第102話 魔力シャワー

 興奮してしまった私に、ブリジットさんは優しく微笑んだ。


「ドラゴンは、本当に不思議な存在です。私は、ドラゴンに関わってから何十年もたちますが、いまだに、生きているドラゴンを目の前にしたら、夢を見ているような気持ちになるんです。アデル王女様のように、憧れる気持ちをもってくださっている方に会えると、ドラゴンも喜ぶと思います。こちらの思いは、恐ろしいほどに伝わりますから」


 ブリジットさん、なんて素敵な人なの! 

 やはり、ドラゴンは身近に置く人を選ぶのね! 


「では、皆様。こちらにどうぞ」


 そう言って、アンドレさんが私たちを建物の中に招き入れてくれた。


 扉をくぐったとたん、上から、大量の光がふりそそいだ。


「え? 今の光、なにっ?」


 びっくりして、思わず、声をあげた私。


「今のは、ドラゴンに悪影響を与える雑菌を消毒する、光の魔力シャワーです。ドラゴンは大変、貴重な存在のため、国から特別に貸し出ししていただいてる魔道具です。この魔力シャワーのおかげで、一般の方に、保護しているドラゴンを見ていただくこともできるようになりました。まあ、公開できるかどうかは、その日のドラゴンの状態にもよりますが」

と、説明してくれたアンドレさん。


「ブルージュ国って、そんなすごい物があるの?」


 思わず、デュラン王子のほうをむいて、たずねた。


「まあ、光の魔力は貴重だからね。魔力シャワーは国にも数台しかないんだ。でも、ドラゴンは、今や、この大陸でもブルージュ国にしかいないだろう? 出来るだけのことをするために、この保護センターに一台貸し出してるんだよ」

と、デュラン王子が説明してくれた。


「うわあ、すごい!」


 興味津々で、さっき通りすぎたばかりの魔力シャワーの装置を振り返って見ていると、ユーリが言った。


「ねえ、アデル。あれ、欲しい?」


「いや、欲しいっていうか、すごいよね? 魔力で菌が流せるんだよ?」


「アデルが欲しいなら、僕の魔力で作ってみようかな? どうせ、ありあまってるし」


「え、できるの、ユーリ?」


 私が驚いて聞くと、ユーリが妖しい笑みを浮かべた。


「そうだね。氷のシャワーみたいなのなら、簡単にできそう。アデル、いる?」


 氷のシャワー。すごく冷たそうね……。


「いりません。遠慮します」


「いります。ください!」

と、ランディ王子が会話に入ってきた。


 しかも、目をきらきらさせて、ユーリに訴えている。


「ねえ、ランディ王子、氷のシャワーをもらって、どうするの?」

と、聞いてみた。


「そんなの、部屋で毎日浴びるにきまってるだろ」

と、ランディ王子。


「……え? 氷だよ? 冷たいよ? 凍るよ?」

 

「氷が冷たいのはあたりまえだろ。なに、言ってんだ」


 そう言って、ランディ王子があきれた目で私を見た。

 

 いや、氷が冷たいのは知ってるわ……と、言い返したいところを、精神年齢が大人の私が、ここは、ぐっと我慢する。


「ランディ王子。氷が冷たいのがわかってるなら、なんで毎日あびるの? そんなに雑菌がいるとか?」


「おい、俺はきれいだ! そうじゃなくて、ユーリさんの魔力シャワーなら、毎日でも浴びたいからに決まってるだろ」


 ランディ王子は胸をはって答えた。

 デュラン王子もジリムさんもイーリンさんも聞こえているはずだけど、なんの反応もしない。


「あ、そうなのね……。じゃあ、ユーリ、作ってあげたら……?」

と、ユーリに投げた。

 

「アデルがいらないなら、作らない」


 あっさり答えたユーリ。

 

 ランディ王子がじっとりとした、恨みがましい目で私を見る。

 でも、私のせいじゃないわよね!? 

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