第81話 小競り合い
ユーリの宣言どおり、ひときわ寒くなった私たちのテーブル。
王妃様は、さっきの方を再度呼んで、空調について尋ねている。
「理由はわからないのですが、寒いのは、このテーブル付近だけなので……」
困ったように繰り返す係の方。
そうでしょうとも……。
うちの魔王が、こちらにピンポイントで冷風を送ってますから。
ご迷惑をおかけして、本当にすみません……。
でも、ひとつ気づいたことがある。
王様とデュラン王子は全く寒くない様子。
が、王妃様と王太子様は寒がっている。
そして、二人よりは若干ましなものの、やっぱり寒い私。
これって、もしかして、持っている魔力に関係しているのじゃないかしら。
デュラン王子は相当な魔力量。
王様も同じ魔力が使えると言っていたので、多いのだと思う。
おそらく、王妃様と王太子様は魔力がとても少ないか、あるいは全くないのかも。
私は魔力が多少はあるから、お二人よりは、ましなのかしら……。
ということで、ユーリ!
ターゲットは王様とデュラン王子だろうけれど、違う人たちに被害がでているわよ!
私は、ユーリのほうをむいた。
ユーリもこっちを見ているので、すぐに目があった。
(寒いから、やめなさい!)
私はユーリをにらみつけながら、声にださずに口を動かした。
(じゃあ、それと話さないで)
ユーリも、声をださずに返してきた。
(それって、なに?)
(そのクソ王子)
こらっ、なんてことを言うの! しかも、食事中よ。
普段、汚い言葉を使わないのに、ユーリは一体どうしたのかしら?
困ったものだわね。
私がにらみつけると、ユーリがなぜか楽しそうに笑った。
ふと見ると、ユーリの前に座っているランディ王子が、そんなユーリをおびえた目で見ている。
ごめんなさいね。
同じテーブルにうちの魔王がいて……。
「アディー、向こうは気にしなくても大丈夫だよ。放っておこうね。そうだ。話の途中になってたよね。ほら、これのこと」
そう言って、お料理にあるパープルの花を手でしめしたデュラン王子。
あ、そうだったわ。
この花の話をしていた時、王様が変なことを言いだし、ユーリが宣戦布告をしに来たんだった……。
「確か、魔法の花って呼ばれてるんでしたっけ?」
と、記憶を巻き戻して聞いてみる。
「いや、花はモリスって呼ばれているんだ。そして、そのモリスの意味が、古代語で魔法の花って言うんだよ。昔ね、この国で大飢饉があったんだ。食べるものが何もなくなった時、この花がいたるところで、咲きはじめたそうだ。食べてみたら、美味しくて、栄養もあった。この花のおかげで、生き延びられた人が大勢いたと、言い伝えられているんだよ」
「まあ、すごいわ!」
私は尊敬のまなざしでパープルの花を見た。
「このお花……いえ、モリスは、うちの国でも育てられるのかしら?」
興味をひかれて、聞いてみた。
「それが無理なんだ。他の国に植えても、なぜか育たないんだよね。不思議でしょ?」
確かに、不思議なお花ね。
そう思って、じっくりと観察する。
……あら?
花から、デュラン王子の瞳に目を移し、また花に目を戻す。
え? 完全に同じ色じゃない?
私の顔を見ながら、デュラン王子がフフッと笑った。
「気がついた? そう、僕たち王族のこの紫色の瞳。モリスの瞳って言われてるんだよ」
スミレ色かと思ったけれど、モリスという花と比べたら、驚くほど同じ色だわ。
「素敵!」
「この色、好き?」
と、デュラン王子が聞いてきた。
「ええ。とってもきれいだわ!」
私の言葉に、デュラン王子がとろけるような笑みを浮かべた。
「アディーが好きだって言ってくれて嬉しいよ」
デュラン王子の声が、なぜか急に声が大きくなった。
と思ったら……ひゃあっ!
肩掛けが落ちそうになるほど、冷風がお隣のテーブルから吹きつけてきた。
もちろん、犯人は魔王……。
「涼しくて、ちょうどいいね」
デュラン王子が、私にむかって微笑んできた。
いやいや、ちっともよくないから……。
ほら、王妃様と王太子様が寒すぎて真っ青になっているじゃない。
魔王たちの小競り合いに普通の人間を巻き込まないで!
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