第61話 いざ出発

 ついに、出発の日がやってきました!

 

 急に決まったので、前日まで準備でバタバタ。

 幸い、信頼できるメイドのアンがついていってくれることになったので、衣裳などは全部お任せしたけれど。

 

 とはいえ、リッカ先生に会う時だけは別。

 大ファンとして、渾身の姿で、失礼のなきようにお会いしたい!

 ということで、考えて、考えぬきました、私!

 

 ぎりぎりになって、なんとか納得の衣装が決定!


 が、アンからは、「それは、ちょっとやめたほうがいいのでは?」と、正反対の意見が……。

 解せないわ。とりあえず、ダメな理由を聞いてみた。


 すると、アンは少し考えて言った。


「ひとつですか?」


 えっ、いくつもあるの? 怖いわね……。


「じゃあ、とりあえず、一番ダメな理由はなに……?」


「センス云々、言いたいことは色々ありますが、一番は、他国訪問時に王女が着る衣服なのか? ということです」


 なるほど、状況にあっていないということね。でも、それなら大丈夫。


「安心して、アン。今回は、リッカ先生の作品に合わせてるから。……フフ」


 アンは、「安心する要素がまるでないです」と、ぶつぶつ言っていたけれど、押し切りました。お会いできる日が楽しみだわ!


 そして、興奮状態のまま、目がぎらぎらに冴えて、昨晩は全く眠れず。 

 寝不足の目に、朝日がまぶしいわね……。


 王宮の前にでると、見送りに、公爵夫人のレイラおばさまやマルクが来てくれていた。


「アデルちゃん、ユーリとの旅行、楽しんできて! 後で話し聞かせてね♪」

と、レイラおばさま。


 ハートが舞い散る、弾んだ声。

 レイラおばさま、色々、間違ってます……。

 が、寝不足の頭では修正するのも面倒で、あいまいに微笑んだ。


「今回は少人数で行くんだね?」

とは、マルク。


「そういえば、そうね。気楽でいいわ」


 私が答えると、いつの間にか、隣に来ていたルイ兄様が言った。


「だって、ユーリが行くからね。100人分くらいの圧がかかるから、少ない人数じゃないと、ブルージュ国がかわいそうでしょ?」


「ちょっと、僕のこと、なんだと思ってるの?」

と、そこへ100人分の圧をかける魔王ユーリがやってきた。


「アデル、おはよう。今日から楽しみだね」

と、ユーリが美しく微笑んできた。


 寝不足の目にはまぶしすぎるわね……。


「おはよう、ユーリ。……あれ、その服、どうしたの? 珍しいというか、攻めてるわね……?」


 そう、ユーリは淡いピンク色の上着を着ていた。

 ユーリにしたら珍しい色だ。というか、着ているのを見たことがない。

 

 そして、職務中に、淡いとはいえ、ピンク色の上着を着る男性を、今世では見たことがない。

 まあ、悔しいくらいに似合ってはいるけれど。


 ただ、不思議なことに、私も今日は淡いピンク色のドレスなの。

 色味も似ているわ。どう見ても、おそろいみたい。

 すごい偶然だわ……。


「アデルとあわせたんだ。アデルとの記念すべき初旅行の出発の日だからね」

と、ユーリが嬉しそうに言った。


 私は、はっとアンの方を向いた。アンは、さっと別の方向を見る。

 犯人発見! 私の服の情報をもらしたわね、ユーリに!


 ユーリと並ぶと、とてつもなく、恥ずかしい気持ちになる。


 やっぱり、ピンク色が問題なのかしら?

 単体だと、どちらも素敵な衣装なのに、二人そろうと、変に目立つ。

 浮かれた二人組みたいな感じじゃない? 


 とにかく、ユーリとは、できるだけ離れていよう!


「あらあら、ほんと二人ったら、仲良しさんね。素敵!」

と、レイラおばさまが私たちを見て、喜んでいる。


 マルクは気の毒そうな目で私を見ている。


 混沌とした空気になったところへ、もう一人の魔王がやってきた。


「おはよう、アデル王女。素敵な一日になりそうだね」

と、スミレ色の瞳をとろっとさせて、微笑みかけてきた。


 甘い……。無性に、スミレの砂糖菓子が食べたくなるわ……。


 が、ユーリをちらっと見て、デュラン王子の表情から甘さが消えた。


「ほんと、独占欲のかたまりだね。嫌われるよ?」


「近頃、しつこい虫が多いから、うっとおしいんだよね。だから、はっきりわからせようと思って?」

と、ユーリは凶悪な笑みを返す。


 こら、魔王たち!

 朝にそぐわない言動はやめなさい。

 朝はさわやかに挨拶をするのみ!


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