第67話 心にしみる

 泣いたら、更におなかがすいてしまった。

 もう、恥ずかしいところは見せてしまったので、開き直って、無言でたべまくる私。

 前世ぶりの巻きずしは、からっぽの胃袋に、どんどんすいこまれ、懐かしさで心も満たされていく。


 他国を訪問中の王女とは思えないほど、おなかいっぱい食べて、はあー、満足、満足……。

 と、顔をあげると、私を見つめるデュラン王子、ジリムさん、そしてユーリ。

 

 ええ!? みんな、見てたの!?


「いい食べっぷりに、ほれぼれしてた。我が国に伝わる料理を、そんなに気に入ってもらえて嬉しいよ」

と、デュラン王子が微笑むと、ジリムさんも隣でうなずいている。


 到着したばかりなのに、泣き、そして、食べまくる王女って、一体……。

 でも、本当に美味しかったから……。


「また、食べたいなあ……」

と、つい、心の声が飛び出てしまった。


「だったら、ずっと、この国に住めばいいよ。いくらでも食べられるからね」

と、デュラン王子。


 確かに、それは嬉しい。

 食が合うところに住めるって、幸せよね! 

 

「アデル。そんなに、この料理が気に入ったんなら、このレストランを買い取って、オパール国にレストランを連れて帰る?」

と、ユーリ。


 レストランを連れて帰る? 文として、すごく変なんだけど……。

 じゃなくて、ユーリなんてこと言うの! 連れてきていただいたレストランを買い取るだなんて! そもそも、歴史のあるレストランなのに無理でしょ?


 私の表情から、考えていることを読み取ったらしいユーリ。


「やろうと思えば、いくらでも手段はあるよ? アデル、欲しい?」

と、ユーリから、魔王全開のお言葉が。


 いりません! やめてください!

 という気持ちをこめて、私は、首を横にぶんぶんとふった。

 ユーリなら、やりかねないから怖いわね。


「ユーリが変なことを言って、すみません……」


 みなさんに魔王発言を謝っておく。


 すると、ジリムさんは、お隣のデュラン王子をちらっと見てから言った。


「いえいえ。そういう感じ、慣れてますから……」


 ああ、なるほどね……。そうですよね……。

 そちらにも、魔王様がいますもんね……。大変ですよね……。


 が、そんな視線をものもともしない、デュラン王子。


「そういえば、アデル王女は、甘いものが好きだったよね?」

と、にこやかに聞いてきた。


「はい! 大好きです!」


「じゃあ、今からでてくるデザートにも期待してて。これも、うちの国ならではの伝統のあるお菓子だから。絶対に食べたことがないと思う」

と、お菓子に負けないほど甘く微笑んだデュラン王子。


 それは、楽しみ! と、期待がふくらんだところで、デザートがやってきた。

 

 巻きずしを沢山食べた後だけれど、そこは別腹。

 どんなお菓子かしら? ワクワクするわ!


 目の前に並べられたお菓子は、黒々として、四角い形。

 これまた、前世の和菓子を思い出すような見た目だ。


 早速、ひとくち食べてみる。


 うっ、……なんてことかしら!

 またもや、懐かしい味がひろがった。


 今度はあらかじめ、速やかに、驚かさないよう、みなさんに予告をしておく。


「これまた懐かしすぎる味で、また泣くかも……」

と、言い終わらないうちに、私の目からは、滂沱の涙が流れ始めた。


「えっ、また!?」

みたいな誰かの声が、聞こえたけれど、こればっかりは仕方がないわ。


 だって、これ、前世の羊羹なんだもの!

 しかも、これまた、おばあちゃんの手作り羊羹にそっくりの味なんだもの!


 あずきのつぶつぶ感。そして、このめちゃくちゃ甘い感じもそっくり。

 もう、泣かずにいられるか、だ……。

 この甘さ、懐かしすぎて、心にしみるわ。


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