第70話 王宮へ

 レストランから、10分たらずで王宮に到着。


 馬車から降りると、沢山のお出迎えの方々が並んでくださっている。

 まずいわ……。早く、王女モードを取り戻さないと!


 先に降りたユーリに手をとり、馬車から降りると、全身から、なにかしらの王女らしさをかき集めて、にこやかに微笑んだ。


 なんとか、王女に見えるかしら?

 まあ、見えなくても、今世では生まれも育ちも王女なので、これで勘弁してくださいね?


 そして、デュラン王子とユーリに挟まれて、王城の入口まで歩く。

 とても短い距離なんだけれど、とてつもなく長く感じる。

 沢山の人たちに見られながら、きらびやかすぎる魔王たちに挟まれて歩くなんて、なんだか、罰ゲームっぽい感じだわね……。


 やっと、王宮の中へと足を踏み入れた。


 が、そこでも、多くの方々が整列してお出迎えしてくださっている。

 まったく、気が抜けないわ。


 当たり前なんだけれど、はじめて来た場所で、はじめて会う人々がずらり。

 気軽な訪問とはいえ、今更ながら、緊張してきた。


 どうしよう! 変なドキドキが止まらない!


 ふと、隣のユーリをちらりと見る。

 私の不安を察したのか、ユーリも私のほうを向いた。


「僕がいるから大丈夫。安心して、アデル」


 そう言って、華やかに微笑んだユーリ。


 幼い頃から見慣れている自信に満ち溢れたユーリの笑顔。

 とたんに、体中の緊張がとけた。

 変なドキドキも止まり、一気に呼吸が楽になる。


 ユーリがいれば大丈夫……、心の底からそう思ったから。

 

「ありがとう、ユーリ。一緒に来てくれて良かった」


 私が心からのお礼を伝えると、ユーリが驚いたように目を見開いた。


「……もう、いきなりやめてよ。ずるいな、アデル」


 ユーリは拗ねたようにつぶやくと、とろけるような笑みを浮かべた。


 いやいや、ずるいのはユーリでしょ。

 その顔は、もはや、物語にでてくる傾国の美女のよう……。


 ほら、お近くの皆さん、うっとりとした顔でユーリに見とれてる。

 他国でも、ユーリファンとかできるのかしら?


 まあ、でも、ユーリのおかげで正気に戻りました!

 では、王女としての役目、がんばります!


 そして、通されたのは豪華な広間。

 王家の方々が出迎えてくださった。


「オパール国、第二王女のアデルと申します。急な訪問を受け入れてくださり、感謝いたします。お世話になりますが、どうぞよろしくお願いします」


 私が簡単に挨拶をすると、大柄なブルージュ国の王様が優しく微笑んだ。


「アデル王女。我が国へ、ようこそいらっしゃった。デュランが、なかなか帰ってこないので、よほどオパール国が気に入ったのかと思ったら、こんな可愛らしい王女がおられたとはな。ゆっくり滞在して、この国のことを好きになってもらいたい」


 可愛いだなんて……! 王様、気さくで良い方ね! ほっとしたわ。


 そして、お隣におられる、美しい女性が王妃様でしょうね。

 というのも、ブルージュ国もオパール国と同じで、側室はいないと聞いている。


「アデル王女様、お会いできるのを楽しみにしておりました。オパール国では、色々と、デュランが迷惑をかけたのではないですか?」


 心配そうに聞く王妃様。


 ええ、その通りです。 ……じゃあ、ダメよね。


「いえ、とんでもございません。良くしていただいております」

と、答えてみた。


 なにを? だけれど、やっぱり、ここは社交辞令よね。


 なんだか、今のって曖昧で王族っぽい受け答えだったんじゃない? と思ったら、クスクスと笑い声が聞こえてきた。


 見ると、当の本人のデュラン王子が笑っている。


 ちょっと、そこで笑ったらダメでしょ? と、私は目を見開き、目力を最大限に使って訴えるが、デュラン王子の笑いは止まらない。


「本当にお可愛らしい方ね、アデル王女様は。デュランが仲良くさせてもらってるようで、ありがとう」

と、優雅に微笑む王妃様。


 デュラン王子に似た面立ちだけれど、さらにお優しい雰囲気で、慈愛に満ちたお顔をされている。


 まるで、女神様のようだわ!

 なのに、なぜ、こんな笑い上戸の魔王が生まれたのかしら……。

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