第56話 打ち合わせ

※ アデル視点に戻ります。


 色々あった昨日の疲れも、ぐっすり眠ってすっきり。

 いつものように、メイドのアンに髪を結ってもらっている私。


「アデル王女様、そのチョーカー、本当に美しいですね!」


 アンが鏡越しに見ながら、うっとりと言った。


「確かに、きれいよね……」


 まあ、チョーカーではなく、首輪だけれどね……。


「ユーリ様からのプレゼントですか?」


「え、なんでわかるの?」


「そりゃあ、ユーリ様の瞳の色と同じじゃないですか。誰でもわかりますよ!」


 えっ、そうなの?

 やっぱり、つけたくないなあ。


 だって、これからブルージュ国訪問の打ち合わせがある。

 打ち合わせでつけるのって、すごく恥ずかしいんじゃない?


 が、残念なことに、つけないといけない理由があるのです。

 というのも、昨日、ユーリと食事をしていた時のこと。


「ねえ、アデル。これ、明日の打ち合わせにつけてきてね」


「え、でも、打ち合わせにはシンプルなドレスでいくから。別の時につけるわ」

と、ごくごく当たり前の理由で断った私。


「そう。アデルは気に入らなかったんだね。じゃあ、もっと大きい宝石を探して作りなおすことにするよ」

と、ユーリは憂いを帯びた顔で言った。


 もっと大きい、しかもユーリの瞳の色の宝石がついた首輪?

 そんな首輪をしたら、魔王ユーリの使い魔にしか見えないんじゃない? 


 私はあわてて言った。


「いえいえ、大変気に入ってる! すごくきれいだし。もう、これで、十分すぎる大きさだから」


「じゃあ、明日は絶対つけて。約束だからね」


 結局、私は負け、うなずいた。



 そんなことがあったので、TPOとかは無視。

 首回りだけ豪華で目立った状態で、打ち合わせに行ってきます!


 応接室に入ると、王太子のルイ兄様、ユーリ、オパール国の騎士団長、そして、デュラン王子と、ブルージュ国の方が一人いた。

 私ぬきで、先に打ち合わせをしていたようね。


「ああ、アデル。ここへ座って」


 ルイ兄様が、私に隣の席を手で示した。促されるままに座る。


 横長のテーブルに、ルイ兄様、私、ユーリ、騎士団長が横並びに座り、向かい側に、ブルージュ国のお二人が座っている状況だ。


「つけてくれたんだ、うれしい。すごく似合ってるよ、アデル」

と、ささやき、とろけるように微笑んできたユーリ。


 ちょっと、やめて! みんな見てるから。

 はずかしすぎて、一気に顔があつくなる。


 すると、今度は、前の席から、

「アデル王女、昨日はありがとう。楽しかったよ! ブルージュ国では僕がつきっきりで案内するから、楽しみにしてて」

と、軽くウインクしてきたデュラン王子。


 えっと、打ち合わせですよ? 

 魔王同士、私をだしにして、なんでも張り合うのはやめて欲しい……。


 更に、デュラン王子は無駄に甘い笑みを私になげかける。


「アデル王女に僕の側近を紹介しておくよ。ジリム」


 そう言って、お隣に座っている男性を見た。

 

 まっすぐな黒髪に眼鏡をかけている。

 整った顔つきだけれど、デュラン王子と違ってひとかけらの甘さもない。

 まさに、切れ者って感じだわ。


 その方は、その場で立ちあがり、私に向かって一礼をした。


「ジリム・オルブライトと申します。デュラン王子の側近という名の雑用係です。いつものごとく、デュラン王子の急で無茶な思いつき、……いえ、要望がありまして、仕事を徹夜で済まして、今朝、この国に到着しました。どうぞ、よろしくお願いいたします」

と、苦労がうかがえる挨拶をした。そういえば、目の下にクマがある……。


 デュラン王子が、ははっと笑った。

 

 えっ、これ、笑っていいところ? 笑ってはいけないところではないの!?


 とまどいながらも、ご挨拶を返す私。

 

「それは大変でしたね……。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします」


「ジリムはね、ぼくの乳兄弟で、同じ年。頼りになるから、なんでも言ってね」

と、気軽に言うデュラン王子。


 隣のジリムさんは真顔のまま。

 温度差を感じるわね……。


 つまり、ルイ兄様とデュラン王子が即決した、私の急なブルージュ国訪問は、ジリムさんに一番迷惑をかけているということね。

 ほんと、ごめんなさい……。

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