第93話 歓迎されてる!
見えていたのは、空高くまで噴きあがる水。
「もしかして、噴水!?」
私は思わず声をあげた。
「これはね、人工的な噴水じゃなくて、自然に湧いている泉なんだ。それに、あの高く噴きあがっているのも自然なんだよ」
デュラン王子が私に説明してくれた。
「え、これが自然なの……?」
「近くにいくと、よく見えますよ。ついてきてください」
ジリムさんのあとについて、泉のそばまでやってきた。
丸い形をした泉は、そう大きくはなく、真ん中から、水が空高くまで噴き上がっている。
「この泉は、太古からあると言い伝えられていてね。まず泉があって、それから、まわりに人が住み始め、この街ができ、この国ができたっていう言われがあるんだよ。
この泉は、ポーリンって呼ばれているんだけど、古代語で『命』という意味になる。
つまり、この泉から、ブルージュ国はできたってこと」
と、デュラン王子が説明してくれた。
「太古からあるって、すごいわね! でも、なんで、上のほうの水が虹色なの。虹がでてるのかとも思ったけど、水自体が虹色に見えるんだけど……?」
私が聞くと、デュラン王子がうなずいた。
「この泉は不思議な魔力を含んでいてね。何故だか、ふきあがった状態、つまり、空に近づくと、水は虹色になる。魔力のせいだといわれているけれど、詳しくはわからないんだよね」
イーリンさんが、私のまわりを見ながら言った。
「アデルちゃんのまわりに、虹色の小さなフワフワしたものが集まってきてる。この泉の精霊みたいなんだけど」
「え! イーリンさん、精霊まで見えるの?」
「普段は、人が発する言葉についているものしか見えないんだけど、なんでかしら? 泉の精霊は見えるわ」
と、不思議そうなイーリンさん。
「おそらく、精霊は、この泉の意志を伝えようとする言葉みたいな存在だからじゃない? だって、ほら、アディーのまわりによってきたんなら、来てくれてうれしいってことでしょ」
と、デュラン王子。
「この泉に歓迎されてるなら、すごく嬉しい!」
喜ぶ私をじっと見ていたイーリンさんが、はっとしたような顔をした。
「そう言えば、アデルちゃんが話しかけてきてくれた晩餐会の時、アデルちゃんの言葉は、きれいな虹色をしてたって、私言ったよね。この泉の精霊と感じるものが似てるわ!」
「へえ、やっぱり、アディーはこの国に縁があるんだね。この国の起源ともいえる泉の精霊にまで気に入られたのなら、やっぱり、アディーはこの国に越してきたほうがいいよ。ね、おいで」
と、デュラン王子が甘く誘ってきた。
たちまち、場が寒くなった。ユーリから放たれる気で凍りそう……。
「アデルを呼び寄せようとするなら、この泉も精霊もまるごと凍らせてもいいけど? 元が水だから簡単だよね?」
と、妖しげに微笑んだユーリ。
「こら、ユーリ! やめなさい! そんなひどいことを言ったら罰があたるわよ!」
私が注意すると、すぐさま、ランディ王子がつっかかってきた。
「おい、アデル! おまえこそ、ユーリさんに、なんて口のきき方だ!」
すると、今度はユーリがランディ王子に凍てつくような視線を向けた。
「ランディ。ほんとに覚えないね? アデルは僕の婚約者だ。ランディこそ、口のきき方を改めないと、この泉に閉じ込めて、凍らせるよ」
「あ、すみません、ユーリさん。……と、アデル……さん」
悔しそうな顔で私に謝ったランディ王子。
それよりも、一応、ユーリに物申しておかねば。
「ユーリ。泉に閉じ込めて凍らせるだなんて、ランディ王子はともかく、精霊もいる泉に失礼でしょ!」
デュラン王子はクスッと笑い、ランディ王子は目をむいて私をにらんだ。
観光しているだけなのに、混沌としてきたわね……。
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