第72話 ランディ王子

「では、私はこれで失礼しますね……」


 さっさと会話を終わらせ、さりげなく距離をとりつつ離れていこうとすると、ランディ王子が、ぐいっと近づいてきた。


「俺の外面、通用しないんだ?」

と、ごろっと口調を変えてきた。


 そりゃ、当たり前よね。

 

 だって、先にデュラン王子への態度で、本性、丸出しだったし、なにより、完璧な外面大魔王と比べると、まだまだひよっこって感じだもの。


「ランディ。お客様にむかって、失礼だよ」


 デュラン王子があきれたように言うと、ランディ王子のスミレ色の瞳が、一気にメラメラと燃え上がった。


「ちょっと、魔力が多いからって、えらそうに」


 ん? 魔力うんぬんって、今の会話の流れから、全く関係ないわよね?


「またか……」


 隣のジリムさんが、面倒そうにつぶやいている。


 沸点が低いわね。

 そして、ジリムさんが、またかと言っているということは、デュラン王子にこんな態度をいつもとっているということかしら。


 あ! もしや、反抗期!?

 反抗期といえば、前世の記憶では……中二。……中二病。……なるほど。


「きっと、ランディ王子はお兄様が大好きなのね」


 ……あ、しまった。声にでた。

 すごく至近距離だけれど、どうぞ、聞こえてませんように。


「はあ? だれが!?」


 ランディ王子が、私をにらんだと思った瞬間、すぐさま、ユーリの背にかばわれた。


「ねえ? そいつ、つぶしていい?」


 冷え切った魔王の声。


「ちょっと、ユーリ! ダメにきまってるでしょ!」

 

 私があわてて止める。 


「いいですよ。面倒なんで」


 冷静に言うジリムさん。


 え……? ちょっと、ジリムさん? 何を言ってるんですか!? 

 自国の王子でしょう!?


「ただの反抗期なだけだから、大目にみてあげて」


 またもや、思わず、心の声がそのままでてしまったけれど仕方がない。

 毛を逆立てているだけの子ネコに魔王が襲いかかることは、断固阻止しないと!


「いや、反抗期って……。ランディ王子は、もう18歳です」


 えええっ!? 言動からして、同じ年くらいかと思ったわ……。


「デュラン王子にむかって、つっかかってくるのも、はや3年。手間がかかるし、面倒だし、なにより、同じことを見せられ続けて飽きたし……。次期公爵様、どうぞ、お好きになさってください」


 疲労感いっぱいに、ジリムさんが語った。


「おい、ジリム! なに好き勝手なことばかり言ってるんだ!」

と、ランディ王子がわめく。


「うるさいなあ。ほんとに、つぶすよ?」


 ユーリが、ひやりとする声で言った。一気にあたりが寒くなる。


 ユーリさん、その殺気しまって。

 ここは、他国の王宮ですよ? そして、その人は他国の王子ですよ?


 ランディ王子が、ぎょっとした顔をした。


「オパール国の人間も魔力があるのか……!?」

と、ユーリを見ながら後ずさっている。


 なんだか、さっきから、すごーく魔力にこだわってるみたいだけれど、何かあったのかしら?


 思わず、デュラン王子を見る。

 私の疑問が伝わったよう。


「ちょっと色々あってね……。巻き込んで、ごめんね」

と、寂しそうに微笑んだデュラン王子


「魔力、魔力って、うるさいやつだよね。そんなに見たいなら、特別に全力で見せてあげようか? 見た瞬間、後悔すると思うけど」


 ランディ王子に、魔王全開の言葉を投げかけているユーリ。


 ランディ王子、悪いことは言わない。

 早く逃げて!


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