第104話 見られてる?!
この音って、なに!?
「ドラゴンの声ですが、どうしたのかしら……? この子、ここへ保護されてから、こんな大きな鳴き声をだしたことがなくて……」
困惑した様子で、ドラゴンの姿を目で探すブリジットさん。
でも、この部屋自体が屋外と思うほどに広く、背の高い木々や岩、山の斜面なども再現されているから、隠れていたら見つけるのが難しそうなのよね。
と、思った時、木々の影から黒いものが飛び立った。
「あれっ……!?」
思わず声がでた。
「ドラゴンですっ! でも、このドラゴン、まだここに来てからは飛んだところを一度も見たことがなかったのに! しかも、こっちにきてる……!?」
アンドレさんが興奮した様子で言った。
「アンドレ、声を落として! ……とりあえず、ドラゴンを刺激しないよう、みなさん、大きな声をださず、あまり動かないでください。ドラゴンの様子が通常と違います。まだ、子どものドラゴンなので、じっとしていれば大丈夫です。危害は加えてきませんので落ち着いてください」
緊張した面持ちで静かに忠告するブリジットさん。
私たちが息をのんでドラゴンを見守っていると、……ん?
なんだか、背中があたたかいんだけど。
後ろをふりむく。
えっ? ちょっと、なにしてるの、ユーリ!?
と、大声で言いたいところを、ぐっとのみこんで、かわりに目を見開いた。
ユーリはなぜか私の後ろに立ち、背中にぴったりとひっついているから。
私が目で訴えても、ユーリは微笑むばかり。
気になって仕方がないんだけど。
我慢できなくなった私は、ドラゴンに聞こえないよう、ささやくような声でユーリに聞いた。
「ちょっと、ユーリ。なにしてるの?」
「アデルと一体化してるんだよ」
一体化? 意味がわからないわね……。
「ええと、それはどういう意味かしら?」
「だって、ドラゴンから、アデルを守らないといけないでしょ。だから、僕の魔力でアデルをおおって、一体化してるんだよ。ほんとは、だきしめておきたいけど、アデル、恥ずかしいでしょ?」
と、耳元でささやいてきた。
ゾワっとする。
「全然わからないけど、わかったから……。ちょっと、耳元でしゃべるのやめてよ」
と、小声で文句を言う。
すると、ユーリは、色気あふれまくりの恐ろしい笑みを浮かべて、また、耳元でささやいた。
「だって、大きな声だしちゃダメだからね」
どう考えても、わざとでしょ! 小声でも、そんなに近づく必要ないもんね?
ドラゴンより、ユーリの方が絶対に危険な気がするわ……。
そして、ランディ王子が、何故か、ユーリの後ろにひっついてきたのが見えた。
なるほど。こちらも、一体化をしようとしてるのね……。
「来ましたよ!」
アンドレさんが小さな声で言った後、すぐに、真っ黒な大きな鳥のようなものが、私たち一団の前に、舞い降りた。
これが、本物のドラゴン!? ドキドキが止まらないわ!
てらてらと光る黒い鱗をまとい、金色の大きな目は、ぱっちりと開いている。
翼を閉じている姿はあまり大きくない。
まだ、子どものドラゴンだからなのか、表情は、あどけなく、かわいらしい!
なでなでしたい! もっと、近くで見たい!
そこで、ドラゴンが閉じていた翼をひろげた。
うわあっ! きれい!
飛んでる時はわからなかったけれど、翼の裏側は虹色に光っていて、すごいきれい。美しくて見入ってしまうわね。
でも、気のせいかしら。
このドラゴンに、すごーく見られてる気がするんだけど……。
まあ、気のせいよね。
私の隣にいたイーリンさんが小声で言った。
「ねえ、アデルちゃんのこと、すごく見てない?」
「え? やっぱり? イーリンさんもそう思う?」
その時、キュールルルルと音がした。
イーリンさんが、興奮した様子で私に言った。
「あ! 今の音、ドラゴンがアデルちゃんに向かって何か言ったみたいよ! だって、ドラゴンの声からでた虹色の光が橋みたいになって、アデルちゃんにつながったもの」
小声だけれど、皆、静かにしているので、全員に聞こえている。
「イーリン王女様、それはどういうことでしょうか?」
ブリジットさんが驚いた顔で聞いてきた。
「私には魔力があって、見えるものがあるんです。それを詳しく説明するのは、ここでは省きますが、その魔力で見たところ、このドラゴン、アデルちゃんに近づきたがってる気がします」
イーリンさんが自信をもって言いきった。
「さっきの精霊の時もだけど、アディーは、この国につくづく縁があるんだね。やっぱり、この国に住まなきゃね」
私に向かって、甘く微笑みかけるデュラン王子。
非日常なドラゴンを前にしても、いつもと変わらないデュラン王子。
信じられないほど動じてないわね……。
そして、私の背後に張り付いているユーリと、その後ろにはりついているランディ王子も、目の前にいるのはドラゴンよ!?
3人とも、もっと、ドラゴンに集中して!
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