第97話 心配してあげて?
「ねえ、アデル。何、話してたの?」
と、ユーリがランディ王子をつれて近づいてきた。
「ええと……、ランディ王子が楽しそうだねって話してたんだよ」
うん、嘘は言ってないわよね。
が、これ以上つっこまれるのは困るので、あわてて、ランディ王子の方を向いて聞いてみた。
「どうだった? 魔力の練習」
「最高だったぞ! ユーリさんに教えてもらって、すごく、水の流れが見えるようになって、……ブッ!」
話の途中で、いきなり噴き出したランディ王子。
「よく見たら、その姿、すごい笑えるよな!」
と、私を指差して笑っている。
ちょっと、人を指差してはいけません!
私はムッとしてしながら聞いた。
「なにが、そんなにおかしいの?」
「だって、頭の上から、すごい勢いで水が上にでっぱなしなんだぞ。笑えるだろ? ギャハハハ……」
王子とは思えない品のなさで爆笑している。
そんなランディ王子にユーリが冷たい目をむけた。
「ランディはアデルがうらやましいんだね? わかった、全く同じにはできないけど、似たような感じにしてあげるよ」
そういうやいなや、泉に近づき、噴き上がる水に手をかざして、素早く凍らせて、氷の柱をつくり、手で折って、泉から取り出した。
そして、その氷の柱をランディ王子の頭のてっぺんにおき、少しの間、おさえてから、手を離したユーリ。
ええええ!? うそでしょう!?
ランディ王子の頭の上に、ほそながい氷の柱がたっている。
しかも、私と違って、本物の氷の柱なので、皆に見える。そう、通りがかりの人たちにも……。
みんな、茫然として、ランディ王子の頭に注目してる。
「噴水にはできなかったけど、似たような感じでしょ?」
と、それはそれは美しく微笑んだユーリ。
「いやいやいやいや、何してるの? ユーリ!」
思わず、声にだして、つっこんでしまった。
「アデルのことを馬鹿にするなんて許せないからね」
そう言うと、ユーリは私に向かって甘く笑いかけてきた。
そんな表情で、やってることはすごいんですが……。
「あっ、あのおにいちゃん、あたまから、なんかでてる! 」
早速、小さな子どもがランディ王子を指差して叫んだ。
今や、皆が恐れと好奇心のまじった目で、ランディ王子の頭に注目している。
「ほお。恐ろしいくらいの魔力を、なんとも斬新に使いましたね」
感心したようにつぶやくジリムさん。
ほんとにね……。魔力の無駄遣いというか……。
まあ、でも、とりあえず、なんとかしないと!
「ちょっと、ユーリ。早く、元に戻しなさい」
私が、ユーリに詰め寄っていると、嬉しそうな声。
「さすが、ユーリさんだ! こんなことできるなんて、すごいっ!」
頭の上の氷の柱を手でさわりながら、何故か喜んでいるランディ王子。
「ほら、本人も気に入ってるみたいだから、そのままで、いいんじゃない?」
ユーリが涼しい顔で言うと、ジリムさんが首を横に振った。
「いえ、この後、移動しますので、あれでは馬車に乗れません」
確かに……。
しかし、ジリムさん、なんとも冷静だわね……。
「じゃあ、ここにランディをおいていこうか? 王宮まで歩いて帰れる距離だし」
と、デュラン王子。
え? それも、ひどいような……。
「でも、氷の柱が長すぎて、あれじゃあ、歩きにくいんじゃない?」
これまた冷静に意見を言う、イーリンさん。
みんな、あのランディ王子の様子は異常事態よ!?
だれか、心配してあげて!
なんだか、ランディ王子がかわいそうになって、もう一度見ると、なぜか、顔がゆるゆるになっているランディ王子。
私は、ランディ王子におそるおそる聞いてみた。
「ねえ……。そんな変な状態なのに、なんで嬉しそうなの?」
「ユーリさんの凍えるような冷たい魔力が俺の頭と一体化して、嬉しいんだよな。ま、アデルにはわからないか」
と、誇らしげに笑ったランディ王子。
いや、わかりたくないです。
というか、この人、一体、なにを言っているのかしら?
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