第89話 朝から

 人口密度が高くなった部屋。

 自己主張の激しい人たちばかりで収集がつかなくなり、そのまま解散した。

 初日から濃い一日で、疲れた……。


 でも、すっきり眠ったら、元気いっぱい二日目の朝をむかえました!

 はあー、お天気も良くて、窓から見える朝の景色が最高。


 アンもやってきて、身支度を手伝ってくれた。


 おなかもすいたし、あとは朝食ね! 

 しかも、朝食は、お部屋に運んできてくれるらしい。なんて快適!


 そこへ、部屋をノックする音が。

 あ、朝食だわ!  


 アンがドアを開けに行く。


「アディー、おはよう」


 そう言いながら、カートを押して入ってきたのは、まさかのデュラン王子だ。


 え? なにしてるの?


「アディーの朝食を持ってきたんだ」


 いやいや、それは、メイドさんのお仕事でしょ? 

 と思ったら、ちゃんと後ろで控えていてたメイドさんたちが、テキパキと朝食のセッティングをしはじめた。


 そして、また、ノックの音。

 アンがドアのところにむかう。

 

「おはよう、アデル。よく眠れた?」

と、さわやかに入ってきたのは、もう一人の魔王ユーリ。


 朝から、魔王同士が私の部屋でかちあうなんて……。


「ねえ、なんで、朝から、人の婚約者の部屋にいるの? 常識がないんじゃない?」

と、ユーリ。


 一気にご機嫌が急降下した魔王様。


「せっかくだし、朝食を一緒に食べたいと思ってね。君こそ、まだ、部屋でゆっくりしてたら? 朝食も君の部屋に運ぶように言ってあるし」


 そう言って、デュラン王子が不敵な笑みをうかべた。


「アデルの部屋は、僕の部屋みたいなもんだから。朝食もここで食べるのは当然。そっちこそ邪魔しないで?」


 ユーリは、デュラン王子を冷え冷えとした目で見据えた。


 さわやかな朝とはかけはなれた、殺伐とした空気が流れる。


 あのー、朝からやめて? 

 大人しく朝食を食べられないなら、二人とも追い出すよ!


 と、そこへ、またノックの音。


 次はだれかしら? 

 アンがドアのところに急いで行く。忙しいわね、アン……。


「おはよう、アデルちゃん」


 そう言って、入ってきたのは、なんと、イーリンさん。

 が、見た瞬間、思わず息をのんだ。


「イーリンさん、髪……髪が!? …すごい、…かわいいっ!」


 私は興奮のあまり言葉もきれぎれに、身もだえながら叫んだ。


 というのも、イーリンさんの長くのばされていた前髪が眉毛の上でパッツンと切りそろえられていたから。

 きれいな琥珀色の瞳が、はっきりと見えるようになっていた。


「昨日、アデルちゃんに勇気をもらったから、思い切って、私の魔力のことを家族に全部話したの。どんな反応されるか怖かったけれど、デュラン兄様の言うように、皆、驚いただけで、ごく自然に受け入れてくれた。そしたら、すごく安心してしまって……。だから、もう、今までのこと、すっきり手放そうと思って。それで、いつも髪を整えてくれる侍女に頼んで、前髪を切ってもらったの。早く、アデルちゃんに見せたくて来ちゃった」


 頬を染め、恥ずかしそうに話してくれたイーリンさん。

 昨日とは見違えるほど、明るい表情。本来は、こっちが本当のイーリンさんだったのね。

 長い間、大変だったよね……。


 私はイーリンさんに近づくと、ぎゅーっとだきしめたあと、心からの感想を伝えた。

 

「とっても似合ってて、素敵!」


「ありがとう。アデルちゃんのおかげで視界がひらけたわ!」

と、楽しそうに笑い返してくれた。


「ううん。イーリンさんが自分で変わったんだよ。私はきっかけだけ。……ねえ、イーリンさんは、朝食はもう食べたの?」


「いえ、まだ。アデルちゃんに、すぐに見せたかったから、食べずに来ちゃった」


「じゃあ、一緒に食べよう!」


 イーリンさんをテーブルのほうに連れて行く。


「イーリンが、一番、歓迎されてるね? 婚約者が来た時は普通だったのにね」

と言って、クスっと笑ったデュラン王子。


 うん、ひとこと多いタイプだね。

 

 そして、もちろん、黙っていないユーリ。すぐさま受けてたつ。


「僕とアデルは、いちいち言葉にしなくても、心でつながってるからいいの。そんなこともわからないなんて、かわいそうだよね?」


 あのね、二人とも本当に追いだすわよ!


 手際のよいメイドさんたちのおかげで、大きなテーブルに四人分の豪華な朝食が用意された。


 うわあ、美味しそう! 


 と思ったら、また、ノックの音。

 今度はだれ……? 早く食べたいんだけど。 


 そして、アンがでむかえたのは、ジリムさんだった。


 ジリムさんは、私たちを見た瞬間、驚いたように目をむいた。

 が、すぐに、淡々と言った。


「アデル王女様、おはようございます。お疲れはとれましたでしょうか?」


「ええ、ぐっすり眠れて、すっきりです。……って、ジリムさん。もしや眠れなかったの?」


 だって、目の下のクマが、また濃くなっているような気がするんだけど……。


「それが自由すぎるせいで、仕事がたまっていましてね。なのに、まさか、その当人が仕事もせずに、朝から、アデル王女様の部屋にやってきて、のんきに朝食を食べようとしているなんて驚きです」


 そう言って、デュラン王子をにらみつけたジリムさん。

 が、デュラン王子は全く気にしていない様子。


「でも、ほら。朝食ぐらい、好きな人と食べたいじゃない?」

と、にこやかに話したデュラン王子に、冷気を放ちだすユーリ。


「好きな人? 人の婚約者に、なにふざけたこと言ってんの?」


 ちょっと、やめなさい! 

 私の朝食を邪魔するなら、魔王たちといえど許しません!

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