第55話 疲れます

※ マルク視点、今回で終わりです。


 

 デュラン王子がロイドさんから目が離せなくなっている間に、市場に到着。


 うん、いい感じ! 

 このまま、ささささーっと見学し終わって、あっという間に今日が終わって欲しい。


 それだけを願いつつ市場へ入っていくと、甘い匂いがただよってきた。

 心が疲れ果てているので、匂いだけでも癒される……。


 デュラン王子が、「食べてみる?」と、提案してくれた。


 思わず、いい人と思ってしまいそうになるけれど、ユーリ兄様と同類だからね……。

 でも、こうやって、アデル以外にも気を使えるところは、ユーリ兄様より人間らしいかも。


 だって、ユーリ兄様は完璧な外面用の態度をとるから、みんなに気づかれないけれど、他人に気を使わない。というか、使わせるのみ。

 徹底して、アデルにしか気を使わないんだよね。

 まあ、その使い方がゆがんでいるから、アデルに怖がられるんだけど……。


 ここで、ロイドさんの過保護が発動。


 アデルがお店に行こうとすると、わずか数メートルの距離なのに、「転んだら大変です」とか言って、ものすごいスピードで買いに行った。

 アデルを守っている今、あまり離れていたくないんだろうね……。


「なんか、おもしろいね……」


 デュラン王子が、ぼそりとつぶやいた。

 完全にロイドさんに、心を持っていかれている。


 ロイドさんは、あっという間に買って帰ってきて、お菓子を手渡してくれた。

 揚げたてで、いい匂い!


 さあ、食べようと思ったら、アデルの「ちょっと、ロイド! なにするの?」という声。


 見ると、ロイドさんが、いきなり、アデルのお菓子の上をちぎって食べている。

 一体、なにをしているんだろう……?


 すると、ロイドさんは、やけにゆっくりとかんで、やっと飲み込んだと思ったら、   

アデルに向かって涼しい顔で言った。


「毒はありませんね。大丈夫です。どうぞ、アデル様」


 まさか、毒味とは……。


 しかも、毒味部分が大きすぎない?


 心配の気持ちが、毒味の量にあらわれているのかな。

 あまり大きくないお菓子の半分くらいしか残っていない。

 

 それも、一番おいしそうな、お砂糖がかかったてっぺん部分がまるまる食べられている。

 うん、僕だったら、ちょっと泣く。

 かわいそう、アデル……。


 でも、この行動は更にデュラン王子の心をひきつけたみたい。

 目の前のお菓子も、アデルのことも忘れて、ロイドさんしか目に入っていない。

 

 よし! このまま! 

 思いっきり、つきすすんで、ロイドさん!


 アデルは少なくなったお菓子をかみしめるように、ゆっくり食べている。

 ロイドさんは、そんなアデルの背後にぴったりと立ち、まわりに向かって視線で圧をかけながら、守っている。

 そして、デュラン王子は、そんなロイドさんに釘付け。


 アデルが食べ終わるまでは、このままだろう。

 僕は、急いでお菓子を食べ終えると、近くのお店に走った。そして、色々、甘いものを調達する。

 今日を無事に終えるためには、疲れた心への非常食として甘いものは絶対に必要だから。

 服のあらゆるポケットに、ぱんぱんに甘いものをつめこむと、やっと、一息ついた。


 ちょうど、アデルも食べ終わったので、また、歩きだす。


 が、歩いていると、女性たちのざわめく声が。

 女性たちの視線がデュラン王子に集中している。まあ、美形だもんね。

 

 ほんと、ユーリ兄様と一緒にいる時と同じで、まさにデジャブ。

 物語にでてくる悪魔とか魔王って、美形が多いのは信憑性があるなあ、と改めて思う。


 あっ、でも、まずい……。


 ロイドさんに釘付けだったデュラン王子が、元に戻ってきた。

 まわりにむかって、甘すぎて胸焼けしそうな笑顔をふりまきはじめている。


 早く、ロイドさん、なんとかして! 

 度肝をぬかれるような、過保護を発動して!


 と、思ったら、デュラン王子が、アデルに好きな花を聞いて、花屋に入っていった。

 嫌な予感しかないけど、とりあえず、落ち着こう。

 

 そうだ、甘いもの! さっき買ったばかりの非常用おやつが、早速、役立つ時がきた。

 僕は甘いものを食べながら、考える。


 そうしているうちに、デュラン王子が大量のピンクのバラの花束をアデルに買ってきた。


 きらきらした本物の王子が、バラの花束を本物の王女に渡すって、まさに物語みたい。でも、それを眺める僕の心はずっしりと重い。


 ユーリ兄様にばれませんように……。 

 

 という僕の願いも虚しく、「初めてのデートの記念に」なんて言いながら、デュラン王子が甘い空気を垂れ流している。


 いやいや、ほんと、やめて。

 デートだなんて言ったら、僕の命が危ないからね。


 デュラン王子が他人を気づかえる人だと思ったのは間違いだったかも。

 欲望に忠実すぎて、僕たちの存在が目に入ってないし……。


 更にやっかいなことに、アデルは喜んでいる。

 大きな花束にうもれて、恥ずかしそうにお礼を言っている。

 ダメだよ、絆されないで!


 デュラン王子は腹黒そうだけれど、アデルへの言動はユーリ兄様と違って、こじれていない。乙女心を簡単につかんでいる。

 

 まずいよね、これ……。


 どうしたら、ユーリ兄様の逆鱗にふれない方向にもっていけるんだろう?

 甘いものを食べながら考える。考える。考える。


 うん、無理だ……。

 僕はあきらめて、また、甘いものを口に放り入れた。


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