第60話 反省会

 騎士団長のラルフさんが退席した後、打ち合わせは打ち切られました。

 結局、ブルージュ国での予定は、ジリムさんに丸投げになりました。

 本当にごめんなさい……。


 5日後に出発で、時間もないため、しなければならないことが満載のジリムさん。

 素早く書類をまとめて、でていこうとする。


「ジリム、あとは任せたよ」

と、のんきに手をふるデュラン王子。


「は? あなたも来るんですよ!」

と、ジリムさんに引きずられていった。


「それじゃあ、こっちで準備することは、ユーリが仕切ってね」


 ルイ兄様はそれだけ言うと、あっという間に部屋から退出していった。


 逃げ足が速いわ、ルイ兄様!


 では、私も、みんなに続いて退席しましょうかね?

 そろっと席から立ちあがる。


「どこ行くの? アデル」


 魔王様が、やっと言葉を発せられました。

 ぎぎっと、お隣を向くと、きれいなお顔が冷え冷えとしているわ。


「えっと、打ち合わせも終わったみたいだし、私も部屋に帰ろうかなあって……」


「座って」


 真顔の魔王様が怖い……。

 とりあえず、言われたとおりにしておこう。


 私が座ると、椅子ごとユーリの方向にぐいっとまわされ、お互いが向かいあう形になった。


「……なに?」


 おそるおそる聞いてみる。


「反省会でもしようと思って」

と、ユーリ。


「反省会? なんの?」


「アデルの」


 ん? 私の反省会? ……って、なに!?


「えっと、私、反省するようなことしてないわよね?」


 だって、場を荒らしていたのは、主に、ルイ兄様とあなたがた魔王二人でしょ?


「へえ、自覚がないんだ。どうやって、わからせようかな?」


 不穏な口調に、体の芯から冷えてくる。

 

「ねえ、アデル。俺が盛大に愛の告白をしたのに、なんで無視して、ブルージュ国に行きたがるの?」


 え? 愛の告白? そんなことあったっけ?

 ……あ、もしや、国をつぶす発言のこと?


「いやいや、あれは、愛の告白じゃなくて、ルイ兄様を滅ぼす話でしょ? それに、ブルージュ国に行きたいというよりは、リッカ先生に会いたいの! 私が、リッカ先生の筋金入りのファンだってこと、ユーリも知ってるわよね?」

と、ここは絶対に引けないところなので、胸をはって主張する。


「ふーん。じゃあさ、俺とリッカ先生とどっちが大事なの? アデルは」


 なに、その質問は?

 決まってるじゃない。それは、リッカ先生……の作品です!

 なんて怖すぎて言えない。


「……比べられないわ」

と、無難な感じで答えてみた。


 が、ユーリの宝石みたいな目で見据えられると、私の目が泳ぎまくってしまう。


「なるほどね……。わかった、俺が間違ってた。本に負けるなんて、今後はもっと攻めてくね」

 

 攻めるって何!? 

 思わず逃げたくなって、椅子に座ったまま、体を後ろにひいた私。

 でも、その分、ユーリがぐっと体を寄せてきた。

 

 そして、私がしているチョーカーの宝石にぴたりと指をあてた。


「ええと……な、なに? なんなんですか、ユーリさん!?」


 まさか、そこを押すの?

 首の真ん中よ。押されたら、死んじゃう感じ!?


 実は、この宝石は推すと、命のカウントダウンがはじまるスタートボタンみたいな感じなの!?


「これ、全然、効かなかったね。どうしようかな……」


 ユーリはそう言いながら、指を、チョーカーに沿って、なぞらせはじめた。


「ぎゃっ! ちょっと、やめてよ!」


 くすぐったくて、ぞわぞわする!


 真っ赤になって嫌がる私を見て、やっと、ユーリが笑った。

 心底、楽しそうに。

 ほんと、いい性格してるわよね……。


「でも、二人で旅行だなんて、初めてだね。ねえ、アデル」


 いやいや、二人では全然ないですけど?


「新婚旅行だと思って、楽しもうね?」

と、妖艶な笑みを浮かべたユーリ。

 

 いや、だから、ユーリさん、色々間違ってますよ?

 

 旅行に行く前から、面倒なことが起こりそうな予感がびしびしするわね……。

 でも、リッカ先生に会えるんだから、がんばるのよ、私!

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