第98話 なんて勇気!
いくらランディ王子本人が気に入っていようとも、このままでは移動できないから、氷の柱を撤去することに。
「まあ、氷だから待てば溶けてくるけどね」
と、ユーリ。
あの量の氷の柱が溶けたら、全身びしょぬれになるけど?
ということで、ユーリに外してもらおうとしたら、当のランディ王子が文句を言い出した。
「せっかく、ユーリさんの魔力でつけてもらったのにもったいない! もうちょっと、こうしてたい!」
自分の今の姿をちゃんと認識してるのかしら?
決して、喜ぶような状態ではないんだけど?
なんて考えていると、ユーリがランディ王子に近づき、頭の上に手をかざす。
その瞬間、バキッと音がして氷の柱が折れた。
でも、ランディ王子の頭の上には、氷の柱が15センチくらいは残っている。
「ほら、これでいいでしょ? 残りは溶けるまで、そのままにしといたら?」
「うわあ! やっぱり、ユーリさんってすごい!」
あこがれの眼差しでユーリを見るランディ王子。
いやいや、変よね?
というのも、15センチだけ残された氷の柱が私にはツノに見える。
これは、前世で言うところの、まさに鬼じゃない?
しかも、15センチとはいえ溶けてくると頭がぬれるよ?
なんて疑問がうずまいたけど、ユーリをきらきらした目で見ているランディ王子には何も言えない……。
「では、興味深い体験もできたことですし、次の場所に移動しましょう」
と、冷静に仕切るジリムさん。
こうして、私たちは馬車へ戻ることになったのだけれど、ユーリの横には、ユーリのバッグを持ったツノがはえた小鬼がつき従っている。
なんだか、ユーリの魔王感が増したわね……。
感慨深く見ていると、イーリンさんが横から話しかけてきた。
「あのね、ランディ兄様がユーリさんに話しかけるたび、花が舞い散ってるの。
でもね、ユーリさんの言葉って、いいか悪いかわからないけど、すごい渦をまいていて、ランディ兄様から飛んできた花を、ガンガンはじきとばしてるんだよね……」
え? そんなものが見えてたの!?
「それは……なんというか、花と渦のすごく変わった攻防ね……?」
「ほんとそう。でも、アデルちゃんと話すときだけ、ユーリさんの言葉の渦が逆にまわりはじめるの。アデルちゃんからでるものを全部、自分のほうへ、すいこんでいくんだよ」
「え? そうなの!? なんか、それも怖いような……」
「うん、アデルちゃんへのすごい執着も感じるよね。でも、ユーリさんには負けないわ! アデルちゃんと姉妹になって、この国で一緒に住みたいからね!」
イーリンさんの迫力に押されるように、
「ハハハ……」
と、笑って受け流す私。
いきなり、私の前を歩いていたユーリがふりかえった。
「ねえ、アデル。なんか、縁起でもないことが聞こえた気がしたんだけど?」
と、冷気をにじませた声で言った。
きらびやかな美貌はまぶしいけれど、目が笑ってない。怖い……。
「何も言ってないよ? 気のせいじゃない?」
と、平気な顔をして答えておく。
さっきの内容がばれたら、イーリンさんが危険だもの! 守らないと!
念のため、私は横を歩いているイーリンさんの前に出て、ユーリとの間に入る。かなり不自然だけど、仕方がないわよね。
「ふーん、それならいいけど……。でも、アデルとぼくを引き離そうとする、ろくでもない考えは、すぐさま、捨てたほうがいいよね」
私を通り越して、私の後ろにいるイーリンさんに氷のような視線をなげた。
イーリンさん! 私のうしろに隠れてて!
心の中で念じていると、さっと横に気配があった。
え? イーリンさん!? なんで、横にでてきてるの!?
早く、隠れて!
が、イーリンさんはユーリのほうをまっすぐに見て言った。
「でも、アデルちゃん自身が希望したら、とめられないですよね? 私は、この国を好きになってもらって、この国に住んでほしいなって考えてるんです。だから、がんばりますね」
と、にっこりと微笑んだ。
イーリンさん、なんて勇気なの!
「短い間に、変われば変わるもんだな……。ランディ王子もだけど、変わりすぎだろ……」
と、つぶやいたジリムさん。
そして、琥珀色の瞳をきらきら輝かせながら、はっきりと主張する姿は、まさにリッカ先生の小説のヒロイン。
こんな時だけど、萌えてしまう……。
それにひきかえ、凍てつくほどの冷気を放ちだしたユーリ。
隣で、小鬼が歓喜の表情で、寒さにふるえてる。
それなのに、おびえることなく堂々と受けて立つイーリンさん。
ヒロイン VS 魔王。一体、どうなるの?
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