル。危ないでしょ? それに、あのドラゴンの目つき、気に入らないんだよね」


 そう言うと、私を後ろからふわりとだきしめたユーリ。


「ユーリ! ちょっと、何するの? 離して!」


 私は後ろをむいて、ユーリを見上げて訴える。

 何気に、最近、ユーリが接触してくる気がするけど、他国へ来て、情緒不安定なのかしら?

 あ、もしや、ホームシック? ブルージュ国に来て二日目だけど、時間は関係ないのかもね。 ユーリだけ、先に帰したほうがいいのかしら?


「嫌だ。あのドラゴン、アデルを狙ってるから」


 ユーリはドラゴンをにらみつけて、更に両腕をぎゅーっときつくして私をだきしめてくる。


「こら、離れなさい! ユーリ!」


 私の声に、ランディ王子の声が重なった。


「こら、離れろ、アデル!」


 は? 離れるのはユーリでしょ? 何言ってるの?


「ユーリさんに、後ろから抱きしめられてるんじゃない! うらやましい!」

と、更に言葉をなげてきたランディ王子。


 あまりに変すぎて、一瞬、ドラゴンの存在をわすれてしまうくらい、びっくりしてしまったわ……。


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