第90話 遠足?

「ジリムさん、朝食は食べられましたか? まだなら、一緒に食べませんか?」

と、誘ってみた。


 睡眠が不足してるなら、せめて栄養をとってほしい。

 とはいえ、私がごちそうになっている立場なんだけどね……。


「ありがとうございます。アデル王女様。仕事の合間に簡単に食べてきましたので、お気づかいなく」


 そう言って、疲れの濃い顔で微笑みかけてくれたジリムさん。


 笑うと、ジリムさんも美形なんだよね。

 でもそれを上回る悲壮感……。


 鋭い目で、すでに朝食を食べ始めているデュラン王子を睨むジリムさん。

 が、そんな視線をものともせずに食べるデュラン王子。

 

 やはり、メンタルが強すぎる!


 そんな微妙な空気の中だけれど、おなかがすいていた私は、遠慮なく食べる、食べる、食べる!


「アデル、よほど、おなかがすいてたんだね」

と言いながら、ユーリ自ら、カップに紅茶のおかわりを注いでくれたり、パンをお皿にとってくれたり。


 まるで乳母のように、かいがいしく世話を焼くユーリを、驚いたように見つめるイーリンさん。


 ユーリ、ほんと、ロイドに似てきたね……。


 そして、おなかいっぱいいただき、大満足の私。


「とても美味しかったです。ごちそうさまでした!」

と、心からのお礼を述べた。


「朝食、気に入ってくれて良かった。いい食べっぷりだったね」

と、微笑むデュラン王子。


 朝食を食べている間、離れたところで書類を読んでいたジリムさんが、ずいっと近づいてきた。


「では、今日のアデル王女様のご予定を簡単に説明させていただきます。長旅の後なので、今日は、ゆったりしたスケジュールを組んでおります。まずは、王都の見どころを何か所かご案内します。。同行者はデュラン王子と私。そして、王宮に帰ってきてからですが、王太子がお茶をご一緒したいと申しております。あとは、デュラン王子の図書室にご案内いたしますので、ゆっくりとお好きな本を選んで、お部屋にお持ちください。出発は、今から30分後に予定しておりますが、よろしいでしょうか?」


「はい! よろしくお願いします!」


 私はわくわくして、ジリムさんに答えた。


「ジリム。わたしもついて行っていいかな?」

と、イーリンさんが聞いてきた。


 デュラン王子とジリムさんが驚いた顔をしている。


 が、私の気持ちは更に舞い上がった。

 とういうのも、私は女の子の友達がいない。というか、一度もいたことがない。

 だって、友達はマルクだけだったから。

 自分で言って悲しいんだけどね……。


 よって、女の子の友達とどこかへ出かけるなんて、今世では初めてだわ!


「イーリンさんが一緒なら、とっても嬉しい! 私も一緒に行ってほしい!」


 思わず、大きな声がでた。


 ということで、30分後。

 目の前には、大きな馬車がとまっている。


 が、ここで、さらに思わぬ人が登場した。


「ええと、もしかして、ランディ王子も行くの?」


「あたりまえだろ。ユーリさんが行くんだから、弟子の俺がついて行かないとな。

ということで、ユーリさんの隣は俺が座るからな。遠慮しろよ、アデル」


 なんだかえらそうな態度で話す、ランディ王子。


 まさかとは思うけれど、兄弟子の気分なのかしら? 

 私は、ユーリの弟子じゃありませんよ?


 そして、ユーリの隣の席は、どうぞ、どうぞ。お好きに座ってね。

 私は、イーリンさんの隣に座りたいし。


 ということで、馬車の前には、ぞろぞろと濃いメンバーが集まっている。


 私とイーリンさんは、動きやすく、カジュアルなドレスを着ている。

 それにしても、前髪をきったイーリンさんは、琥珀色の瞳を輝かせて、いきいきとした表情で本当に素敵よね!


 そして、ユーリとデュラン王子とランディ王子。

 みんなもシンプルな装いだけれど、顔のつくりが派手なので、やたらときらびやかな集団になってしまっている。


「では、奥に座られる方から乗っていただきたいのですが、どのような並びで座られますか?」

と、ジリムさん。


 そうか、3人対3人で、向かい合うようにすわる座席になっている馬車なのね。


「私は、イーリンさんの隣に座りたいです」

と、私がまず希望を言った。


 ランディ王子が負けじと意見を言う。


「俺はユーリさんの隣に座る。弟子だからな」


「アデルの隣じゃないと座らないから」

と、言いきったのはユーリ。


 ん? ……なに、それ?


「じゃあ、僕はアディーの真ん前がいいな。顔がよく見えるからね」

と、微笑みながら言うデュラン王子。


 イーリンさん以外は、私も含め、自分の希望を言いっぱなしだ。


 ジリムさんの眉間のしわが更に深くなった。

 座る並びを考えてるのよね……。

 ほんと、お世話をかけてすみません。


 そして、ジリムさんが口を開いた。


「皆さんの好き勝手な意見をまとめさせていただきました。有無は言わせません。変更も聞きません。黙って、私が言う通りに座ってください」

と、言い放った。


「まずは、進行方向をむいた席には、奥から、次期公爵様、アデル王女様、そして、イーリン様の順で座っていただきます。そして、向かい側の席には、奥から、ランディ王子、デュラン王子、そして私が座ります。ランディ王子、次期公爵様の隣の席はとれませんので、向かい側でがまんしてください」

と、一気に言いきった。


 すごいね、ジリムさん。

 即座に、それぞれの希望を取り入れた席を決めるなんて。


 ジリムさんの差配によって、事なきをえた席順。皆が座り、馬車は無事出発。

 ゆったり座れるスペースはあるのだけれど、一人一人のキャラが濃く、きらきらしすぎて、圧がすごい……。


 でも、やっぱり、わくわくしてきたわ。

 なんだか、前世の遠足みたいよね!  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る