第100話 幸運をもたらすもの
馬車が止まり、次の目的地に到着。
ドラゴンに会えるなんて、ドキドキがとまらない!
どこまでも、テンションがあがってしまう!
と、思ったら、斜め前の人から、どよーんとした重たい気が流れてくる。
頭のツノが消え、気落ちしたランディ王子だ。
私は見るに見かねて隣のユーリに小声で言った。
「ランディ王子が落ち込んでるから、ユーリの魔力、適当に流してあげられないかしら? あの氷の柱が頭についている時、ユーリの魔力が感じられるって喜んでたし」
「ふーん、変わってるね? じゃあ、手っ取り早く、凍らせる?」
と、小首をかしげたユーリ。
「ちょっと、かわいいしぐさでなんてこと言うの? 人は凍らせるもんじゃないからね!」
私の言葉に、ユーリが微笑んだ。
「僕のこと、かわいいって思ってるんだ、アデル」
「いや、全然。しぐさがかわいいって言っただけだけど?」
「同じでしょ?」
「違います」
「同じだよね。だって、しぐさも僕がしたことだからね」
「違うわ。しぐさのみをかわいいって言ったの」
「かわいい論争の途中、申し訳ありませんが降りてください」
と、冷静に言ったジリムさん。
気がついたら、馬車の中には、ジリムさんと私とユーリ、そして、ランディ王子だけになっている。
「では、私は先に降りますので、師匠である次期公爵様は動かなくなっている弟子の回収もよろしくお願いいたします」
そう言って、ジリムさんも降りていった。
うなだれたまま、固まってしまっているランディ王子。
もう一回、あのツノを作るにも、ここにはあの泉の水がないし……。
あ、そうだわ!
私は襟元の小さなブローチをはずした。
「ユーリ、これにユーリの魔力をこめてくれる? ランディ王子につけてあげるから」
「絶対ダメ! 僕でさえ、アデルからアクセサリーなんてもらったことないのに」
強い口調で断固拒否するユーリ。
そんなこと言っても、早くしないと、みんな外で待ってるし……。
その時、ユーリが私のポシェットに目をやった。
「ねえ、朝から気になってたんだけど、それなに?」
「ポシェットよ。今日は観光でカジュアルな恰好だから、自分の荷物くらいは持ちたいと思って」
「ポシェットはわかるよ。そうじゃなくて、ポシェットにぶらさがっている、ピンク色の変なまるいやつ」
「あ、これ、かわいいでしょ? 幸運をもたらすマスコットなんだって。この旅行に来る前に、マルクにもらったの!」
「かわいい? 幸運? それが? で、結局、その物体はなんなの?」
「マカロンだよ! ユーリ、見てわからないの?」
「……」
一瞬、無言になったユーリ。そして、言った。
「アデル、それに魔力をこめて、ランディにあげる。だから、すぐに、はずして」
「ええっ、これ? 結構、気に入ってるんだけど」
「それよりは、はるかに幸運になりそうなものを後であげるから。それに、マルクとはいえ、他の男のプレゼントをつけてるのは気に入らない。だから、はずして? ね、アデル」
有無を言わせない圧の強さ。魔王っぽさがあふれ出している。
はいはい、わかりましたよ!
さようなら、私の幸運のマカロン!
私は、マカロンをはずすと、ユーリに手渡した。
ユーリは、すぐさま、手をかざす。
ひんやりとした空気が漂いはじめた。
「はい、終わり。じゃあ、ランディ、僕の魔力の入ったこれをあげる」
と言って、うなだれているランディ王子の手のひらにのせた。
すると、はっと顔をあげたランディ王子。
「ユーリさんの魔力だ! 冷たくて、気持ちいい……」
「さっきの氷の柱よりは持つから。魔力がきれたら、また、入れるよ」
何度でも魔力をいれられるなんて、なんて効率的!
ランディ王子が満面の笑みを浮かべて、ユーリを見た。
「ありがとう、ユーリさん!」
すっかり、元気になったランディ王子は、ピンクのマカロンのマスコットを胸につけはじめた。
え? そこへつけるの? マスコットはピンでとめられるけど、そこ?
わたしも、マカロンはかわいいとは思うけど、そこ?
結構、そのマカロン、大きいよね? しかも、あざやかなピンクよ?
ランディ王子は高級そうなシャツに、迷わず、ピンをつきさしている。
私はマカロンって知ってるから、そう見えるけど、知らない人が見たら不思議な丸いものを胸につけているように見えると思う。
しかも、ボリュームがありピンク色なので、やたらと目立つ。
要するに、胸につけるものではないってことでは……?
でも、本人は幸せそうだから、ま、いいか。
さすがは、幸運になるマカロンね! すでに幸運をもたらしている。
オパール国へ帰ったら、すぐにマルクに報告しなきゃ!
そして、私もひとつ買いたいな。
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