第78話 晩餐会
そして、晩餐会の時間になった。
ユーリは、オパール国の正装で、さりげなく、水色を差し色にした衣装を着ている。これまた私とおそろいのよう。
そして、輝くばかりの金髪を少し後ろになでつけているからか、大人の魅力というか、妖しい色気? みたいなものがあふれだしている。
ユーリに免疫がない人にとっては、危険なレベルの美しさだわね。
しかも、さっき、廊下にあった大きな鏡に、私たち二人が並んで歩く姿がうつったんだけれど……。 うーん、これってどうなのかしら?
まず、目にとびこんできたのが、ユーリの美しい青い瞳と、私のチョーカーの青い宝石。
どう見ても、ユーリが主で、私が主の色の首輪をつけさせられて、隷属させられているように見えるのよね。
さしずめ美貌の魔王と、使い魔みたいな感じかしら。
自分で言って悲しいんだけど……。
ま、できるだけ、王女らしさをかき集めて、がんばりましょ!
案内された広間には、想像していた以上の沢山の人々が集まっていて、びっくり。
もっと、こじんまりとした晩餐会かと思ったら、招待客が多いのね。
うん、緊張してきたわ……。
そして、出席されている皆さんが、その場で立って、私たちが入場するのを出迎えてくれている。
そんな中を、私はデュラン王子に続いて、王族がいらっしゃる一番奥のテーブルまで歩いていく。
私の後ろに、ユーリが歩いているのだけれど、私を素通りして、後ろのユーリを見ているご令嬢たちの視線がすごい。
さすが、ユーリね。 国が違っても、ご令嬢たちの反応は同じだわ。
そんなことを考えていると、なんだか緊張がとけてきた。
王様、王妃様、王太子様、デュラン王子のテーブルに私の席があった。
ユーリは、ランディ王子のいるお隣のテーブルに案内された。
が、テーブルが別なことを知り、ユーリが一瞬、凍りそうな鋭い目で案内係の人を見る。
こら、やめなさい! おびえてるじゃない。
「脅しちゃダメよ、ユーリ」
と、あわててささやく私。
「僕が離れている時に、アデルになんかあったら、王宮ごと消すから」
物騒なささやきを返してきたユーリ。
……はい?
食事の間、テーブルが離れるだけだよ?
しかも、お隣のテーブルだよ?
しぶしぶ案内された席につくユーリを見届け、私も用意された席につく。
そんな様子をながめていた王様。
「アデル王女の婚約者殿は、一時もアデル王女と離れるのが惜しいようだ。愛されてるのう」
微笑みながら、私に語りかけてきた。
が、そんなほほえましい感じとは程遠い、とても物騒なことを言ってますけどね……。
もちろん、そんなことは言えないから、あいまいで、どうとでもとれる王女スマイルでごまかしてみた。
「アデル王女は、まだ婚約してるだけだから。この先、どうなるかわからないよね?」
そう口をはさんできたのは、いつの間にか、私の隣に座ったデュラン王子だ。
ちょっと、いきなり、何を言い出すの? やめて!
離れたとは言っても、ユーリは隣のテーブルにいるのよ?
しかも、魔王らしく、すごーく地獄耳なのよ?
話す言葉には気をつけて!
……と、思った瞬間、隣のテーブルから、冷気が流れてきはじめた。
あ、やっぱり、聞こえていたのね。
王妃様が、ぶるっと震えた。
「寒いわ……。少し、空調が効きすぎているのかしら? アデル王女、寒くない?」
と、気遣って、声をかけてくださった。
「私は大丈夫です。慣れてますので……」
と、答えながら、変な汗がでてきて、とまらない。
王妃様、申し訳ありません……。
この寒さ、自力で冷風を放出する、うちの魔王のせいです。
と、心の中でそっと謝っておく。
が、同じく魔王気質のデュラン王子には、魔王の寒さは効かないらしい。
「今日は、ブルージュ国の名産を使った自慢の料理がでてくるから楽しみにしててね。アディー」
と、いつもどおりの甘さ全開で、微笑みかけてきた。
だから、今、アディーと、ここで呼ぶのはやめて……。
その名産を使ったお料理が、軒並み凍ってしまうわよ?
どうぞ、聞こえていませんように……。
そんな願いもむなしく、一気に寒さが増した。
王妃様が人を呼んで、空調を弱めるように指示を出している。
そんななか、王太子様が、
「デュランは、アデル王女を愛称で呼ぶほどに、仲良くなったのだね」
と、スミレ色の瞳を細めて、優しく微笑まれた。
「うん、そうなんだ。でも、もっと仲良くなりたいな。ね、アディー」
これでもかと甘さをふりまく、デュラン王子。
お隣のテーブル方面から、一層強くなった冷気が流れてきた。
王妃様だけでなく、王太子様も震え始めた。
この晩餐会、どうやら、寒さと甘さの対決になりそうだわ……。
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