第58話 ホラーよりホラー

「アデル王女様。ブルージュ国でどれくらい滞在されたいか、ご希望はございますか?」


 ジリムさんが手帳をひろげて、聞いてきた。


 ちっとも進まない状況に我慢ならなくて、司会をかってでたよう。

 どんどん疲労の色が濃くなっているわ……。

 ほんと、色々すみません。お世話になります……。

 

「1週間ぐらいはどうでしょう?」


 とりあえず答えてみる。


「長すぎるよ、アデル。日帰りで十分じゃない?」


 すぐさま、ユーリが私の顔をのぞきこんできた。


 目の圧がすごくて、思わず首のチョーカーをおさえてしまった私。

 なんだか、ユーリの目に私の首輪がひっぱられていくような気がしたのよね……。


 すると、今度は前の席から、デュラン王子が甘ったるく微笑んだ。


「アデル王女は、夏季休暇中でしょ? だったら、その間、ずっといればいいよ。 連れて行きたいところが、沢山あるんだ。それに、ちょうど、夏のお祭りシーズンだから、一緒にまわりたいんだよね。アデル王女とまわったら、楽しいだろうなあ」


 いやいや、デートじゃないんだから。

 ほら、お隣で、ジリムさんがぴきりと青筋をたてているわ。

 

 更に私の隣からは不穏な気が流れ出したから、早くせき止めなきゃ!


「それは、さすがに長すぎると思うので……」

と、言いかけた私に、デュラン王子がにこやかに言った。


「僕専用の図書室には、リッカさんの本が全部そろってるから、読み放題だよ。それに、リッカさんに来てもらうよう、連絡をとっている最中だしね」


 ……うん、1週間では短いわね。

 リッカ先生の本を読み放題なら、ある意味、いつまででもいられる。


 しかも、リッカ先生に会えるのを待ちながら、なーんて、夢のようじゃない!?  

 

「リッカ先生に会えるまで、滞在させてください!」

 

 思わず、口をついてでた。

 隣は怖くて見れないが、悔いはないわ!


「もちろんだよ。いつまででも、ずーっと、いてくれていいんだからね」

と、とろけるように微笑んだデュラン王子。


 うん、隣からの冷気がすごい。

 でも、リッカ先生に会えるなら、凍えても我慢よ!


「良かったね、アデル。もし、ブルージュ国が気に入ったら、留学してみるのもいいかもね」

と、のんきな声は、ルイ兄様だ。


「なら、俺も留学するよ」

と、ユーリ。


 あ、ユーリの俺がでました! そう、俺と言う時はお怒りの時。 

 まずいわ、ルイ兄様。もう、しゃべらないで!


 そんな願いもむなしく、ルイ兄様はのんきに笑った。


「嫌だな、ユーリ。側近がいなくなったら僕が困るよ」


 二人の声の温度差が激しすぎて、怖いわね……。

 ルイ兄様が、いつ、魔王の堪忍袋の緒を切るのか、ホラーよりホラーって感じかしら。


「前にも言ったと思うけど、俺の優先度は、王太子とは比べるまでもなく、アデル。もちろん、国よりもアデルだから」


「ユーリもひどいなあ。ロイドみたいだよ。フフッ」


 ルイ兄様! よりによって、なんてことを! 

 ロイドはユーリの天敵だからっ!


 ユーリ、耐えて! ルイ兄様の失言は、あとでしっかり謝らせるから。

 ……と言う気持ちをこめて、隣を見る。


 が、ユーリの目は、ルイ兄様を完全にロックオン。

 あ、私では、とめられないわ……。


 そして、ユーリは、それはそれは美しい笑みを浮かべて、ルイ兄様に言い放った。


「それと、王太子、さっきバカなことを言ってたよね? もし、国に何かあったら、国のために、アデルを他国に嫁がせることもあるとか……。そんなこと、本気でしそうになったら、先に、俺が、この国をきれいに潰してあげる。だから、安心して?」


 ……魔王降臨。

 

 一体なぜ、旅の日程を決める話が、国をつぶす話になるのかしら?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る