第59話 勇者か、魔族か

 ユーリの国つぶす発言から、真っ先に言葉を発したのは、ジリムさんだった。

 やっぱり、勇者だわ。


「では、アデル王女の滞在期間は、1週間ということに決定します」


 まるで、この一連のくだりがなかったのように言いきった。


「えー! 短いよ!」

と、せっかくの発言を無駄にしようとする、デュラン王子。


「あなたは黙っててください。……っていうか、デュー、だまれ!」


 ジリムさんは、デュラン王子に小声で一喝した。


 魔王にこの口調、やはり、ただものではないジリムさん。

 そして、デュラン王子、本当にデューって呼ばれてるのね。


「すみません。ちょっと目に疲れが……」


 ジリムさんは眼鏡をはずし、目頭を押さえている。

 ほんとに、お疲れ様でございます。


 睡眠不足の上、打ち合わせとは思えない、おかしな状況に放り込まれて、申し訳ないです……。


 そして、眼鏡をかけなおすと、私にむかって言った。


「1週間の間に、リッカ先生とお会いできるように調整します」


 なんと、あなたは神ですか? 後光が見えます!

 

 はじかれるように立ち上がった私。


「ジリムさんには、お忙しいところ、大変ご迷惑をおかけします。が、リッカ先生とのことだけは、なんとか、なんとか、なんとか、よろしくお願いいたします!」

そう言って、がばっと頭をさげた。


 一瞬、シーンとした後、ルイ兄様がぽつりとつぶやいた。


「王女らしさ……というか、令嬢要素がまるでない斬新な言葉とお辞儀だったね……」


 だって、リッカ先生に会わせてくれるんだもの! 

 なりふりかまわず、誠意をみせなきゃ!


 ジリムさんは少しポカンとした後、くすっと笑った。

 あ、はじめての笑顔!


 デュラン王子も笑いながら、ジリムさんに言った。


「ほら、王女らしからぬ、おもしろさでしょ?」


 ん? それって、ほめられていないわよね。


「なるほど……、デューが気に入るのもわかりますね。おもしろい……」

と、つぶやいたジリムさん。


 眼鏡をくいっとあげて、こちらをじっと見ている。

 眼鏡越しでも、美形は目力が強いわ。


「リッカ先生の面談の機会は、必ず手に入れてみせます。私は、狙ったものは、どんな手を使ってでも、必ず手に入れる主義ですので。お任せください、アデル王女様」

と、力強く言ってくれた。


 なんと、頼りになるお言葉!


 でも、なんか、ちょっと、変な文だったわよね?

 怖いというか、身に覚えのある系統というか……。


 ええと、もしや、あなたは勇者ではなく、魔族系ですか?


 そして、国をつぶす発言をして以来、沈黙している、お隣の魔王。

 さっきから、更に、何か不穏な気配が流れだしてます。


 何か、お気にさわりましたか? 怖くて見られないけれど……。

 一応、確認しといたほうがいいかしら?


 と、思った時、騎士団長のラルフさんが口を開いた。


「では、行き帰りや、滞在時の警護については、私とオルブライトさんで話し合っておきます。決定した内容を、後程、皆さまに連絡します。では、訓練がありますので、お先に失礼いたします」

そう言って、颯爽と去っていった。


 確かに、このまま、ここで話していても、何も決まらなさそうだものね。

 打ち合わせというより、なんか、魔族のつどいみたいになってるし。

 お忙しいところ、来ていただいたのに、本当にすみません……。

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