第95話 つながった?
「ランディ、どうした? 何が見えるんだ?」
デュラン王子が心配そうに声をかけた。
「アデルの頭の上から水がでてる! あの泉みたいに水が噴き上がってるんだ!」
と、叫んだランディ王子。
「……へ?」
思わず、変な声がでたのも仕方がないわよね。
「だから、頭の上! あんな風に!」
と、じれったそうに私の頭の上と、噴きあがる泉を交互に指さすランディ王子。
「ちょっと待って……。 つまり、ランディ王子は、私の頭のてっぺんから、あんな感じで水が噴きでているのが見えてるの?」
「だから、そう言ってるだろ!」
動揺しているランディ王子は、ユーリににらまれているのもわかっていない様子。
思わず想像する。うん、嫌かな……。
ということで、とりあえず、頭のてっぺんに手をおいて、噴き上がっているらしい水をおさえてみた。
「これでどうかしら? 水、とまった?」
と、ランディ王子に聞いてみる。
近くでデュラン王子がプハッとふきだしたけれど、気にしない。
「全然、とまらない! 手を通りぬけて噴き上がってるぞ!」
興奮しまくっているランディ王子。
「ねえ、イーリンさん……。ランディ王子は、一体、何を見ているのかしら?」
「うーん、私には、アデルちゃんのまわりにいる精霊しか見えないんだよね……。
ほんと、何が見えてるんだろうね? それに、ランディ兄様はさほど魔力がないし、今まで何か見たなんて聞いたこともないんだけど。急にどうしちゃったんだろ……」
と、首をひねっている。
そこで、私は頭のてっぺんをおさえたまま、今度はユーリを見た。
「ランディ王子が言ってること、ユーリには見える?」
と、魔王ユーリに聞いてみた。
ユーリが私の頭の上をじっと見る。
青い瞳が、ゆらゆらと幻想的に揺れている。
あ、魔力を使って、見てるのね……。
それから、ランディ王子へ視線をうつす。そして、泉にも。
最後に、また私に視線を戻した。
「大丈夫だよ、アデル。なんにも心配しないで」
そう言って、頭のてっぺんをおさえている私の手に自分の手を重ねた。
そして、重ねたまま手をにぎりしめ、優しくもちあげると、そーっと、頭からおろす。
このおかしな状況だけれど、ユーリのさりげない行動に、またもや顔が熱くなった。
なんだか、近頃、ユーリの行動が甘くて、恥ずかしいというか……。
うーん、魔王なのに、一体どうしたのかしら?
あ、いけない。そんなことを考えてる場合じゃないわ!
「ねえ、ユーリ。もしかして、ランディ王子が見えてるものがなにか、わかったの?」
ユーリがうなずいた。
「さっき、アデル、泉にひっぱられて手をつけたでしょ。あれで、アデルと泉はつながったんだよね。まあ、アデルはあの泉と魔力がもともと似てるみたいだから。精霊は仲間だと思ったんだろうね。で、泉とつながったことで、今、アデルは、歩く泉みたいな感じになってるかな」
「え、歩く泉……? それって、かなり変じゃない?」
デュラン王子とイーリンさんとジリムさんが興味深そうに、私の頭の上をじっと見てる。
みんな、私の頭から水が噴き上がっているのを、想像してるんだわ……。
「でも害はないよ。それどころか、癒すような優しい魔力をふりまいてる感じかな。湧き出る泉とつながっているから、アデル自身の魔力が枯渇する心配もないしね」
と、ユーリが補足した。
うーん、喜んでいいのか微妙なんだけど……。
「あ、でも、なんで、ランディ王子にだけ見えてるのかしら?」
「多分、ランディは水の流れが見える魔力があるんだと思う」
「えっ!?」
と、叫んだのは、ランディ王子。
「ほら、そこの王子は体の中を魔力で見るし、そこの王女は言葉の真意を魔力で見る。つまり、この家系って、見える魔力がありそうじゃない?」
「ユーリさん! じゃあ、俺、魔力が弱いんじゃないってことですか?」
ランディ王子が期待に目を輝かせて、ユーリに聞いた。
「そうだね。水の流れに特化すれば、結構、魔力は強まるんじゃない?」
ユーリがさらりと言った。
「ありがとうございます! ユーリさん! 俺、ユーリさんに、一生、ついていきます!」
ランディ王子がすごい勢いで、ユーリに言った。
「あ、やめて。一生は、アデルだけでいいから」
冷めた眼差しで、即刻断ったユーリ。
が、ランディ王子はきらきらした目でユーリを見ている。
「いえ、ついていきます! 俺、オパール国へ移住しようかな」
「それ、いいですね」
と、いきなり、口をはさんできたのはジリムさん。
なんだか目がぎらついている。
妙に本気を感じて怖いわね……。
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