第96話 冗談でもやめてね

 一生、ユーリについていく宣言をしたランディ王子。


 ユーリが氷のような目で見ようが、冷たい言葉を放とうが、離れるどころか、更に、ユーリにぴったりとひっついていく。

 すごい、根性があるわね!


 そして、ついに、ユーリのほうが根負けした。


「じゃあ、少しだけ、ここで魔力をあげる練習をしてみる? ここの泉、ランディとも相性が良さそうだし」


「はい!」


 いい返事をするランディ王子。しっぽをすごい勢いで振っているのが見えるような気がするわ。


「じゃあ、泉の水に手をつけてみて」


「はい!」


「ここの水が自分の中へはいっていくイメージをしてみて」


「はい!」


「じゃあ、一旦、泉から手をだして」


「はい!」


「手と泉の間に何が見える?」


「あ……、細い光が、ほんの少し見えます」


「そこに焦点をあわせて」


「はい!」


 ランディ王子の、はきはきした返事があたりに響きわたる。

 人間って、こんなに短期間に変われるのね! と、改めて驚いてしまう。


 訓練をしているふたりから少し離れて、その様子を眺めていると、ジリムさんが私に話しかけてきた。


「私は王都の中心で生まれ育って25年。正直、この泉に初めて興味がわきました」


 えっ!? なに、その突然の告白! 

 国の起源となる、「命」なのよね……?


「正直すぎるだろ、ジリム」

と、デュラン王子が苦笑する。


「いくら、天然の泉で魔力があって、空高く噴き上がっていようと、見慣れた私からしたら、まあ、ただの泉。この水を飲んだら、病が治るみたいな劇的なこともないですしね。ですが、アデル王女様が来ただけで、こんなに色々なことがおこるなんて。

正直、驚きました。本当に、おもしろいことを引き寄せる方ですね」


 私に向かって、笑みをうかべるジリムさん。


「いえ、私が引き寄せた訳ではないですよ。不思議な何かを見たのは、イーリンさんとランディ王子だから」


「いえ、おふたりとも、アデル王女様と泉に関してのなにかをご覧になってますから。やはり、アデル王女様が要因だと思われます」


 自信をもって断言したジリムさん。


「そうだよね。僕もそう思う。ねえ、ジリム。アディーがこの国にいたら、絶対楽しいよね? 欲しくない? この国に」

と、デュラン王子がジリムさんにおかしなことを言いだした。


 あのね、私はいたって普通の人間です。

 ひとつの国にひとり欲しいみたいな、特異な存在ではないわ。

 

 ジリムさん、しっかり否定して!


 が、私の思いもむなしく、ジリムさんが大きくうなずいた。


「ええ、そうですね。うちの国に来ていただければ、おもしろそうです」


「私もそう思うわ。 できたら、アデルちゃんに妹になってもらって、一緒に住めたら最高。だから、デュラン兄様を応援する。この国にアデルちゃんを呼び寄せよう!」

と、力強く宣言しているイーリンさん。


「イーリンが応援してくれるなんて、嬉しいね。じゃあ、アディーを家族にするため、みんなでがんばろう。いいよね、ジリム」

と、デュラン王子。


 ええと、一体、この人たちは何を言っているのかしら? 

 おかしな方向につきすすんでるので、常識人のジリムさん、とめて!


「ええ、私も賛同いたします。かわりといってはなんですが、ランディ王子を次期公爵様のところに差し出しましょう」

と、ジリムさんが淡々と言った。


 ジリムさん……。今、とても変なことを言いましたよ?


「あ、それいいね! ランディがあんなに懐いて、楽しそうだもんね。次期公爵のところに弟子入りさせてもらったらいいんじゃない?」


 そう言って、ランディ王子が微笑んだ。


「そうね。ランディ兄様もそのほうが喜ぶわ! そうと決まれば、アデルちゃんにこの国をうーんと好きになってもらって、この国にずっと住みたくなるようにがんばらないと」

 

 イーリンさんの張り切った声。

 うん、イーリンさんがすっかり活発になって、本当に良かったわ。


 でも、みなさん、使い魔を絶対に手放したくない魔王ユーリに聞かれたら面倒なので、冗談でもやめてね……。

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