第71話 デュラン王子の家族

 次に、王様のお隣に立つ、若い男性が声をかけてきた。


「アデル王女、ようこそ、我が国へ。弟が大変世話になったね」


 ということは、デュラン王子の兄。つまり、王太子様ね。

 

 デュラン王子と同じスミレ色の瞳だけれど、印象はまるで違う。

 甘い雰囲気のデュラン王子と違って、王太子様は穏やかな目をされている。


「実は、デュランより下の弟と妹がいるんだけどね……」

と、王太子様が言葉をにごした。


 ん? そういえば、面倒な人がいるとかなんとか……言ってたよね?

 そのお二人のどちらかしら? 


 デュラン王子の方を見る。


「まあ、おいおい会うと思うけど、気にしないで?」

と、にっこり微笑むデュラン王子。


 そんなことを言われると、余計に気になるじゃない!?


 今日の夜、歓迎の晩餐会を開いてくださるとのこと。

 そこで、またお会いするので、簡単なご挨拶だけして、広間から退出した。


 なんか、疲れたわ!

 一人で、他国の王族の方とお会いするのは、初めてだものね。


 と、思ったら、後ろに控えていたユーリが隣に来た。


「お疲れ様、アデル」


 そう言って、私の頭をさらりとなでたユーリ。


「僕もなでたい」

と、手をのばそうとしたデュラン王子を、ジリムさんが、がしっと捕らえた。


「アデル王女様は、デューの婚約者じゃないだろ? 頭なでたきゃ、とっとと婚約者を見つけてこい!」

と、ドスの聞いた声で叱られている。


 ジリムさん、ナイスです!

 だって、触られると、ユーリにまた消毒されるからね!


 私、ちゃーんと覚えてますよ! 気をつけてますよ! と言う気持ちをこめて、ちらりとユーリを見上げる。


「えらいね、アデル」

と、色気あふれる声で、耳元でさやいてきたユーリ。


 もう、ぞわりとするからやめてよね!

 

 きっと、にらむと、ユーリは嬉しそうに笑った。

 どうやら、魔王様はご機嫌なようね……。


「疲れたでしょ。今から滞在してもらう部屋に案内するね」

と、デュラン王子。


 広い廊下をデュラン王子に案内してもらいながら歩いていると、

「兄貴、帰ってきてたんだ。いつも、ふらふらして、気楽なもんだな」

と、声がした。


 前から歩いてきた若い男性だ。

 「兄貴」と呼んだということは、この人が第三王子。


 なるほど、今の言葉を聞いただけで、面倒そうな匂いがプンプンしてきたわ!


 第三王子は、少し幼さも残る顔立ちで、デュラン王子に似ている。

 甘さのある美形だ。

 そして、やはり、スミレ色の瞳をしている。王家の色なのかしらね?


 が、なにより、この不穏な雰囲気……。

 挑むように、デュラン王子をにらみつけている。


 デュラン王子、何かしたのかしらね?


 できたら、見て見ぬふりして、通り過ぎたいところだけれど、お世話になるのだし、とりあえず、ご挨拶をしとかないとね。


 最悪の雰囲気の中、一歩、前にふみだす。


「第三王子様ですよね? 私、オパール国の第二王女、アデルと申します。一週間お世話になります。どうぞよろしくお願いします」

と、精一杯、微笑んでみた。


 私は敵ではありませんよ! 礼儀として、挨拶してるだけだからね?


 すると、王子は、一瞬目を見開いたあと、

「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。第三王子で、ランディと申します。どうぞよろしく」

と、華やかに微笑んだ。


 デュラン王子に似た甘い美形だから、微笑むと花が散る。

 でも、そんなことより、外面用の顔への急激な変化に驚いてしまうわね!


 確実に、デュラン王子とユーリ路線をつっぱしってるわ。末恐ろしい子……。

 が、今は、まだ、魔族への発展途上なのか、ちょっと、……というか、かなりこじらせてる感じ?

 なんだか、本当に面倒そうだわ。


 そうだ、ここは、さらりと通り過ぎよう。

 気がついたら、あんな遠くにいるよ作戦だ。


 少しずつ、わからない程度に、離れていくように足をすすめていく。

 前世でいうところの亀歩……ではなく、そう、牛歩よ!


 それにしても、王と王妃様と王太子様に対して、デュラン王子とランディ王子。

 なんだか、振り幅のすごいご家族よね。


 あとは、妹姫様ね。どんな方なのか、気になるところだわ……。

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