第57話 頼みの綱

 ここで、のんきな笑い声が聞こえてきた。ルイ兄様だ。


「王子の側近も大変だね」


 ルイ兄様! それ言っちゃダメ!


 あなたの側近はだれですか?

 ほら、にらんでるよ。しっかり、ブーメランで返ってきてるんですが……。


 このままいくと、永久凍土になりそうなんだけど、この場所。


 コホンと咳払いがあった。騎士団長のラルフさんだ。


「アデル様が来られる前に日程を先に決めたのですが、出発は5日後。日曜日になります。それで、よろしいですか?」

と、私に聞いてきた。


 このままだと、空気が悪くなるものね。流れを変えてくれて、ありがとう!

 

 ちなみに、騎士団長のラルフさん。父の幼馴染で、家族ぐるみのお付き合いがあり、幼い頃から、かわいがってもらっている。

 強面だけど、とっても優しい。頼れる父みたいな存在だ。


「はい、大丈夫です。騎士団長」


 普段はラルフさんと呼んでいるが、ここは王女モードで答えてみる。


「それで、アデル様につける護衛騎士なのですが、強く希望する者がおりまして……」


 なんだか歯切れの悪い騎士団長。


「希望する者はダメです」

と、ユーリ。


「希望する者ってだれ?」


 のんきに聞くのはルイ兄様だ。

 いや、聞かないでもわかるよね……。

 

「もちろん、ロイドです。能力はぬきんでているので、アデル様をお守りするなら、一番安心なのですが、いかんせん、アデル様に接する態度があれでは……。あれを他国にだしてよいものかと……」


 騎士団長が、眉間に深いしわをよせる。

 あれを連発されているわよ、ロイド……。


「ほんと、昔からロイドは、アデル、アデルだよね。僕の専属護衛騎士なのに。お嫁に行く時はどうするんだろ? しかも、外国とかに行ったりしたらね」

と、のほほんとした顔で言ったルイ兄様。


「は? なに、ありえない、例え話してんの?」


 ユーリがルイ兄様をにらんだ。

 いらついているらしく、口調が乱れている。


 ルイ兄様! ほんと、ちょっと黙って!

 お願いだから、もっと身の危険を感じて! 用心深くなって!


 そんな願いもむなしく、ルイ兄様は楽しそうに言った。


「あー、ごめん、ごめん。ユーリの婚約者だったね」


 で、ここでやめておくのかと思ったら、更になにやら言い出した。


「でもさ、アデルも王女でしょ? うちの国に何かあったら、ユーリと婚約を解消してでも、よその国に嫁がないといけない時もあるしね。まあ、そうならないよう、僕が王になっても、がんばるからね」

と、これまた、軽いのりで爆弾発言。


「……」


 驚きすぎて、声もでない。恐ろしすぎて、ユーリを見れない。

 そして、ルイ兄様の未来が見えない。


 誰でもいいから、ルイ兄様の口をぬいつけてー!

 

 と、ここで口をひらく猛者がいた。デュラン王子だ。


「あ、その時は、ブルージュ国へ来てね。ロイド君も見てておもしろいから、護衛騎士として連れてきてもいいし」

と、甘い微笑みを浮かべるデュラン王子。


 やめてー! 隣からの殺気がすごいから!


「なに、馬鹿なことを言ってるんですか、あなたは。それよりも、アデル王女の訪問について詰めましょう」

と、スパッとさえぎったのは、ジリムさんだ。


 すごいわ、ジリムさん!

 まさに勇者だわ。ありがとうございます。助かりました!


「とりあえず、護衛はロイド以外で選出することにします。人選はこちらでお任せください」

と、即座に、騎士団長が言った。


 これ以上、変な流れを作らさないよう、ロイドの話題は終了させたのね。

 さすがはラルフさん!


 それにしても、このメンバーで頼みの綱はジリムさんと騎士団長のラルフさんだけね。

 色々とご迷惑をおかけしますが、どうぞ、よろしくお願いします。



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