第79話 王様!
晩餐会は、王様のご挨拶から始まった。
そこで私を紹介してくださったため、みなさんの視線が私に集中する。
オパール国の王女として、ブルージュ国のみなさまに、少しでも好印象を持っていただかないとね!
そう思って、精一杯、王女らしさを絞り出して、優雅に微笑んでみる。
ふと、ユーリと目があった。
すると、ユーリが、それはそれは優雅に微笑んだ。
それよ、それ。そんな笑顔をしようとしてるんだけれど。
悲しいことに、真似できないわ……。
表情筋が疲れてきたところで、着席。
疲れた顔をふにゃふにゃっとゆるめて、くつろがせていると、デュラン王子がプハッと笑った。
はっとして、まわりを見ると、王妃様も王太子様も王様までもが微笑んでいる。
あ、見られてた…!
一気に顔が熱くなった。恥ずかしい……。
「アデル王女は、本当に、かわいらしい方ね」
王妃様が優しくフォローをいれてくださる。
「そうでしょ。ほんと、かわいいんだよ」
と言いながら、私に甘く微笑みかけてくるデュラン王子。
「デュラン。アデル王女には婚約者がいるんだから。忘れるな」
王太子様が笑いながら言った。
「いや、べつに忘れてもいいんじゃない?」
真顔で答えるデュラン王子。
はい? なんか、おかしな返答よね?
王太子様もそう思ったのか、驚いたようにデュラン王子を見る。
「何言ってるんだ、デュラン? 忘れたらダメに決まってるだろ」
「いやいや、ダメじゃない! デュランも若いんだから、燃えるような恋をしたらいい。本気で好きなら、婚約者から奪ってしまえ! 私も王妃を当時の婚約者から奪ったからな。ハッハッハ!」
王様がグラスを手に、豪快に笑った。
もしや、もう酔っぱらっておられますか?
最初の印象とかなり違っていますが……。
しかも、物語のようなそのお話、本当なのかしら?
思わず、王妃様を見ると、困ったように微笑んだ。
「アデル王女の前で、話を捏造しないでください」
えっ、捏造……?
「私の最初の婚約者は、他国の王子で政略だったのだけれど、クーデターがあって、政略の意味がなくなったの。だから、とりやめになっただけなのよ。
それで、次の政略結婚に決まったのが、この国の王だったの。奪ったとかじゃ、全くないのよ」
そう言って、美しい笑みを浮かべた王妃様。
「何を言う。政略の意味もあるにはあったが、どれほど私が王妃に恋焦がれたか! その私の強い念が、王妃の前の婚約を無しにしたようなもんだ。つまり、奪ったってことだな! ハッハッハ!」
と、王様が楽しそうに笑った。
やっぱり、酔っぱらっていらっしゃるわよね?
王様が、すっかり、おもしろいおじさんと化してしまってるもの……。
それにしても、飲み始めたのって今さっきよね。
それで、こんなにご機嫌に酔えるものなのかしら……?
「酔っぱらってないよ。父上は、これが素なんだ」
笑いながら、私にそう言ったデュラン王子。
「えっ、また、心の声がでてた?」
思わず口をおさえながら、デュラン王子に聞く。
他国訪問しているのに、この癖はまずいわ!
「大丈夫。今は、何も言ってなかったよ。でも、アディーの顔を見ていたら、言いたいことがわかるんだよね。もう、すっかり心が繋がっているんだね、アディーと僕」
デュラン王子が、甘ったるい雰囲気を爆発させた。
ご家族の前でも、変わらないその態度。なんだか、すごいわね……。
「ハーッ、こりゃいい! アデル王女とデュランが結婚したら、隣の国とも親戚になる。助け合って、両国とも、ますます繁栄できるな! デュラン、がんばれ! ハッハッハ!」
大笑いし始めた王様。
ご機嫌のところ申し訳ないのですが、……なんてことを言うの!?
しかも声が大きすぎるわ!
聞こえたかしら……?
聞こえたわよね。すごい声量だもの……。
でも、もしかしたら、誰かとしゃべっていて、魔王も聞き逃したってこともあるかもしれないわよね。
……って、無理だった!
とてつもない冷気が、どっと押し寄せてきた。
「あら、また寒くなったわね! 空調をだれか強くしたのね。いくらなんでも強すぎるわ」
あわてて、王妃様が人を呼んでいる。
まずいわ! 早く止めないと、ここらへんが凍りついてしまうじゃない!
私は魔王ユーリを見る。
が、ユーリの冷たい目は、完全に王様をロックオンしていた。
王様! 両国が繁栄するどころか、両国とも消えてしまいます!
だから、言葉には気をつけて!
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