第101話 ドラゴン保護センター

 幸運のマカロンを胸につけ、すっかり元気になったランディ王子。

 意気揚々と馬車から降りた。


 私も続いて降りようとしたら、ユーリにとめられた。


「さっき泉に着いた時のこと、もう忘れたの? あの時と同じように再現しようか?」

と、顔を近づけて、ささやいてきた。


 いえ、結構です! 思い出しました! 顔が真っ赤になったことも!


「どうぞ、ユーリ、先に降りて! それで、ユーリの手をとって、私が降りればいいんだよね!?」


 私が叫ぶように言うと、ユーリは妖しいなにかをふりまきながら、微笑んだ。


「残念。忘れてたなら、もっと刺激を強くしてもいいかな、って思ってたのに」


 もっと刺激ってなに……。怖いことを言うわね……。


 たかが馬車を降りるだけで、私の体温を一気にあげようとするなんて、さすが魔王だわ……。 

 

 馬車を降りると、イーリンさんがすぐに私のそばによってきた。


「ランディ兄様の胸についてるピンクのものって何? 確か、アデルちゃんのポシェットについてたよね?」


「あれは、マカロンだよ。私の甘いもの好きな友達、あ、ユーリの弟で、私の親友でマルクって言うんだけど、マルクがくれたの。幸運をもたらしてくれるんだって。

私、マカロンは大好きだし、かわいいから気に入ってたんだけど、……まあ、色々あって、あのマカロンにユーリの魔力をいれて、ランディ王子にあげたの」


 私がざっと説明すると、イーリンさんがうなずいた。


「ランディ兄様にとったら、すでに幸運がもたらされてるよね……。ほら、ランディ兄様が、今、ユーリさんになにか話しかけたでしょ? ランディ兄様の言葉から、あのマカロンと同じピンク色が噴出してるのが見える……」


 ピンク色が噴出? うーん、不思議な感じね……。


「まあ、でも、ランディ王子が幸せそうでよかった。マカロンを手放したかいがあったわ」

と、答えたものの、今の私の興味はマカロンよりドラゴン!


 なんだかワクワクしてきた!


 馬車からおりると、目の前には、大きな建物がそびえたっていた。

 近くに家はなく、背後は山。


 入り口には、メガネをかけた40代くらいの女性と若い男性が待っていた。

 

「ようこそ、いらっしゃいました。私が、センター長のブリジット・モナミと申します」


 まず、ご挨拶してくれたのは女性の方。

 グリーンのシンプルなワンピースを着て、茶色い髪の毛を結いあげている。

 全くドラゴンと結びつかないくらい、やわらかい印象のかわいらしい女性だ。


 そして、次に、もう一人の若い男性が少し緊張した顔で挨拶をした。


「私は、センター長の補助をしています、アンドレ・グリットと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします」


 こちらの男性も、ドラゴンのイメージとは全く結びつかない。

 細身で、金髪の巻き毛がふわふわして、グリーンの大きな目。

 かわいらしい印象の美形で、ドラゴンに会ったら倒れてしまいそう。


 勝手なイメージだけど、ドラゴンに関わる人は、ドラゴンを御せるほど強そうな人だと思っていたので、不思議な感じだわ……。


 そして、ジリムさんが私たちを順に紹介してくれた。


「アデル王女様は、ドラゴンは初めて見られるのですか?」

と、ブリジットさんが聞いてきた。


「そうなんです! お恥ずかしいことに、さっきまで、まさか、ドラゴンが実在しているとは思わなかったので衝撃をうけています! 私は本がすきなので、物語でしか知らなかったけれど、ドラゴンには憧れてるんです! だから、今、本物に会えると思うと、非常にドキドキしています! 早く、会ってみたいです!」


 前のめりで、しかも、すごい勢いで答えてしまった。

 王女らしさはかけらもないけど、お許し下さいね。興奮してますので!


 笑い上戸のデュラン王子がプッとふきだし、ランディ王子が、「変な奴」と、つぶやいたのが聞こえた。

 マカロンを胸につけている君には言われたくないよね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る