第77話 なんで、ユーリが決めるの?

 ユーリが淹れてくれたお茶を飲む。


「とっても、美味しいわ! すごいわね、ユーリ」


 私が感心して言うと、ユーリは嬉しそうに微笑んだ。


「良かった。結婚したら、毎日、僕がアデルのために、お茶を淹れようかな。アデルは、僕の淹れたお茶しか飲めないの。いいと思わない?」


 楽しそうに話すユーリ。


 青い瞳がきらきらと輝いて、きれいだわ。

 ……が、ちょっと待って?


「つまり、私は、ユーリ以外の人が淹れたお茶が飲めないってこと?」


「もちろんだよ。素敵でしょ?」

と、ユーリは嬉しそうに笑った。

 

 いやいやいや、それって、おかしいわよね? 

 ちっとも素敵じゃないわよね? 

 それどころか、怖いわよね?


 美味しいお茶で、ほだされてはいけないわ。

 気をしっかりもって、私!

 やはり、ユーリとの結婚は、絶対阻止しないと!


 だって、お茶もユーリからしか飲めなくなるなんて、ユーリが留守なら、私、ひからびるじゃない? 命の危機じゃない?


 ほんとに、魔王の考えることは理解できないわ……。


「ところで、アン」


 いきなり、ユーリに話しかけられて、見てるほうが驚くほどに、びくっとしたアン。


 やっぱり、さっきの話を聞いて、アンも怖がってたのね……。


「……なにかご用でしょうか? ユーリ様」

と、答えながらも、目をそらしたままだ。


 が、ユーリは気にする様子もなく、淡々と言った。


「アデルの晩餐会用のドレスを見せて」


 アンは、すぐにドレスを二着持ってきた。


「どちらも、アデル様にお似合いになられるので、アデル様ご本人に選んでいただこうと思いまして……」


 そう言いながら、ユーリに見やすいようにして、衣装かけに掛けた。


 ひとつは、繊細で美しいレースがふんだんに使われた、大人びた雰囲気のライラック色のドレス。


 もうひとつは、パールが刺繍された、甘くて、かわいらしい雰囲気の水色のドレスだ。


 ユーリは二着のドレスを見て、即座に言った。


「水色のドレスにして」


 即決すぎるんだけど……。


「ねえ、なんでユーリが決めるの? いつも、私の衣装に何も言わないじゃない? どうしたの?」

と、私が聞く。


「今回の訪問は、僕が責任者だからね。アデルの全部を管理させてもらうから」


 そう言って、ユーリは満足げに微笑んだ。


 その言い方、なんだか、ぞわっとするんだけど……。


 私の全部を管理? 

 表現がおかしすぎて、意味がわからないわね。


 ほら、アンの表情がぬけおちてるわ……。

 ま、怖いから、そこは深く考えないようにしましょう。


「それで、なんで、水色のドレスなの?」

と、ユーリに聞いてみた。


「この国で、アデルの初のお披露目だから、わからせとかないとね」


 ん? わからせる……? 何を……? 

 ユーリの言ってることが、まるで、わからない。

 まずは、私にわからせてほしいわね。


「あ、それと、僕のプレゼントしたチョーカーは持ってきたよね?」

と、アンの方を見て聞いた。


 ああ、あの首輪ね。

 持ってきてるわよ。ユーリに言われたから。


 アンは、ユーリにむかって、すごい勢いでうなずいている。

 完全に、おびえてるわね……。


「今日は、それをつけてね」

と、ユーリ。


 アンはおびえながらも、

「一応、このドレスにあわせて作った、パールのネックレスも持ってきていますが……」


 そこまで言って、ひっと息をのんだ。


 ユーリが、それはそれは美しい笑みを浮かべたからだ。


 こういう時のユーリは怖いわよね……。

 わかるわ、アン。


 でも、大丈夫。私、こんな状態のユーリに慣れてるから。守るわね、アン!


「ちょっと、ユーリ! アンを威圧したらダメでしょ!」


 私は、ユーリの前に立ちはだかった。


 すると、ユーリは、にっこりと微笑んで言った。


「やだなあ、アデル。威圧なんかしてないよ。ただ、僕の贈った最高級のアクセサリーより、パールのネックレスがいいなんて、どの口が言ってるんだろうと思ってね?」


 その言い方……。怖い、怖い、怖いわ!

 アンが震えてるじゃない。


 ごめんね、アン。これが通常運転なの。魔王だから。


「そんなこと、誰も言ってないでしょ? わかった、ユーリのチョーカーをつけるから」


 はっきり言って、私としては、チョーカーだろうが、首輪だろうが、アクセサリーはなんでもいい。

 とにかく、この場を無事におさめることのほうが大事だ。


「あ、それとね。そのライラック色のドレスは、今回の旅では絶対に着ないでね」

と、ユーリが付けくわえた。


「えっ、なんで? 私、このドレス、好きなんだけど。あ、もしかして、あんまり似合ってない?」


「まさか、ちがうよ。似合いすぎてて、他のやつに見せたくないくらいだよ。でも、そんなことじゃなくて、今回は、その色がダメ」


 色? このきれいなライラック色が? どこがダメなんだろう……。


「なんで、この色がダメなの? 理由がわからないんだけど」


 納得がいかない私は、さらに、ユーリに聞いてみる。


「だって、そのライラックの色、誰かの瞳の色に似てるよね。アデルが、そのドレスを着て、あの王子と並んだりしたら、思わず、魔力が暴走して、この王宮を破壊してしまうかもしれないでしょ? だから、着ないでね?」

そう言って、甘やかに微笑んだ。


 いやいやいや、甘く微笑まれてもね……。

 表情と会話の中身が、まるで合っていないわ。


 ドレスの色は、確かに、デュラン王子の瞳の色と、同じ系統の色ではあるけれど、でも、王宮を破壊?

 どうして、ドレスの話なのに、そんな物騒な話になるの?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る